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低単価に揺れる町工場
東京・大田区 @ものづくりの危機
一部上場の企業から仕事が 仕事もドルも下がり続ける単価 |
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金属加工の技術が集積する東京・大田区。小さな町工場が軒を連ね、金属加工にかかわるあらゆる業種が集まり、区内全体に広大なネットワークが構築されています。80年代半ば以降、海外に出て行った仕事は、再び国内に戻りつつありますが、低単価が押し付けられ、原材料の高騰が経営を圧迫しています。大田区のものづくりと下請け単価の問題を3回シリーズで追います。
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池田さんの工場でものづくりの技術を学ぶ孫娘の悦子さん |
「自社ではどうしてもできない。大田区内で請けてくれないだろうか」‐。埼玉県内にある一部上場の企業から町工場に相談がきたのは5月に入ってからのことです。設備投資関連の一品ものの仕事で、機械加工から仕上げまで1社でできる仕事ではなく、さまざまな技術の共同が必要。町工場の社長は何人かの知り合いに連絡を入れ、請け負うことにしました。
蒲田民主商工会(民商)の池田清さん(75)=機械加工=も仕上げ加工にかかわった一人。「ここ最近、大手企業やメーカーから一品ものや試作品の仕事が増えている」と言います。「大量のリストラで大企業には技術者がいなくなっている。併せて、大量生産に対応できる設備はあっても、一品ものの設備はない。だから、金属加工の技術が集積している大田の町工場に回ってくるのでは」と池田さんは話します。
全日本造船機械労働組合三菱重工支部の久村信政書記長は「大企業は技術やブランドで世界と勝負するのではなく、コスト競争を選んだ。そのために安い労働力を求めて生産を海外に移し、同時に、技術者や現場の労働者を社員から下請けや派遣労働者に切り替えてしまった」と指摘します。
ところが、低コストでも海外製品は不良品が多く、品質が保証できないという問題に直面しました。ものづくりを再び、国内に戻す動きを強めた一つにはこうした背景があります。しかし、すでに大企業は技術力が低下し、技能継承も困難になっていました。しかも、一品ものに設備をかけるのは「無駄」という発想が、技術力をさらに低下させています。
大企業からの発注を含めて町工場に仕事が戻ってきたのは歓迎すべきことですが、問題は安すぎる下請け単価です。「大企業がすべてをコストで計ろうとする方向は変わっていない。だから、韓国や中国並みの単価を日本の下請け業者に押し付ける。これが日本のものづくりをつぶす最大の要因」と久村さんは強調します。大田区内では80年代に9000余りあった工場がこの二十数年間で約4700になり、毎年、10%の規模で減っていると言われています。
大企業は生産拠点の海外移転と国内工場の地方集約を進め、下請け業者の仕事は激減。それでも、区内には大企業の研究所などがまだ残され、試作品や一品ものの金属加工が町工場に発注されています。しかし、低単価の押し付けで、廃業・倒産に追い込まれる業者が後を絶たず、若者が後を継ぐこともできません。不況の波を何度も乗り越え、「大田に頼めば、できない金属加工はない」と言われるほどのネットワークを維持してきた集積地が、再び危機に直面しています。
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