台風15号から1カ月
険しい自力再建「グループ補助実現を」

全国商工新聞 第3383号2019年10月28日付

 台風15号の被害から1カ月が過ぎた千葉県館山市、「激甚災害」に指定された鋸南町など県南エリアではブルーシートをかぶった家々が目立ちます。9日、千葉県商工団体連合会の橋沢政實会長(全国商工団体連合会副会長)は、県南地域の民商会員や被災業者を訪問。被災の現状や要望を聞くとともに、被災自治体を訪れ、グループ補助金創設など支援の拡充に「力を合わせましょう」と激励しました。

千葉県連・全商連副会長 橋沢政實さんが激励訪問

 館山市内の船形漁港近くにある、1920年創業の酒店は歴史ある店舗ばかりか自宅も倉庫も大きな被害を受けました。店はガラス戸が割れ、屋根の瓦やトタンが飛ばされ、雨漏りで消費税増税に向けて対応するパソコンやレジが壊れました。「3日前に購入し、被害は250万円」と語るのは、店主のKさんです。この他も含め修復に店舗1600万円、倉庫250万円かかることが分かりました。
 Kさんは「先日、中小企業庁長官が視察に来て『パソコンは大丈夫、対処方法もありますよ』と言って帰られましたが。全ての再建費用はねん出できないので、自宅兼店舗にしようかと考えているが、年齢を考えると借金もしづらい」と窮状を話します。
 同市内・伊戸のUさんのペンションも被災し営業停止が続いています。玄関先や庭先には、心配したお客が運んでくれたペットボトルや支援物資が積み上げられていますが、修復に1500万円との見積もりが。「みんな心配してくれているので早く再開したい。保険の範囲で修復を考えているが、困ったときこそ小さな業者が成り立つようにするのが政治の役割ではないか」と話します。
 「業者が不足し、見積もりさえ取れない」と嘆く事業者も少なくありません。
 鋸南町で牛乳販売店を営む、Tさんの店は外壁やトタン屋根、倉庫などが罹災。床下浸水し、パソコンやレジ、テレビなどにも被害が。地元の工務店に修理を依頼しましたが、「200件も相談を抱え、見積もりも修理も、いつになるか分からない。とりあえず応急処置だけしてもらった」と話します。

住宅支援進むが業者向けは手薄

 被災時の住宅被害には被災者生活再建支援法により全壊300万円、半壊150万円の支援があり、「一部損壊にも支援を」の声に押され、安倍首相は7日、一部損壊も「恒久的な支援対象にする」と表明。上限30万円の支援が実現しました(表)。しかし、中小業者の罹災に対しては現在、「セーフティーネット4号と小規模事業者持続化補助金(上限100万円)」があるものの、店舗や事業所、什器備品などをカバーするものにはなっていません。
 館山市経済観光部係長は「グループ補助金が創設されると助かるが、館山は『激甚指定』でないので難しいと言われている。被害は停電によるものも含めると、かなり大きくなるのでは」と話します。
 茂原民商のMさん=ビニール加工=は停電が11日間続き、その間に入っていた仕事も「納期に間に合わない」と引き上げられました。「営業損害まで弁償してとは言わないが、せめて電気料金の基本料金は停電期間分引くべきではないか」と憤ります。
 山武市でレストランを経営するBさんは、停電で4日間営業できなかった上に、冷凍庫などに保存していたステーキ、ハンバーグなど数十万円分を廃棄。「上に立つ人は、きちんと仕事をしてもらいたい。袖の下を出さないと動かないなら、途上国ではないか」と批判します。
 館山市観光協会事務局長は被災後、地域全体を回った感想も含め、「軒並み被災した地域もあり、なぜあちらが激甚指定され、こちらが指定されないのか。県南全体が大きな被災を受けているので、力を合わせられるようにしてほしい」と、柔軟な指定に期待を込めます。

業界団体からも支援を求める声

 鋸南町商工会副主幹は「見ての通りの大災害で、町はまだ罹災証明さえ1通も発行できない。放っておくと、みんな廃業してしまうのではないか」と危機感を募らせます。
 「持続化補助金は販路開拓のためだが、現状で販路拡大に取り組める業者がどこにいますか。ガラスが割れたまま走っている車も珍しくなく、100万円では到底足りない。激甚指定するなら、グループ補助金をつくってほしい。それが切実」と力を込めました。
 橋沢会長は「生活や住宅再建のための公的支援の抜本拡充と併せて、地域の暮らしと雇用を担う生業を支えるグループ補助金を実現させたい。被害実態に即した柔軟な施策の拡充を今後、県にも国にも求めたい。力を合わせましょう」と激励しました。
 橋沢会長が所属する佐原民商は29日、被災した中小業者向けの相談会を開く予定です。橋沢会長は「県南地域など会員が少ない地域でも、県連が相談会を開きたい」と力を込めました。

中小被害300億超 全容いまだつかめず

 総務省と千葉県によると、台風15号による住宅被害は1都7県で全壊214棟、半壊2099棟、一部損壊3万8540棟。うち千葉県では、全壊195棟、半壊1950棟、一部損壊3万2569棟です。
 農林水産業の被害額は、4日時点で411億6700万円に上り、東日本大震災の346億円を上回ることが明らかです。しかし、被害が甚大だった県南部を中心に、家屋や中小企業・業者の被害の全容はつかめていません。県は、中小企業の被害額は300億円を超えるとの推計を公表していますが、直接被害にすぎず、施設・備品の損壊、停電による営業停止など2次被害は含まれていません。

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