改正都市計画法の施行(11月30日)を目前に控え、長崎県長与町ではイオンモール(本社・千葉市)が駆け込み出店をしようとしています。同社は都市計画法(32条)で義務付けられている道路管理者の同意を得ないまま9月21日、長崎県に対して「開発許可申請」の提出を強行しました。県は受け取りを拒否。ところが、イオン側は申請書の副本を置いて立ち去りました。長崎民主商工会(民商)も参加する「長崎・長与大型SC出店を考える会」は9月27日、県と交渉し、「出店は不許可にすべき」と県の姿勢を厳しく問いただしています。
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長崎県と交渉する「考える会」のメンバー |
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イオンの出店予定地。広大な農地が広がっています |
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断固とした姿勢を県に求める出口さん |
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出店阻止へ最後まで頑張ると決意する林田さん |
「考える会」の交渉では開発許可申請書について「県は受理していない。長与町では申請が不受理になっている。その理由を文章で回答するように求めており、それを見て県として判断したい」と回答しました。
イオンに対して県は、建設予定地周辺の道路を管理する県と長崎市、長与町の事前同意を得ることと、都市計画法の開発行為に関する県の細則に基づいて、建設予定地の市町村を通じて申請書を提出するように指導しています。
町長も不受理に
出店に賛成していた長与町が申請を不受理にし、葉山友昭町長は9月議会で「出店は厳しい状況にある」と発言しており、「考える会」をはじめとする運動がイオンを追い詰めています。
出店計画が明らかになったのは05年11月。長崎市に隣接する長与町の市街化調整区域を開発し、延床面積19万5000平方メートル、店舗面積7万4000平方メートルの超大型施設を建設するというもの。4150台の駐車場を確保し、スーパー、飲食店、書店、大型映画館などを開設する予定です。規模は県内最大で長崎市内にも重大な影響を与えます。
長与町は「町全体の活性化のきっかけになる。できる限り協力していきたい」といち早く賛成を表明したものの、中小商業者・住民の反対運動は町を超えて一気に広がりました。
「厳しい経営が続いている中でイオンが出店すれば、商店街は壊滅的打撃を受ける。しかも、建設予定地は片側1車線の道路が2本通っているだけで今でも朝、夕は交通渋滞を引き起こしている。周りには学校も多く、環境問題も心配。駆け込み出店は絶対に許せない。県は断固とした態度を示すべき」。長崎市住吉中園商店街振興組合理事の出口美春さん(54)=玩具店=は強い口調で話します。
同商店街は200件が軒を連ね、生鮮3品をはじめ生活関連用品や雑貨などがそろう、市内一番の目抜き通りです。建設予定地からは直線距離でわずか2キロ。イオン出店は死活問題で、商店街あげて反対しています。
商工会も動く
長与町商工会は「地元商業の衰退・廃業が相次ぐ」として出店計画の見直しを町に迫り(06年3月)、県商工会連合会など中小企業4団体も「広域的な商業、都市機能や構造に影響を与え、自然環境破壊や交通渋滞、教育環境の悪化が心配される」などとして反対を表明(06年5月)。長崎市の五つの商店街関連団体が出店反対の署名にとりくみ、市に反対するよう求めました(06年7月)。長崎民商と西彼民商は昨年7月、共同で市と懇談。出店反対の要望書を提出しました。
しかし、イオンは都市計画法に基づく事前審査を県に申請。事前同意を得るために県や長与町と協議するとともに、道路混雑の問題を議論するため長崎市を含めて交通協議会を設置しました。イオンは自費で道路を拡幅するとの対策を打ち出しましたが、県と長崎市は不十分と主張。
こうしたなかで長崎市は県に開発を許可しないように要望書を提出(06年11月)し、交通渋滞を招き、教育環境、既存の商店街にも多大な影響を与えると指摘しました。
考える会を結成
長崎民商は昨年11月28日、教育関係者や労働者、住民ともに「長崎・長与大型SC出店を考える会」を結成。県や市、長与町などへの働きかけを強めるなかで、金子原二郎知事は12月の県議会で、地元商業の衰退・渋滞が予測され、まちづくり3法改正などの観点から「好ましくない」と答弁しました。
長崎市は8月27日にも再度、金子知事に対して「長与町における大型商業施設の開発計画に係わる対応について」の政策要求書を提出し、「郊外への大型店の出店を規制するなどとした『改正まちづくり3法』の趣旨を踏まえ、周辺市町との十分な協議をおこなうとともに、当該開発に係わる許可をおこなわないように」と要求。イオンの出店には断固反対を貫いています。
必ず断念へ
改正都市計画法の施行まで2カ月を切り、出店を断念させるためには、もうひと回りの世論と運動が必要です。城栄商店街振興会理事の林田耕一さん(63)は「これ以上の大型店は必要ない。われわれの地域は高齢者が多く、この商店街は生活の拠り所になっている。イオンが出店すれば、高齢者の生活も成り立たない。予断を許さない状況だが、出店を断念させるため最後までたたかう」と決意を語っています。
焦りといら立ちか
考える会の代表 長崎大学准教授 吉田省三さん
都市計画法32条の「同意」を得ない開発許可の申請は、イオンの担当者自身が「初めて」と言っているように異例中の異例です。新法の施行が直前に迫ったため、焦りといら立ちを見せているのだと思います。
長崎県はイオンの申請を県の「細則」に従っていないことを理由に「預かり」としたようですが、受理、不受理を決めないまま申請書を放置するのは違法な行為となる恐れがあるので、行政手続法7条に定める手続きに従い、ただちに許可の拒否をすべきです。申請の補正を求めても、期間内に申請の形式上の要件を満たすことは不可能だからです。
今回明らかになったイオンの主張に、交通渋滞は都市計画法32条の同意の対象外というこれまた異例な法解釈があります。交通施設は都市計画の主要な方針の一つであり、開発許可にあたり計画が区域の交通機能に与える影響を判断することは当然のことです。 |