全国商工新聞 第3362号2019年5月27日付
全国の地方自治体(都道府県および市区町村)が、2017年度中に行った納税緩和制度の実施状況が明らかになりました。総務省自治税務局が全国商工団体連合会(全商連)の求めに応じて情報開示したもの。角谷啓一税理士が、全国1741自治体(市区町村)を分母として、納税緩和制度が適正に実施されているのかどうかに焦点を当て、換価の猶予についての実施状況を分析、評価しました。
職権型の換価の猶予を一度以上、実施(承認)したという市区町村数は104団体で、全市区町村の6%弱。94%以上の市区町村が一度も実施していないことが分かりました。
実施した104団体が行った1年間の処理実績は1万4362件。1団体当たり138件。決して「多い」数字とは言えませんが、実施している市区町村では、それなりに結果を残しているのかな、という感じです。しかし、1万4362件の処理事績を全市区町村数で平均すると、1団体当たりの処理実績は「1年間に約8件」というありさまです。
それでは、2016年4月から制度化された申請型の換価の猶予はどうか。17年度中に申請を受けた市区町村数は76団体。これは、全市区町村の4%余り。96%の団体が1年間に1枚も申請書を受理していないということです。これは、市区町村で行政指導を伴う、まともな納付相談を行っていないことの証です。
申請書を受理した76団体の1年間の総受理件数は4973件。1団体当たり65件です。この数字も、問題意識を持っている市区町村では、それなりの受理件数かな、という感じです。しかし、これまた4973件の申請件数を全市区町村数で平均すると、1団体当たりの処理実績は「1年間に3件弱」です。
ただ、申請型の換価の猶予を実施(許可)した件数は、75団体4959件で、申請書を受理した76団体のうち、75団体(98.7%)に上ります。申請件数4973件のうち、4959件(99.7%)が許可されています。この数字は何を意味するか。行政指導を受けて適切に申請すれば、ほとんど許可され、メリットを享受できるにもかかわらず、行政側の無責任が、そうしたチャンスを奪ったということを意味します。
職権型・申請型を総じて評価すると、全市区町村中、数%の市区町村が制度を運用しており、そうした市区町村では、それなりに実績を上げています。しかし、大半(95%前後)の市区町村が、納税者のために存在する制度に目を向けていない。その原因は、人員不足もあるかもしれませんが、最近の地方自治体の滞納処分が強権化していることと無縁ではなさそうです。
実情を聴かず、調べず、「即納だ」「差し押さえだ」と言う前に、「納税の猶予等の取扱要領」第1章にある「納付困難である旨の申し出があった場合には、納税者の視点に立って、その申し出の内容を十分に聴取し、誠実な意思を有していると認められる場合などについては、換価の猶予等の活用を図る」方向に舵を切り替えること、その方が徴収の実も上がることを多くの地方自治体に周知させる一層の運動が求められています。
納税問題で困っている納税者に対しては、「安心して分納ができる」「延滞金の大幅な減免ができる」「事情によっては差し押さえの解除もできる」といったメリットと合わせ、前掲の取扱要領もPRし、職権型・申請型にかかわらず、換価の猶予を求める運動を展開しましょう。