福島原発訴訟 大津波想定文書の存在否定 国が情報隠し?
東京電力福島第1原発事故の被害者2600人が原告となり、国と東電を相手に原状回復と慰謝料などを求めている「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟、中島孝原告団長)の第6回口頭弁論が5月20日、福島地裁(潮見直之裁判長)で開かれました。今回の弁論で焦点になったのは、巨大津波の予見可能性を示した「報告書」に基づく国の要請と、賠償責任の範囲。いずれも国、東電の過失責任や被害者に対する不誠実な姿勢を浮き彫りにするものとなりました。
「当時の資料が存在しないため、事実の有無を確認することはできない」-。国の回答に傍聴席は“情報隠しではないか”とざわめきが広がりました。
原告側が求めていたのは、97年に農水省など4省庁が作成した「報告書」(「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」)をもとに、国が電気事業連合会(電事連)を通じ、福島第1原発には津波の高さを2倍に試算するよう求めた国の指示・措置の内容でした。
同報告書は過去に生じた津波にとらわれず、「将来生じうる地震・津波を想定すべき」と指摘するなど、巨大津波による全電源喪失の予見可能性を指摘。しかし、東電はその後、「巨大地震・津波を想定する必要はない」とする別の「基準」を作り出し、重要機器への抜本的対策を講じることを怠ってきました。
この日の弁論で国は、「4省庁報告書」について「その結果をもって科学的知見が形成、確立したと認められない」との見解を示す一方、自ら指示した電事連への国の措置について「資料が現存しない」と開き直ったのです。
原告側は、「国会事故調」(福島原発事故調査委員会)の報告書でも、電事連での検討内容の一部が議事録として紹介されていることを指摘。あらためて国の指示内容を公表するよう求めました。
国が「確認できない」と繰り返すのに対し、「かつてはあったが今はない、ということか」と追及。それに対しても「必要性が分からない」などと説明責任さえ放棄する国に対し、裁判長も「どういう調査をしてこういう結果になったのか。説明してほしい」と再三求めました。
国の指示内容の公表を求める原告側の要求に、裁判所もこれを認め、文書で回答するよう指示。東電にも、電事連の指示を受け、どのような対策をとったのかを明らかにするよう求めました。
精神的損害は
もう一つの焦点が、精神的損害の賠償の範囲でした。
慰謝料を請求している原告側に対し、東電はこの日の弁論で「東電が策定した賠償基準には合理性・相当性があり、これとは別個に精神的損害の賠償を求める原告の主張には理由がない」と主張。原子力損害賠償紛争審議会(原賠審)の中間指針が示した賠償の範囲からは“一歩もでない”姿勢を示しました。
もともと東電は、原子力損害が生じた場合の損害賠償は、民法(709条)の特別法である無過失責任を要件とする原子力損害賠償法(原賠法)で請求すべきであり、過失責任を定めた民法で賠償を求めることはできない、と主張。賠償の範囲は、原賠審が示した中間指針であるとしてきました。
被害者保護を
この日の弁論で、原告側は「原賠法は民法709条の特別法」と認めた上で、自動車損害賠償保障法などを例に「特別法があっても、民法に基づく請求を排除していないことは最高裁判決などによって確定している」と反論。「被害者の保護」という原賠法の目的からいっても、原賠法か民法かのどちらかに基づいて賠償請求するかは、被害者に委ねるべき、と主張しました。
その上で、賠償の範囲を中間指針に“限定”した東電の主張について、原告側は「過失を前提としない中間指針の賠償範囲に裁判所も国民も従えということか」と反論。
裁判長も「慰謝料に不服がある場合は、加害者の過失を主張して増額を求めることはできないのか。そうだとするとその根拠は」と東電に説明を求めました。東電側はまともに反論できず、「書面で回答する」にとどまりました。
弁論では、茨城県水戸市から沖縄県那覇市に避難している久保田美奈穂さんが陳述。家族離れ離れになった生活の苦労・葛藤を語るとともに「放射性物質は県境でとまらない。国や東電の責任を明らかにし、滞在者も避難者も福島県民もそうでない人も区別なく救済を」と訴えました。
全国商工新聞(2014年6月2日付) |