全国商工新聞 第3344号2019年1月14日付
「所得税の最高税率を引き上げ、累進課税を強化すれば8兆円の増収が可能になる」─。累進化が高かった1974年当時の税率を適用した場合の申告所得税の概算計算を、浦野広明・立正大学法学部客員教授(税理士)が発表しました。「税金や社会保険料の負担のあり方は、憲法に基づく応能負担が原則。『総合累進課税』こそ、大多数の国民の幸福につながる税制」と主張する浦野税理士に話を聞きました。
所得税の税率の刻みは1974年当時、19段階の税率区分で、住民税と合わせた最高税率は93%でした(表)。住民税は、国から地方へ税源移譲する名目で、3段階の超過累進税率(課税所得200万円以下5%、同700万円以下10%、同700万円超13%)が廃止され、2007年度から一律10%になりました(フラット化)。フラット化は累進税率をやめて単一税率にすることです。住民税の10%化は富裕層減税、低所得者増税をもたらしました。
現在の所得税の税率区分は7段階で、住民税と合わせた最高税率は55%です。申告所得税の収入は2兆9160億円(2016年度概算要求)。74年当時の19段階で計算すると、税収は10兆8244億円になり、約8兆円の増収です。消費税2%分の税収は約5・6兆円ですから、所得税の累進化を強化すれば、消費税引き上げは必要ないわけです。
今の税制は大企業や富裕層の負担を軽くする方向です。所得税の累進化を弱めたのも、その流れに沿ったものです。その上、所得税は株の配当や売却で得た利益は、収入と分けて申告することができ、税率も15.315%(復興税含む)と低くなっています(分離課税)。
所得税はもともと、収入を合算して課税する総合課税で出発しました。その後、総合課税でなくなりましたが、1978年の分離課税の税率は35%でした。それを15.315%にまで引き下げました。
その結果、所得税は所得が1億円までは負担率が上昇しますが、1億円以上になると負担率は低くなり、不公平な税制になっています。
所得税の分離課税や累進化の緩和は不公平な税制であるだけでなく、税収も少なくしています。政府は所得税や法人税ではなく、消費税を基幹税にしようとしています。そのために、消費税の税率を引き上げようとしています。
憲法29条は「財産権は、これを侵してはならない」と規定しています。税金は財産権を侵す最大のものですが、私有財産を公共のために用いることはできると規定しています(同条3項)。公共の利益のための課税は、応能負担が原則です。その中心は所得課税です。所得税と法人税、住民税の所得割が所得課税ですが、もうけ(所得)にかける以外、適切な税金はないわけです。子どもからお年寄り、病気で働けなくなった人など、あらゆる人々に課税する消費税は、憲法に基づく「応能負担」の原則に反する税制です。
今の社会は市場競争で勝った人や企業が多くの富を手にしています。競争の勝者と敗者との間に貧富の差が生ずるのは必然で、財産(富)の偏りや所得配分が不平等になることは避けられません。
そこで、要請されるのが「富の再分配」(所得再分配)、多額の所得や資産に対して累進的に課税することで得た富を、社会保障や福祉などを通じて弱者に移すことです。裏を返せば所得再分配は、社会に存在する富に対して個人が分け前を請求する権利(社会権・生存権)です。
社会権は国民が人間らしい生活を営むための保障を政府に対して要求する権利であり、政府はその要求に応える義務がある、ということが社会権の重要な位置付けとなります。
財政政策が重視しなければならない課題は「所得と富の再分配」です。課税対象金額(所得)の多い人(個人・法人)ほど高率の税金を納める累進課税制度を採用して、分配の平等化を図る。大多数の国民の幸福に結び付く税制改革は総合累進課税をおいて他にありません。
申告所得税の累進化で約8兆円、法人税の累進化と大企業優遇税制の是正で約19兆円(菅隆徳税理士試算)、合わせて27兆円の財源が生まれます。不公平な税制をただせば、消費税に頼らなくても財政は成り立ちます。
今、国会では立場の違いを乗り越えて野党が共同して10月からの10%への引き上げ中止を求めています。10%阻止で野党が共闘するのは初めての出来事です。著名人や研究者なども反対の声を上げています。
これまで私たちは消費税増税を二度にわたって延期させてきました。統一地方選挙や参議院選挙で安倍政権を退陣に追い込むことは可能です。たたかいはまさに正念場、民商・全商連の活動に期待しています。