循環型経済の構築へ
中小業者が役割を発揮
全国商工団体連合会(全商連)付属中小商工業研究所は8月18、19の両日、「循環型地域経済と中小商工業の役割」をテーマに群馬県高崎市で第13回夏期研究集会を開催しました。
地域経済の再生めざし 第13回夏期研究集会
各セッションの報告に聞き入る参加者
主催者あいさつで全商連の橋沢政實副会長は、格差と貧困が広がり、日本経済の疲弊が進むなか、地域の再生が課題になっていると指摘。「地域経済の疲弊を打開するカギは循環型地域経済の実現です。住民の暮らしと生業を守るため、実践と経験を学び合いましょう」と呼び掛けました。
自治体施策を交流した第1セッション
1日目は、高崎市商工会議所を会場に、三つのセッションが開かれました。
第1セッション「まちを元気にする施策の展開」では、高崎市の職員が、住宅リフォーム、商店リニューアル助成制度、飲食店の魅力をSNSなどで発信する「絶メシ」など、中小業者を元気にして地域の活性化をめざす同市の取り組みを報告しました。
第2セッションの講師の大貝健二さん
第2セッションでは、北海学園大学の大貝健二准教授が「地域循環型経済の実践と小規模・中小企業振興基本条例の意義」と題して講演。「条例をつくっただけでは何も変わらない。地域活性化とは何か。地域の実態を把握した上で、中身の共通認識をはっきりさせ、具体的施策を検討し、地域連携で循環を創出していくことが必要」と問題提起しました。
夏期研究集会の全体会
第3セッションのパネル討論「変化に対応した経営力アップの実践を報告」では、京都大学大学院の岡田知弘教授がコーディネーターを務め、パネリストの3人の業者が、循環型地域経済の担い手としての経営の実践やその思いを語りました。
2日目は、高崎経済大学を会場に「循環型地域経済への挑戦」「消費税に頼らない税・財政への展望」「金融の変化と事業計画づくりの意義」の3分科会と「建設」「料飲」の二つの業種別交流会が行われました。
宮崎から参加した浅井憲久さんは「業界や自治体の首長などとの交渉や懇談をどのように進めていけばいいのか参考になった。これからの運動に生かしていきたい」と話します。
同集会には、研究者、議員、業者ら約240人が参加。日本共産党の岩渕友参院議員が全体会で紹介されました。
業者の実態・課題を交流 業種別交流会
建設 適正価格求めよう
建設業界の情勢や商売の工夫、課題を交流
「建設」には18人が参加しました。
永山利和・元日本大学教授が「建設業界を囲む現状と課題」と題し問題提起。「建設投資の減少が続き、10年後には半減する可能性もある。建設業者がいない自治体も生まれている。いわゆる『担い手3法』改正で適正価格をめざすようになったのは前進だが、客は建設業法を知らないで発注しているので、きちんと説明し、適正価格を求めていくことが大切」と指摘しました。
これを受け、「キャリアアップシステム」や「働き方改革」など、建設業界をめぐる情勢や、仕事確保や商売の工夫、抱えている課題などについて交流しました。
千葉の鈴木正彦さん(電気工事)は、「最近、人手不足もあり、一人親方をやめて社員になる人も出ている。そもそも安い設計労務単価で、暑い、寒い、きついでは若者が集まらない。設計労務単価の引き上げが課題」と発言。新潟・上越の岩澤健さん(住宅設備)は「仕事確保の上では、住宅・店舗リフォーム助成制度などを生かすことが大切。お客さんは喜び、新しいお客さんも紹介してくれる」と報告しました。
また、静岡・島田の中尾光さん(鉄骨建築)は「バブル崩壊後、下請けをやめ、工場のメンテナンスなど直に受注する仕事を増やしてきた。技術を売りに、仕事は切れない。グレードの維持・上昇のため、社員教育を重視している」と経験を語りました。
永山氏は、「現場の課題も共有できた。出された意見などを参考に、行政にどのように要求をぶつけていくか地元の民商でも話し合ってほしい」とまとめました。
料飲 風営法乱用許さず
風営法の取り締まり問題や夜オリの取り組みなどを交流
「料飲」には13人が参加。助言者の八幡一秀・中央大学教授がこれまでの分科会の経過や今日的な課題となっている「風営法による取り締まりの問題点」と料飲業者を励ます「夜オリ(スタンプラリー)の取り組み」を紹介しました。
北海道・札幌中部民商事務局長の富堂保則さんがススキノ地域の抱える課題を報告。「以前のような異常な警察の取り締まりによる相談はなくなったが、風営法の許可をとって営業している会員から“従業員名簿の備え付け確認”や“実態確認”などとして、頻繁に警察官が臨店することや、許可を取るために、開店の届け出をしてから50日間以上も営業ができない実情がある」など、風営法そのものの制度の問題点などが報告されました。
座長の池田法仁全商連常任理事は、風営法の「解釈運用基準」の問題点や、都道府県・地域の警察によって対応が違うことを紹介し、学習会や料飲街(店)訪問等に挑戦し、いざという時の対処方法や相談場所があることを知らせていく取り組みが大事であることを強調しました。
参加者はそれぞれの事業への思いを語り交流を深めました。八幡氏は「自らのオリジナリティーを磨き、提供する商品・サービスの付加価値を高めて他店との違い(優位性)を確保していく努力が求められている」とまとめました。
変化に対応した経営を 苦労や展望を交え
岡田知弘さん
萩原誠さん
パネル討論は岡田知弘さんをコーディネーターに3人の業者が報告し、討論が進められました。
群馬県高崎市で有限会社萩原電子システムを経営する萩原誠さん(高崎民商副会長)は、「受託開発から脱却し開発提案型企業への飛躍」と題して報告。リーマンショックによって安定した売り上げが7割ダウンした萩原さんは「つぶされてたまるか」と民商で学んできたことを整理するなかで、「経営戦略」が見えてきたと振り返ります。10人の社員と朝会議で毎日話し合い、やるべき方向性を議論。(1)「借りて商売を続けよう」(2)人は減らさずにコストの3割削減(3)コア技術を生かした強みを「見える化」した新商品開発の事業計画を作成-に着手してきました。ものづくり補助金などを次々獲得し、活路を開いてきました。「大手が手を出さない、うちにぴったりのものづくりの方向性がつかめたのも、毎回の研究交流集会に参加していたから。後継者も見いだせたので、今後事業継承に頑張っていきたい」と決意を語りました。
林智浩さん
「3・11で風評被害を受け、苦境の中でも耐えられる経営にするにはどうしたらいいか考えた」と「とんとん広場」を経営する株式会社エーアンドブイ企画の林智浩さん。「経営コンサルタントに豚じゃだめだと言われたが、豚にこだわり、従業員とワークショップを重ねた。ブランド化が必要と言われるが、それは結局自分たちの価値観やビジョンを形にしたものではないか」と、自社の戦略づくりを紹介し、ブランド化が経営力を強めると強調。「ローカル発のブランドで、赤城を世界に誇る生ハム産地にし、地域の活性化に貢献していきたい」と展望を語りました。
加田野由美さん
「あーchaとねぇね合同会社」の加田野由美さんは、日替わりの総菜と高齢者用弁当などの宅配に取り組み5年余。やりがいも実感しつつ、今後の経営への思いについて語りました。「店の存続はお客さんがあってこそだから、少しぐらいの無理な要望にも応えていかなければならないと考え、やってきました。今はお客さんの立場に立って『できることは何か』を考えるようになった」と。
経営力アップの実践報告がされたパネル討論
きっかけとなったのは、弁当を届けた折に、奥の部屋から出てこられなかったお年寄り。「そこに置いといて」と言われたので、帰ったところ、翌日亡くなっていたことが分かりました。その後は、家族やケアマネジャーとの連絡を密にしています。最近、2度目の持続化補助金の採択も決まり、移動スーパーのための車両購入もできることになりました。「絆とまごころを乗せて全国に走っていきたい」と大きな夢を語りました。
岡田氏は「どの報告も商工業者の役割や社会的意味が再認識されたリポートでした。地域再生の方向をよく議論し、小規模企業を振興・支援する施策の拡充を求めていこう」とまとめました。