55自治体にまで広がった店舗リニューアル助成制度。住宅リフォーム助成制度は前回調査より減少したものの、600自治体を超えています。業者も地域も元気にする制度は、経済効果の点でも注目されています。二つの助成制度の広がりが示しているのは、大企業誘致一辺倒ではない、地域に目を向けた循環型経済への転換です。
店も住まいも新しく=岐阜県・美濃加茂市
「遠足に行く前日のような気分です」。笑顔いっぱいに話すのは、岐阜県美濃加茂市内で、野菜や果物などの卸、フードセンター「カネミツ」を経営する北川光男さん、としゑさん夫妻。岐阜・中濃民主商工会(民商)の41年来の会員です。
美濃加茂市の制度を利用して住宅・店舗を改装する中濃民商の北川光男さん、としゑさん夫妻
積極的な活用呼び掛け=中濃民商
北川さん夫妻は、2階建ての住宅・店舗の改修にあたり、市の「小規模企業者事業所整備等補助金」(店舗リニューアル助成)と「住宅工事等補助金」(住宅リフォーム助成)の二つの制度を活用し、5月下旬からリフォーム工事に取り掛ります。
「居住部分の2階のトイレを洋式にして、風呂と洗面台も設置して、1階の事務所を兼ねた店舗には台所や休憩室も新たに作って…。もう考えるだけでワクワクしています」と、としゑさん。
工事費用は700万円。二つの助成制度によって、店舗リニューアルで50万円、住宅リフォームで10万円の計60万円が助成されます。
市の助成制度を知ったのは、新聞広告で目にした「住まいの相談会」。有限会社共栄住建(美濃加茂市、船橋好文社長)が開いていた相談会で、船橋社長は、制度を丁寧に説明。「補助制度のある今がチャンス」「見積もり無料」と聞き、仕事の依頼を決めました。
52年前の1964年に店をオープンした光男さん。翌65年にとしゑさんと結婚。資金繰りが大変で親戚に頭を下げたこともありました。病気がちだったとしゑさんは6回の手術も経験しています。住居一体となった店舗部分は修理をしたものの、住まいの部分は一切手つかず。店も二人の結婚生活も半世紀を超えました。
「苦労しました。でもこの店があったから、信用をつくり上げ、3人の子どもたちを育て上げることができた。リフォームは私たちの新しい出発でもあるんです」
二人のスタートを後押しする美濃加茂市の助成制度。実は制度の創設にもちょっとした“歴史”がありました。
交通の便が良い上、地盤が固く、水も豊富という地の利をアピールし、“地域活性化”のため、同市は大手企業の工場を積極的に誘致。ところが、07年には富士通の子会社の半導体工場、12年には日立のテレビ生産の打ち切り、そして12年10月、ソニーが市に事前に知らせることなくホームページ上で、13年3月で工場を閉鎖することを突然、発表しました。
「本当に痛い目にあいました」と、市産業振興課の長尾陽一郎係長は振り返ります。「大きな企業を誘致すれば地域は安泰」と考えてきた市は、「大きな企業ほど海外展開したり、工場を整理統合したり、そして最後には撤退する」現実に直面したのです。
市の担当者も発想を大きく転換。地域の既存企業に目を向けた政策が必要、地域内でお金を循環させる施策はないか、材料もできるだけ地域で調達できるものはないか、そしてインパクトのある政策はないか―。
“商店版リフォーム”をすでに実施していた群馬県高崎市にも問い合わせて、創設したのが美濃加茂市の事業版リフォーム=「小規模企業者事業所整備等補助金」でした。
14年4月に創設された同補助金は、市内の振興や活性化のため市内の小規模事業者や市内で新たに店舗、事務所、工場の改修・新築を市内の施工業者に依頼する場合、市が補助金を交付するもの。目指したのは「商工業者の目線に立った使い勝手のいいもの」でした。
工事及び備品購入を含めて上限は100万円(30万円以上の工事で、工事費の3分の2を補助。工事に伴う10万円以上の備品購入の場合、半額を補助)で、当初予算として4000万円が計上されました。
「これが大好評で1カ月で申し込みがあふれる」ほどに。補正予算も組んで、1年目の助成額は7800万円(95件)を超え、総工事費は約1億4800万円となりました。
2年目となった15年は「もっと多くの業者に使ってもらおう」と、新規創業の場合を100万円に据え置く一方、既存業者の助成額を上限50万円に変更。助成総額は3700万円、総工事費は約9400万円(85件)でした。
16年度も15年度と同じ枠組みで実施している美濃加茂市。同市が11年1月に創設した「住宅工事等補助金」(住宅リフォーム助成、20万円以上の改修工事で工事費の10%補助、上限10万円)は、ことしで6年目を迎えています。
中濃民商は、住宅リフォーム助成制度の創設時には、市内建設業者170人に呼び掛けて説明会を開き、事業所リフォームが創設された時もチラシを作り、その活用を訴えてきました。
大手企業の相次ぐ撤退の中で、地域と業者に元気を与えた事業所リフォーム。中濃民商の小森裕之事務局長は言います。
「多額の税金をかけて大手企業を誘致することが地域経済を活性化したのか。真剣に研究・分析することが、新しい地域活性化策につながっていくのではないか」
少ない予算で大きな経済効果
制度拡充へ運動強め=民商・県連
山形県が試算
2011年4月にスタートして6年目を迎える山形県の住宅リフォーム助成制度。市町村に予算を配分し、各自治体のリフォーム助成を県が支援するものですが、その経済波及効果は一般の公共工事と比較しても高いことが県の試算などで判明。地域経済を活性化させる施策としてあらためて注目されています。
山形県のリフォーム助成は「住宅リフォーム総合支援事業」として位置付けられ、良質な住宅ストックの形成、県内の中小企業振興などを目的に、(1)住宅リフォーム(2)新築(3)人材育成・住宅産業―を支援するものです。
このうち住宅リフォーム支援は一般型(部分補強、省エネ、克雪化など)、人口減少対策、耐震改修の三つに分類。「部分補強」(補助率10%、上限20万円)は幅広い工事が対象ですが、県が定めた「基準点」で計算するなど、複雑さも指摘されています。
それでも県が制度を創設したことで、県内の35市町村すべての自治体で住宅リフォーム助成制度が創設されました。独自に制度を創設していた自治体では、自主財源を上乗せして活用。16年1月現在、35自治体中、23自治体が自主財源を上乗せしています。
県の制度創設で、県内のリフォーム件数も増加。制度創設前の08年時点では年間1万5780件でしたが、13年には1万8600件と約3000件も増加。制度創設以来の利用件数は1万8000件を超えています。
注目されるのは、住宅リフォーム助成の経済効果です。
県が事業開始から3年間の実績を試算したところ、住宅リフォームのための融資などを含めると、工事総額583億円に加え、波及効果194億円の計777億円に上りました。
3年間で県が投じた事業費は28億円。100億円の経済効果を生み出すためには、3・6億円が必要となりますが、一般の公共事業の場合、24億円と試算しており、住宅リフォームは少ない予算で、大きな効果を上げていることが明らかになっています。
県の担当者は住宅リフォーム助成について「県民の評価も高いし、経済効果も高い。影響力の大きい制度だと考えている」と評価します。
制度創設に当たり、県知事にも直接要望を繰り返してきた山形県商工団体連合会(県連)。遠藤強会長は「使い勝手のいい制度という点からいえば、県の制度はまだまだ改善の余地は大きい。しかし一般の公共事業と比べ、住宅リフォーム助成は大きな効果があることがはっきりした。市町村レベルから県レベルでの助成制度に広げていくこと、また、住宅だけでなく店舗・工場にも制度を拡充していくことが地域経済を活性化させていく大きな力になる」と話しています。
適正価格で好循環を=宮崎 康徳さん(公益社団法人福岡県自治体問題研究所)
適正価格で中小企業に発注した方が地域内経済に好循環をもたらす―。福岡県自治体問題研究所の宮崎康徳研究員が、住宅リフォーム助成制度の経済効果を分析する中で、導き出した結論です。宮崎研究員は、分析結果を基に、同制度の継続・拡充を呼び掛けています。
地域経済活性化の効果は大きい
市町村・都道府県・国による住宅リフォーム助成制度が本来の目的である住居環境の向上ばかりではなく、地域経済への波及効果が大きいことは、これまでの実績から実証ずみです。
地域によって違いはありますが、大体、助成額の15倍以上の投資(工事総額)がなされ、それが及ぼす波及効果が2倍前後に上るためです。
通常の公共事業の場合は、全部が財政資金、つまり税金です。一方、住宅リフォーム助成は9割前後が個人資金によっています。また助成制度があるから、「リフォーム工事を早めた」「工事を増やした」という需要喚起も促しています。
建設業の事業所数は全国で、58万3600です(09年調査、図1)。
地域内の小規模企業への発注が地域内消費を高める
従業者規模では、1〜4人が55%、5〜9人で26%で、30人未満の事業所まで加えると97%。中小規模の企業が圧倒的な多数派です。しかし、規模間の格差は歴然としています。福岡県を例に、建設業の規模別の状況を見ましょう(図2参照)。
完成工事高1億円未満の企業は、県内の全企業平均を100とすれば、従業員1人当たりの完成工事高で48(1672÷3455×100)、同付加価値で59(410÷699×100)になります。そのことを労務費について調べると、公共工事の設計労務単価(国土交通省発表、16年2月)による県内の大工さんの1日(8時間)の労務費が約2万円であり、それは年間250日稼働で500万円になるにもかかわらず、現実にはその6程度の320万円(図2の1億円未満の従業員1人当たり付加価値410万円に労務費割合80%=注=を掛けた額)と推計されます。
これらの企業の付加価値が低い背景としては、直接受注の割合が小さいこと、すなわち下請け受注割合の高さがうかがわれます。単純に言いますと、500万円の給与が、単価たたきやピンハネによって、下請け業者は320万円にまで切り下げられている、というわけです。
そこで、住宅リフォーム助成制度や公契約条例などによって、同じ金額の建設工事でも小規模建設業が直接受注できれば、収益性向上→給与増加→消費拡大という好循環が生まれることになります。
このことを福岡県産業連関分析ツールで試算すると、10億円の工事について、給与増加分は1億5000万円余に相当し、そのうち1億円が消費され、1億2700万円の地域内生産を拡大することが分かりました。
住宅リフォーム助成制度の拡充と持続を
14年6月に公布・施行された小規模企業振興基本法は、国・地方公共団体等による小企業支援施策の基本計画を定めることを義務付けています。小規模の建設業の経営改善はその柱のひとつになるべきものです。
その手法としては、官公需法による中小企業への発注割合を一層引き上げること。公契約条例等の制定により、労務費の適正な支給を確保すること。そして、住宅リフォーム助成などにより、建設業への需要を喚起する政策を拡充し・持続することが期待されます。
住宅リフォーム助成は、住民生活の基礎の一つである居住空間の維持向上を通じて、安全安心の確保、省エネ、それ以上に、人材・雇用の確保、地域資源の活用等に寄与することができるという点で、公共関与が期待されます。あわせて、「ものづくり」を担う第1次産業第2次産業を通してみると、建設業は、製造業についで、あるいはそれに匹敵する従業者数を維持しており、地域内に住宅等メンテナンス技術の維持向上を期待することができます。
(注)建設業の原価・付加価値分配構成比=図3=を基に計算。図の雇用者所得39を完成工事高(100)から外部購入費(50)を差し引いた50で割った割合。
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全国商工新聞(2016年5月23日付) |