全国商工新聞 第3350号2019年2月25日付
中小業者や地域、商店街に「にぎわいと元気をつくりだそう」と、東京・豊島民主商工会(民商)が新たな挑戦を始めています。商店主が講師となって店の技術や知識、“売り”を伝える「まちのゼミナール」=「まちゼミ」。すでに3回目を迎え、地域活性化に向けた大きな柱となっています。
「イタリア料理には切り方のルールはないからね」
1月20日、豊島区内のイタリアンレストラン「cowaca」で取り組まれた「親子でつくる本格的パスタづくり」。ちょっとおぼつかない手つきでナイフを握ってブロッコリーなどをカットする子どもたちに、シェフで民商会員の新島恵介さんが優しい声を掛けました。
参加者は、新島シェフの友人を中心としたママ友とその子どもたち、合わせて8人。
パスタ麺は、小麦粉に水や塩、オリーブオイルを少しずつ入れながら練り上げて作る本格的なもの。お母さんの力も借りながら、麺を好みの固さにゆで、ツナとトマトで作ったソースと麺をボウルでからめて、本格的パスタの出来上がり。午前11時にスタートし、パスタが参加者の口に入ったのは12時30分を過ぎていました。
“野菜は嫌い”と言っていた子どもも「おいしい」と笑顔いっぱい。母親たちからは「これを機に子どもにお手伝いをしてもらいたい」「次は子どもに作ってもらおうかな」などの言葉も出されていました。
新島シェフは「この店や料理を知ってもらう機会をつくってもらって良かった。豊島区でも商店街が寂れている。同じような店ではなく、特色ある個人店を増やすことが、地域の活性化につながるのでは」と話してくれました。
事業主や参加者、そして地域にも力を与えている「まちゼミ」。豊島民商が取り組むきっかけとなったのは、商工交流会などを通じ、発祥地の愛知県岡崎市の「まちゼミ」に触れたことでした。
2018年9月の理事会で長谷川清会長は「『まちゼミ』は民商らしい要求運動に通じる。区内全体の中小業者のためになる運動として取り組もう」と提起。後押しをしたのが、8月に行われた豊島区との懇談でした。
日本最大規模の歓楽街・池袋を抱える豊島区。しかし商店会は年々減少し、10年度と16年度を比べると五つの商店会が消え、店舗数は884店舗も減少しています(図参照)。豊島民商の熊谷雅敏事務局長も「肥大化しているのは池袋周辺だけ。その周辺は、商店街そのものが毎年、一つか二つ減っている」と指摘します。
豊島区との懇談でもこうした事実を踏まえ、「地域活性化のために『まちゼミ』を民商としても検討している。区としても研究調査を」と要望し、区からは「商店街振興組合や商工会議所ともつなぎたい」「個店や商店街のやる気を応援したい」との回答を引き出しました。
第1回の「エステ体験」(9月)。中国式の美容法を体験し「気持ち良くなった」と好評でした
第2回の「おから・味噌づくり」(10月)。豆腐や煮豆もおいしいと、絶賛の声が上がりました
その回答も力に、民商は「まちゼミ」を企画。18年9月には「エステ体験」を、10月には「おから・味噌づくり」を相次いで実施しました。
エステ講座では、経営者の徐艶博さんが中国の美容法「カッサ療法」や、老廃物や宿便を体から出すデトックスについて説明。マッサージを受けた参加者からは「気持ち良くなった。女性はいつまでもキレイでいたいから、こうした取り組みは勉強になる」との感想が寄せられました。
「おから・味噌づくり」の舞台となったのは、民商の山中富士夫副会長の「埼玉屋豆富店」。地域の人々や日本共産党の区議ら18人が参加し大盛況で、「豆腐もおいしいし、大満足」「煮大豆やおぼろ豆腐もおいしい」と絶賛の声が上がるなど、地域に根差した個人店を応援する「民商らしい要求運動」として発展してきています。
山中副会長は言います。
「『まちゼミ』は、本業だけでなく、自分の趣味を活用してもいい。そして経営対策や新しいお客をつかむきっかけとなる。地域全体をみんなで元気にしていく大きな力になる。豊島民商全体で取り組み、地域を変える力にしたい」
商店街の店主が講師となって、店の専門技術、知識、“売り”を消費者に紹介する「まちのゼミナール」。発祥地は愛知県岡崎市で、今では全国370地域、2マン事業者に広がっている。個店が元気になることを通じ、「売り手よし」「買い手よし」、そして「世間(地域)によし」の「三方よし」につなげていく手法で、地域の活性化をめざす。