原発被害 東電本店と交渉 営業損害の支払い直ちに=福島県連
原子力損害賠償紛争審査会が原子力損害にかかわる中間指針を発表したのを受け、全国商工団体連合会(全商連)と福島県商工団体連合会(県連)は8月11日、東京電力本店と交渉し、「被災者の実態に基づく全面的賠償」を求めました。交渉には中山眞全商連常任理事、福島県連の二宮三樹男会長、県内の事務局長ら17人と、自由法曹団の弁護士3人が同席しました。
交渉は8月3日に福島県連が行った要望への回答と、同5日に発表された中間指針で示された賠償の具体化について確認したもの。二宮会長は冒頭、「被災者の実態を踏まえ、早急に、全面的に賠償を進めてほしい」と要望しました。
応対した福島原子力被災者支援対策本部長らは、県連から要望のあった第一次仮払い(3月11日〜5月31日)以降の避難対象者に対する営業損害の支払いについて「1日も早い支払いのために準備をしている」と回答。仮払いが進んでいない風評被害の支払いについても「中間指針を受け準備を進めている」と答えました。
中間指針に関しては、営業損害について「避難区域外については月々の支払いではなく本払いにしたい」とし、請求書の書式、必要書類、支払い方法については8月下旬に示すと答えました。
また、避難対象者が避難に伴いアルバイト・パートの仕事を失った場合についても損害賠償の対象になること、その賠償の終期については「避難解除されて一定期間たった後」との見解を示しました。
事故後、将来を悲観して自殺したキャベツ農家などに対する損害賠償・慰謝料の支払いについては「あらためておわびしたい」と陳謝し、「請求があった場合、よく相談したい」と答えました。
参加者からは「避難して5カ月。別の場所で店を探そうと思っているが資金がない。移転費用を前払いしてほしい」「東電は補償というが本来は損害賠償だ。被害を与えたという意識はないのか」などの怒りの声が続出。移転費用の前払いについて東電側が「移転費用は補償するが、前払いは予定していない」と回答すると、「損害を与えておいて被害者に移転のリスクを先に負えというのか」「東電が借り入れの連帯保証人になるべきだ」と迫り、東電はあらためて検討することを約束しました。
また、後日文書回答するとしていた民商会員減に伴う会費の減少や、東電との交渉で要した交通費などの賠償について東電は8月18日、「中間指針での補償項目や補償範囲等に該当するか検討したい」と回答しました。
原発損害賠償 中間指針 風評、間接被害も対象
東京電力福島第1原発事故にかかわる政府の原子力損害賠償紛争審査会は8月5日、賠償範囲の目安となる中間指針をまとめました。
これまでの避難費用などに加え、買い控えや価格下落などの風評被害を広く認定するとともに、業種では新たに製造業、サービス業などを加えたほか、精神的損害も賠償の対象として認定しました。東電は9月から賠償請求を受け付け、10月から支払い開始をめざすとしています。
中間指針は「原子力損害の当面の全体像」を示したもので、「指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意することが必要」と強調しています。
その上で、風評被害については(1)農林漁業・食品産業(2)観光業(3)製造業・サービス業(4)輸出-の四つに分類。
放射性セシウムに汚染された肉牛については北海道、青森など稲わらの流通が確認された17道県の価格下落を損害賠償の対象としました。
食用の農林産物では、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉の6県が対象となり、茶葉については先の6県に加え静岡、神奈川を含めた8県、花きについては福島、茨城、栃木の3県を対象としました。
観光業(ホテル・旅館・旅行業等の宿泊関連産業、レジャー施設、旅客船等の観光産業やバス、タクシー等の交通産業、観光地での飲食業・小売業なども含む)は福島、茨城、栃木、群馬の各県に営業拠点がある事業者が対象に。加えて、外国人観光客については「原発事故の前に予約が既に入っていて少なくとも5月末までに通常の予約を上回る解約が行われたことにより発生した減収等」については全国の観光業者が対象となり得ることを示しました。
製造・サービス業では、福島県内の拠点で製造・販売を行う物品やサービスの売上減や運送業者などの来訪拒否による被害などが対象とされました。
また、第一次被害を受けた者と一定の経済的関係にあった第三者に生じた「間接被害」も賠償対象としています。
損害賠償は今後、被害者による請求に基づいて東電との交渉が行われますが、不調の場合は弁護士などで構成される第三者機関「紛争審査会」で協議。それでも不調となった場合は裁判となります。
全国商工新聞(2011年9月5日付)
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