蔵の街で活気――埼玉・「小江戸」川越市の実践
地域資源を生かし観光でまちおこし
蔵づくりの街並みで知られる埼玉県川越市。いたるところに歴史的な建造物が残され、古くから「小江戸」と呼ばれています。特産品のサツマイモを使った伝統的な菓子作りも盛ん。訪れる観光客は年間600万人を超えています。「観光」という視点でまちづくりを考えるようなってから半世紀。商店街が一時は衰退し、どん底の危機に直面しましたが、商店主らの努力で見事に再生。観光のまちづくりを発展させています。
商店街が再生、観光客は年600万人に
蔵づくりの店舗が立ち並ぶ川越一番商店街。手前が「陶舗やまわ」
川越のシンボル「時の鐘」
小江戸川越観光協会の粂原恒久会長
JR川越駅から2キロほど北へ進むと、巨大な屋根瓦に観音扉のどっしりとした蔵づくりの建物が目に飛び込んできます。80軒が軒を連ねる川越一番街商店街。通りの中ほどには400年近く時を知らせてきた川越のシンボル「時の鐘」があります。商店街と並び多くの観光客が足を運ぶスポットです。
川越市の観光事業を担ってきた「小江戸川越観光協会」は昨年秋、50周年を迎えました。「江戸時代から昭和初期まで新河岸川を利用して江戸に物資を運び、生活と文化を支えてきた。先人たちはその歴史を全国に発信するため、いち早く観光事業を発展させようとした。その先見性があったからこそ今がある」と粂原恒久会長は振り返ります。
徳川家光や春日局にゆかりのある喜多院をはじめ多くの重要文化財が残されている川越市は、東京都心から電車で1時間足らずと地理的条件にも恵まれ、日帰り観光地として徐々に人気を集めました。89年のNHK大河ドラマ「春日局」に続いて、09年に放映された朝の連続小説「つばさ」が追い風となり、観光客は急増。「行政も民間組織も観光に力を入れている。二つの融和の拠点としての役割を果たしたい」と粂原会長は話します。
「観光事業の発展に寄与しているのが「蔵の会」。「一番街商店街ににぎわいを取り戻そう」と若手店主らが集まり、83年に発足したものです。現在、代表理事を務めるのは「陶舗やまわ」代表取締役の原知之さん。「単なるみやげ物屋ではなく、大人の鑑賞に堪える専門店になることをめざした。スローガンは『めざそう全国区』」と自信を持って話します。
サツマイモを使ったイモ菓子。観光客に人気です
嫌われた蔵を積極的に活用
まちの再生には、紆余曲折がありました。昭和50年代に入ると中心が駅周辺に移動し、商店街は衰退の一途をたどりました。当時、蔵づくりは「古めかしい」ととらえられ、建物をビニールの看板で覆い隠す店や取り壊す店がありました。
その一方で蔵づくりの街並みを保存しようとする動きをつくりだしてきた「蔵の会」は若手経営者、研究者、建築家などが集まり、商店街の活性化のために蔵を活用することを決めました。
菓子の甘い香りが漂う「菓子屋横丁」
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伝統的なイモ菓子を作り続ける長井和夫さん
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芋うどんを開発した戸田周一さん
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89年に商店街が県の観光市街地形成事業に指定され、助成金を受けながら少しずつ蔵の街並みを再現。99年には国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、一気に店舗整備が進み、現在の街並みが完成しました。
一番街商店街が再生すると商店街を横道に入った「菓子屋横丁」もにぎわいを取り戻しました。通りに入るとハッカやニッキあめ、団子、駄菓子の甘い香りが漂ってきます。
ライバル同士も助け合いの精神
同横丁会長で稲葉屋本舗を経営する長井和男さんは「同業者はライバルだけど助け合いの精神が大切。『ありがとうと言われるように、言えるように』との気持ちが大事」と強調します。
昭和初期には70軒あった店は、現在は21軒に。戦後までは菓子の卸が中心でしたが、卸だけではやっていけず、次つぎと廃業に追い込まれました。再生をかけ、20年ほど前から菓子を製造・販売。菓子屋横丁を守ってきました。「『おいしかったよ』『こんな菓子がほしい』とお客さんとの会話が生まれ、菓子作りにも張り合いが出たね」と長井さん。今もイモドーナツ、イモまんじゅうなどの特産の川越イモを使った菓子作りに励んでいます。
川越イモを使い新商品を続々と
「川越イモ」を使った商品開発を進めているのは、「川越サツマイモ商品振興会」。せんべい、ようかん、アイス、うどん、パイ、プリン、ケーキ、懐石…。イモを使った商品の種類は数え切れないほど。同振興会会長の有限会社戸田製麺代表取締役の戸田周一さんは「芋うどん」を開発しました。
「『川越おいも自慢マップ』を作り、全国に発信。10月13日を『サツマイモの日』とし、この日に『さつまいも地蔵尊』のある妙善寺でまつりを行っている」とイモを資源としたまちおこしに、戸田さんは手応えを感じています。
夏期研究集会が
全商連付属・中小商工業研究所が主催する「第9回夏期研究集会」が9月11、12日の両日、川越市で開かれます。歴史と文化が薫る川越のまちを訪れ、まちづくりの息吹にふれてみませんか。
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