事業経営ホントのトコロ=味を守り地域に恩返しを
三重・四日市民商
田部展敬さん=イタリア料理
「いつか父親の料理の味を超えてみたい」―。小さいころから料理を作るのが大好きだったという三重・四日市民主商工会(民商)の田部展敬さん。名古屋市での8年間の修業の後、両親が経営する「スパゲティーのお店・田部」を継ごうと27歳で実家へ。父・孝一さんの交通事故、店舗火災などの困難に直面しましたが、家族が力を合わせて乗り越え、30年以上守り続けてきた店の味を受け継ごうと頑張っています。
父親の料理の味が大好きで
「イタリアン」を調理する展敬さん
グリーンピースにマッシュルーム、赤いウインナーがスパゲティとトマトケチャップに絡み合い、丸い鉄板を鮮やかに彩ります。その上から溶き卵をかけると「ジュワァッ」。半熟のままでお客さんへ提供する、その名も「イタリアン」。今年6月18日に復活オープンを遂げた「スパゲティーのお店・田部」の看板メニューです。
1階は「昔ながらの喫茶店」のイメージを残し、2階は本格的なイタリア料理を提供する「CASA TABE」としてアットホームな店に仕上がりました。
事故と火災で廃業の危機に
父・孝一さんが喫茶店を開業した当時からの「イタリアン」の味が評判になり、地域に愛される店として、38年間、営業を続けてきた「田部」。修業を終えた展敬さんが店を手伝うようになり、店はますます忙しく。ランチタイムには「イタリアン」が1日60食から70食分も出るほどでした。
しかし、02年、孝一さんが交通事故で大けがを負い、厨房に立てなくなりました。さらに07年9月には、近所の店からの出火で田部さんの店舗も被害に遭い、取り壊すことに。再開が困難かと思われましたが、近所で居酒屋を経営している展敬さんの中学時代の同級生が「昼間の時間は店を閉めているから使わないか」と声をかけてくれ、07年11月に仮店舗での商売を再開することができました。
夜には友人の居酒屋でバイトし生計を立てていた展敬さん。一緒に店をやりたいと話していた弟・佳史さんとともに、火災で焼けた跡地での店の再建に向け奮闘しました。
新しい店舗の内装や業者とのやり取りは佳史さんが担当。火災から約3年後、展敬さんたちは、念願の店を再オープンすることができました。
父親めざして名古屋に修業
小学生のころから料理を作るのが好きだった展敬さんは、父・孝一さんが料理をする姿を見て育ち、いつかは店を継ぎたいと考えるように。「自分も父親のような料理人になりたい。『田部の味』を自分でも作りたい」と思っていました。
その夢は、高校生になっても変わることなく、18歳で単身、名古屋のイタリア料理店へ修業に。孝一さんが「うちの店を継ぐなら、外でもまれて来い」と半ば強制的に外に出したのでした。
「商売で苦労させたくなかった」という母・冨貴子さんの心配をよそに名古屋での修業の日々。
本格的なトマトソースを食べて
「トマトソース」といえば「ケチャップ」しか知らなかった展敬さんは、賄い料理で初めてトマトソースで調理した本格的なイタリアンパスタを食べて感動。腕を磨くべく下働きから厨房に入り、8年間、本格的なイタリア料理を学びました。そして27歳の時、結婚を機に四日市に戻り店を手伝うことになりました。
父親と同じ材料使い作ったが…
修業の成果を見せるつもりで、父親と同じ材料を使って「イタリアン」を作っても味が違います。「フライパンの振り方、火加減、調味料を入れるタイミングの違いで味も変わりました。古くからの常連客は一口食べただけで、誰が作ったか分かります」と展敬さん。孝一さんの味になかなか近づけなかったと語ります。
「親父の事故や火事の時は多くのお客さん、地元の人たちに支えられた。自分の果たす役割は『田部の味、イタリアン』を守ること、それが皆さんへの恩返しですし、夢です」と笑顔で話します。
感謝の気持ちで
母・冨美子さん
「イタリアン」を手に展敬さんと母・冨貴子さん(左)、弟の佳史さん
展敬は小さいころから手先が器用でした。弟の佳史は商売上手で新しいことに挑戦します。お互い自分にないところを補いながら頑張っています。
父親が事故に遭ってすべてを任されて本人もプレッシャーがあったと思います。何十年来の常連さんが、展敬が作った「イタリアン」を食べて「お父さんと同じ味だね」と言われたときは、肩の荷が下りました。
多くの人たちに支えられている。その感謝の気持ちをいつまでも忘れないでほしいです。
使えるinfo
リコピン
トマトケチャップ、ソースに使われるトマト―。
トマトには「リコピン」という栄養素が含まれています。トマトの赤い色素でカロチノイドの一種。「リコピン」には強い抗酸化作用があり、生活習慣病の予防に役立ちます。
「リコピン」が多く含まれているのは、特に赤系トマトです。スイカなどにも含まれています。
普段私たちの食卓に並ぶ生食用のトマトはピンク系といわれる物で、トマトジュースやケチャップなどの加工品等に使われているのが赤系トマトです。ピンク系トマトは糖分が高いのが特徴。赤系トマトはピンク系トマトよりもリコピンを多く含んでいます。
ファイル
「スパゲティーのお店・田部 TABE」
1972年、父・孝一さんが5年間働いていた四日市内の喫茶店から独立し開業。母・冨貴子さんは当時から孝一さんと一緒に店を切り盛りしてきました。
事故の後、孝一さんは、体調の良いときは厨房に立ち、展敬さん、弟・佳史さんと腕をふるっています。
場所=三重県四日市市諏訪栄町19の5
Tel=059・351・4495
定休日=月曜日(祝日の場合は翌日)
最寄り駅=近鉄四日市駅北口
|