全国商工新聞 第3362号2019年5月27日付
全商連の「軽貨物提案」リーフレット
日本中どこでもインターネットを通じて注文でき、宅配業者が短時間で届けてくれる便利な時代…。ネット通販の市場規模は8.6兆円と、全国の百貨店の売上高約6兆円を上回るまでに成長しています。一方、末端で担う宅配個人事業者は、長時間労働や低収入を余儀なくされ、経営実態は過酷です。全国商工団体連合会(全商連)は10日、「軽貨物運送業の危機打開と健全な発展のために」を発表。宅配事業主の入会が相次ぐ、大阪・美原狭山民主商工会(民商)で、インターネット宅配を請け負う宅配事業者に、実態と「軽貨物提案」への期待を聞きました。
国土交通省「宅配便取扱実績」によれば、宅配便の取扱個数は急速に増加しており、2017年度は42.5億個に達しました(下のグラフ)。
あるネット通販は、地域限定の1次配送業者5社と提携し、宅配業務を委託しています。1次配送業者は自ら配送を行うのではなく、さらに下請け企業や個人事業主に業務の全部もしくはその一部を請け負わせています。その実態は…。
「社に知れたら、すぐに切られてしまう」と、絶対匿名を条件に取材に応じてくれた田中洋輝さん(39・仮名)。「しんどくても、他にこんなに稼げる仕事はないのでやっている。ブラックな部分を挙げればきりがない」と話します。
家を出るのは朝5時半。6時15分には社の倉庫に到着し、荷物の仕分けを行い、積み込み作業を行います。8時過ぎに午前の配送に出発し、昼食を挟んで午後2時前後に午後便の荷物を取りに戻り、午後の配達に出て、一巡すると夕方6時ごろ。それから夜間の配達と午前・午後の再配達に入り、配達を終えるのは午後9時過ぎ。この日の配達個数は197個で、完了は172個。25個は届けられず、翌日持ち越しになりました。
長時間労働を余儀なくされている軽貨物運送業者(記事とは関係ありません)
田中さんの受け取る報酬は1個170円で、この日は2万9240円。同業者の中では配達個数の多い方で、月収は約70万円前後。そこからガソリン代4万円、車両保険3万円などの経費が引かれ、手取りは60万円ほどに。しかし、1日の労働時間は15時間超、週休1日の過酷さです。
「勝負は、配達先の記憶力と足。長時間労働の上、休みが少ない。再配達が3割にも上り、駐車禁止など交通違反の取り締まりが厳しく、常に戦々恐々。あと8カ月間、無事故無違反でいかないと免停になる」と窮状を語ります。
「取扱量が増える一方で人が少ないから、こき使われる。自営業者とは名ばかりで、正社員より拘束もキツい。指示に従わないと、すぐに切られる。単価も上げてほしいし、働く環境を整備し、好循環をつくってほしい。『置き配』はすぐにでも始めてほしい」と、「軽貨物提案」に期待を寄せました。
1次配送業者から業務を請け負う、2次下請け会社のある社長は「やればやるほど稼げる仕事ではあるが、体力勝負のきつい仕事だ。その上、『そこまで言うか』という自分勝手なクレーマーも少なくなく、苦情に振り回され、本当にかわいそう」とドライバーを気遣います。
「元請けは『なぜ、1時間に40軒行けないんですか』などと平気で言う。配達の苦労など分かっていない。せめて単価200円ぐらいドライバーに出して、日に90個くらい配達すれば生活できるような報酬にできれば、早出と遅出の2交代勤務で、ドライバーの負担が減らせるのだが…。長く働いてもらいたいが、親会社が単価を上げないと、ウチも上げられない」と苦渋をにじませます。
ネット取引を増大させているアマゾンの物流倉庫(記事とは関係ありません)
「赤帽」として45年間、軽配送業を見てきた坂口富一さん(75・仮名)は「やる気になったら、もうけられるが、楽な仕事ではない」と話します。
「赤帽」は事業協同組合として、協定で距離運賃を設定。しかし、坂口さんは「宅配だけは堪忍して」と、事業用配送に特化してきました。
「仮に50万円もらったとしても、宅配は大変。事業用配送なら、混載や共同配送など工夫の余地もある。人のやれないことをやって、単価の上乗せも受けられる」
今、利益を上げているのは「水屋仕事」と言います。例えば、長距離で地方から来た車に、帰りの荷物を紹介する仕事です。仕事仲間のネットワークを持っている坂口さんは、帰りの積み荷を紹介し、一定のリベートを受け取ります。
「信用と仲間とのネットワークで力を合わせていかないと、個人事業者の状況の改善を進められない」と力説します。
美原狭山民商の松尾元嗣事務局長は、「宅配の個人事業者は無権利状態。バラバラにされている個人事業主を組織しないと、状況はは改善できない。次々と『紹介』で新会員が増えているので、『軽貨物提案』を持って、さらに対話や紹介を広げていきたい」と抱負を語ります。