原発事故の完全賠償める
「必要な対策怠った」尋問で専門家指摘=福島生業訴訟
福島地裁へ向かう原告団
東京電力福島第1原発事故の被害者約4000人が、国と東電を相手に原状回復と慰謝料を求めている「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟、中島孝原告団長)の第10回口頭弁論が1月20日、福島地裁(潮見直之裁判長)で開かれ、原告側が求めた専門家の証人尋問が行われました。同様の訴訟が全国19地裁で提起されていますが、専門家の証人尋問が行われたのは生業訴訟が初めて。
証言したのは、原子力技術・規制の専門家で日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)元研究員の舘野淳氏、県内の母子アンケートをもとに放射線量と健康の関わりについて調査をしている成元哲・中京大学教授、航空機モニタリングをもとに放射性物質の汚染状況を把握する沢野伸浩・金沢星陵大学女子短大教授の3人。
舘野氏は、日本の原発は米国の原子力潜水艦用に開発された軍事技術をもとにした軽水炉で、冷却システムに致命的弱点を持ち安全性に大きな問題があったにもかかわらず、それを無視して大量の原発を建設してきたことを指摘。
その上で、福島原発が立地審査指針のみで設置許可され「古いタイプの原発にもかかわらず、安全装置の改良・改善もほとんど行われず、地震などの外部要因事故に関する真剣な検討もされなかった」と証言。シビアアクシデント(過酷事故)対策については「国は規制要件としてではなく、事業者の自主的な対応に任せ、その方針を見直しておらず、事業者、特に東電の対応はずさんだった」「規制当局が、推進する経済産業省の下にあり、独立の立場で規制できず業界の反対を押し切れなかった」と語り、国と東電が事故を予見しながら必要な対策を取ってこなかったことを明らかにしました。
成元哲氏は母子アンケート調査結果をもとに「他の公害と違い放射能被害は見えにくい」とした上で「放射線量だけでなく、心理社会的要因が相互に関連している」と証言。放射線量の高さだけで被害が決まるわけでない、と語りました。沢野氏は原告の居住地や市町村ごとの汚染状況を明らかにしました。
原告側が求めていた他の2人の専門家の証人尋問について、裁判所は「留保」しました。次回弁論は3月24日。国と東電が専門家に対する反対尋問を行います。
「営業賠償の継続を」実態訴え東電に要請=福島県連など
経済産業省と東京電力が福島第1原発事故で被害を受けた商工業者に対する賠償を2016年2月で打ち切ると表明した問題で、福島県商工団体連合会(県連)も加入する「ふくしま復興共同センター」は1月16日、撤回を求めて緊急要請を行いました。
民主商工会の25人を含む41人が参加し、東京電力福島原子力補償相談室の竹元一義部長などに「被害者切り捨ては許さない」と厳しく迫りました。
「中間指針」では、営業損害の終期について『基本的には被害者が従来と同等の営業活動を営むことが可能になった日を終期とすることが合理的』」としていることを示し、参加者は打ち切りの根拠を明らかにするよう要求しました。
担当者は「各種統計資料で収束傾向が見られること」「ダム建設などの公的収用の営業補てんは2年であり、すでに4年の補償を行っている」「指針では営業や就労の再開に向けた努力が期待される」とし、「グループ補助など支援も行っている」ことなど打ち切りの理由を説明しました。
参加者は「震災から1年間は『見舞い客』があったが、それ以降売り上げは全く上がらない。周りの業者も同じ状況で、賠償がなくなったら商売は続けられない」(ペンション)、「風評被害が続いて、取引先の業者は他に行ってしまい帰ってこない」(縫製)などと実態を告発し、打ち切り素案の根拠となったデータや聞き取り内容の明示を求めました。
担当者は「風評被害がまだあることは承知している。厳しい実態は聞かせていただいたので、できる限り要望に添えるよう汗をかきたい」と発言しました。
福島県連は今後、実態調査で状況を把握し、対案を示して素案の修正を求めていく予定です。
素案に対し、19日までに福島県内の89商工会と10商工会議所が反対を表明。21日には県商工会連合会が再検討を要請する意見書を提出しました。
全国商工新聞(2015年2月2日付) |