生業を返せ、地域を返せ! 福島原発訴訟 提訴1159人
東京電力福島第1原発事故の被災者が国と東電を相手に原状回復と慰謝料の支払いを求めている訴訟(「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟、中島孝原告団長)で10日、1159人が福島地裁に二次提訴しました。今年3月11日に一次提訴した800人と合わせ、約2000人となり、全国でも最大の原告団を有する福島原発集団訴訟となりました。
東電はすべてを元に戻せ
二次提訴のため福島地裁に向け行進する原告団・弁護団
他の訴訟が原子力損害賠償法による賠償を求めているのに対し、同訴訟は、民法と国家賠償法に基づき国と東電の責任を追及するとともに、被害者の諸要求を制度化させ、被害者の全体救済をめざしています。
提訴にあたり原告らが福島市内で記者会見。山崎満子さんは「事故が起きてから『安全神話』に漬かった自分を責め続けてきていた。この悔しい切ない思いを二度と繰り返させない政策を行ってほしいと思い原告になった」と語り、相双民主商工会(民商)会員でもある中島団長は「原告団を増やしていくことが原発政策を変えさせる確かな力」と、力を込めました。
会見後、原告団は、訴状提出のため福島地裁前まで行進。「頑張れ」と声援を送る仲間に中島団長は「1159人の訴状を提出します」と応えました。
第一提訴で口頭弁論 紺野会長ら陳述=福島
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟一次提訴の第2回口頭弁論が同日、福島地裁(潮見直之裁判長)で行われ、原告として福島・相双民商の紺野重秋会長ら3人が陳述しました。浪江町で自動車工場を営んできた紺野さんは、事故後避難場所が転々と変わり、家族がバラバラになったことに触れ「事故前の平穏な暮らしに戻りたい。国と東電はすべてを元に戻してほしい」と思いの丈をぶつけました。
事故当時、福島県立双葉翔陽高校の2年生で、事故によって避難を余儀なくされた青年は、「事故で失ったキラキラした時期を返してほしい」と訴えました。
裁判終了後に開かれた報告集会で、国際オリンピック委員会(IOC)総会における安倍首相の発言について、原告団・弁護団としての抗議文を決議しました。
決議文は「状況はコントロールされている」「健康問題についてはいままでも現在も将来もまったく問題ないと約束する」などの一連の安倍首相の発言について「まったく事実に反する」と厳しく批判。貯蔵タンクからの汚染水漏れ事故が相次いでいることや、低線量被ばくによる晩発性障害については明らかになっていないことが多い、と指摘しています。
同時に「原告団はオリンピックそのものを否定するものではない」と断りつつも、「事実をねじ曲げ、安全ではないのに安全と押し通す首相の施政は、原発からの脱却を願う多くの国民の思いを踏みにじり、オリンピックが掲げる“フェアに全力を出し切ることでこそ多くの豊かな実りを紡げる”という基本精神をも冒とくするもの」とし、安倍首相の恥ずべき無責任発言に抗議しています。
解説 東電の責任認定と過失の範囲が争点
第2回口頭弁論を通じ、原発事故の責任と過失の範囲が大きな争点として浮かび上がってきています。
原告側は民法と国家賠償法に基づき、原状回復と慰謝料を請求。とりわけ、「津波対策をどこまでとるべきであったか」は主な争点であり「故意とも同視しうる重大な過失」があったかどうかは、この「訴訟の争点の核心部分」として、東電がこれまでに行った津波対策に関する各種シミュレーションの結果を証拠として提出するよう求めてきました。
ところが、東電はこの日の弁論でシミュレーションがあったかどうかすら明らかにしていません。さらに原子力事業者の無過失責任(故意・過失がなくても損害賠償の責任を負う)を規定した原子力損害賠償法(3条1項)によって、原告側が請求の根拠としている民法709条の適用が排除されているとし、東電の過失そのものが訴訟の争点になりえないと主張しました。
一方国は、原状回復を求める原告側主張に対し、空間線量の低減作業については「放射性物質汚染対処特措法」に基づく除染などの措置が定められており、原告の原状回復請求は「行政権の発動」を求めるものであって、民事上の請求としては不適法であると主張しました。
原告側はこうした主張に対し、交通事故訴訟などを例に「無過失責任に基づく慰謝料請求事件で加害行為の故意・過失の有無や程度が審理の対象にならないというのは、東電の独自の見解」と指摘。「過失の有無などを基礎づける各種シミュレーションの提出を拒否することは事実審理を回避しようとするもの」と東電の態度を厳しく批判しました。
国の主張についても「空間線量を低減させるには各種の除染措置を講ずることで可能であり、行政権の発動は要しない」と反論しました。
次回の口頭弁論は11月12日の予定。
全国商工新聞(2013年9月30日付) |