仕事増でみんな元気 住宅リフォーム促進事業=宮古市
「忙しくてカラオケにも行けない」‐。大工さんからこんな“悲鳴”も上がるほど、新しい仕事をつくりだしている岩手県宮古市の住宅リフォーム促進事業補助金。スタートから2カ月で、申し込み件数は1132件と、総世帯数(約2万4000世帯)の5%に迫ります。その秘密はどこにあるのか。ウニ漁が始まった三陸・宮古を訪ねてみると…。
「市民の目線でつくられている」「下請け業者に直接仕事を出しているのがいい」「本当に仕事が回っている」‐。訪れた市内の建設関連会社・団体の役員がそろって口にする住宅リフォーム補助制度への評価です。
市民から大反響
4月からスタートした宮古市の補助制度は、当初500件(5000万円)の予定がわずか2週間で431件の申請が出され、急きょ500件を追加。6月議会で、市はさらに1500件を追加する予定で計2500件、2億5000万円の予算規模になります。
|
「みんなが元請けになるような制度をめざした」と話す山本正徳市長 |
|
「インパクトのあるドンピシャな施策」と話す北村順正宮古地区建設業会会長 |
地域内循環が
「ひとつの施策でこんなに市民から反響があったのは初めてですよ」。山本正徳市長自身、驚きを隠しません。
制度設計にあたり市が苦心したのは、業者のニーズと市民のニーズを結ぶことと制度の使いやすさ、そして「お金の地域内循環」でした。宮古市では、年間50億円の普通建設費があるものの、仕事の大半を請け負うのは大手建設会社。市内の業者は下請けに入るだけで、地域経済の活性化に十分つながらなかったからです。
「市内の中小業者が元請けになるような制度はできないか」‐。
4回にわたる庁内での検討会議の結果、創設したのが「20万円以上の工事に10万円の補助制度」でした。「民商さんからも数年前から制度創設の要望があった。そうしたことも大きな力になりました」と、山本市長は振り返ります。
20万円の設定が
「20万円という設定がよかった」と話すのは市内トップクラスの建材店社長。「職人が手をかける仕事に対する補助。だから広がった。画期的ですよ。予算が生きたお金になっている」と歓迎します。
市がまとめた「施工数上位業者」(表1)によると、トップは畳店で42件。業種も工務店、屋根塗装、板金、水洗化と多彩。工事金額別(表2)でも、「20万円から40万円」までが770件と、工事総数(1132件)の約7割を占めています。
「ちょっとしたリフォームをしたいと願う市民の声に応え、中小業者が元請けとなってその仕事を受注する。業者、市民にとってピンポイントでドンピシャの制度。地元業者に仕事とお金が回り、経済波及効果も大きい」と岩手県宮古地区建設業会の北村順正会長は強調します。
工事数の上位にランクする畳店社長も「普段だと畳替えは10万円程度の仕事。しかしこの制度ができたことで、グレードの高い畳に変えたり、一気に和室全体の畳替えをする人が増えている。仕事量は昨年の2倍。お客さんも喜んでいます」と声を弾ませます。
申請書も簡単に
補助金の交付申請書なども業者が簡単に代行できるよう、記入例を示し「使いやすさ」を追求。施工主の税の完納証明についても、個人情報の取得欄の「同意する」にチェックをもらえば、市が納税状態を確認できるようにしました。市主催の説明会も4カ所で実施(延べ60人が参加)。これを受けて業界団体や業者が独自にビラを作成し、営業活動を展開したことも制度の活用が一気に広がる力になりました。
宮古建設組合の鈴木勇平組合長は「私も20件ほど受注した。すごい反響でリフォームを望む市民がいっぱいいる。歩けば仕事が生まれる。行政が仕事の後押しをしている官民一体の素晴らしい制度だ」と笑顔。
20件のリフォームの仕事を受注している民商会員(大工)は「仕事が一気に増えた。やる気満々だけど、仕事が多くてカラオケにも行けない」とうれしい悲鳴。そしてこう強調しました。「みんなが元気になる制度。1年限りで終わるのはもったいない。ずっと続けてほしい」
▼宮古市住宅リフォーム促進事業補助金 20万円以上の住宅リフォームに対し、10万円を補助する制度。補助期間は10年4月から1年間(予定)。対象は市内の集合住宅を含む居住用住宅のリフォームで、中心となる事務所や本店を市内に有する施工業者に工事を依頼することが条件。内容は(1)CO2の削減(2)生活への支障改善(3)水洗化(4)災害対策(5)住宅の長寿命化‐を目的としたもの。屋根塗装や畳替えをはじめ、洗面所、換気扇など機器の更新経費も含まれるなど、幅広い工事が対象。
|