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  トップページ > 震災情報のページ > 全国商工新聞 第2976号 5月30日付
 
 

地元木材で仮設住宅 木のぬくもりを被災者に=岩手・住田町

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建設途中の中上団地。地元の建設業者が工事を受注しています

 「木のぬくもりを被災者に届けたい」。そんな思いが込められた木造の一戸建て仮設住宅が、被災者に喜ばれています。岩手県住田町による事業です。地元で育った気仙杉を使い、地元の建設業者が工事を請け負い、被災者の雇用も生み出しました。町の予算を使った独自の施策に全国からの視察が相次ぎ、注目を集めています。

入居者に安らぎ全国から反響が

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被災者を救いたいと大胆な支援策を打ち出した多田町長
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被災者が少しでも癒されればと話す住田住宅産業の佐々木代表取締役
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吉田工務店の千田さん。木のぬくもりを被災者にと心を寄せます

 幼稚園跡に建設された本町団地17戸の入居が13日に始まりました。陸前高田市で被災した60代の夫婦は、この日を心待ちにしていました。「木の香りは気持ちが安らぐね。それに一戸建てというのがうれしい。長屋のプレハブに入居した人は、隣の音が聞こえて落ち着かないと話していた。ここでこれからのことをゆっくりと考えたい」とほっとした表情を見せました。
 大津波の被害を受けた陸前高田市など沿岸部と隣接する住田町。町の面積の90%を山林が占め、林業が盛んな地域で、宮大工の技術を持つ気仙大工が今も活躍しています。
 その技術を生かし、町は町有地3カ所と県立病院の敷地内に110戸の仮設住宅を建設しました。間取りは2DK、すべてが一戸建てです。外壁、室内の壁、床、天井も気仙杉などの木材をふんだんに使っています。入り口を開けると、木の香りがほのかに漂い、プレハブの仮設住宅にはない天井の吹き抜けが開放感を感じさせます。
 いち早く完成した火石団地(旧町営住宅跡地)13戸は住田住宅産業株式会社が手がけました。同社は住田町、気仙地方森林組合、けせんプレカット事業協同組合、有限会社けせんホームの4団体が出資する第3セクターです。代表取締役の佐々木一彦さんは「仮に入居期間が2年間としても、被災者は730日も暮らさなければならない。長屋のプレハブより、木造の戸建の方が被災者のプライバシーが守られる。少しでもほっとできれば」と被災者に思いを寄せます。
 同社は多田欣一町長の指示を受けてわずか2週間ほどで仮設住宅の一部を完成させました。被災地よりも早い対応でした。その後、資材不足が深刻になり、木材はあるものの断熱材やサッシが手に入らず、工事は進まなかったことがありましたが、町を通じて国土交通省の支援を受け、資材を調達。4月中に完成させました。13戸に91世帯が応募し、入居希望者が殺到しました。
 「全国に反響が広がり、入居者にも喜んでもらえてうれしい。木造は解体後も再利用でき、最終的にはペレットとして燃料にも使える。環境にもやさしい」と佐々木さんは話します。同社は陸前高田市のオートキャンプ場内にも仮設住宅を建設する予定です。

木を生かした町づくり推進

中上、本町団地を建設した5社
(有)吉田工務店
山一建設(株)
斉藤工業
坂井建設(有)
菊池組(有)
 中上団地(小学校跡)63戸と本町団地を手がけたのは5社の地元建設業者(右の別項)です。取りまとめたのは有限会社吉田工務店代表取締役の千田明雄さん。「この町は川上から川下まで木造住宅にかかわる一貫した体制がある。木造の仮設住宅の建設は地元の資源、地元の人材をフルに活用できる取り組み」と強調します。同時に「被災者支援が最大の目的。もうけは、わずかでいい。何よりも被災者が木のぬくもりを感じて、心を休めてほしい」と目を細めます。

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内装にも杉材が使われ木の香りに満ちています

 もともと木造の仮設住宅は、木を生かした町づくりの一環として取り組んでいたものです。多田欣一町長は今年1月、国内外の大震災に備えて「住田住宅産業」株式会社に「木造の仮設住宅が建設できないか」と相談していました。
 国にも働きかけ、図面を持って内閣府に申し入れをしようとしていた矢先、東日本大震災が起きました。「まさか、自分の足元で必要になるとは思わなかった。図面はほぼ出来上がり、町には植林から住宅建築まで一貫したシステムが整っている。木造の仮設住宅で被災地を支援しよう」と多田町長は決めました。

災害救助法の枠組み越えて
 災害救助法では、仮設住宅は県が被災した市町村に建設することになっています。「大震災のときに、ルールだけではことは運べない」と多田町長は町の予算を使って建設することを決断。「1戸当たりの建設費用は250万円程度。100戸でも2億5000万円。被災地の被害に比べたら…。その程度の予算だったら出せる。一刻も早く被災者を救いたい」と「議会議員全員協議会」を開いて町議の賛同を得ました。
 本体の建設をはじめ電気、ガス、水道などすべての工事を地元の業者が請け負い、陸前高田市や大船渡市などの被災者を積極的に雇用しました。
 岩手県では1万4000戸の仮設住宅建設のうち、約2500戸を地元建設業者に発注しました。その多くが軸組工法を取り入れた木造づくりです。住田町の取り組みが、県内に広がっています。

全国商工新聞(2011年5月30日付)
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