被災実態をつかみ行政に機敏に働き掛けよう
台風19号救助活動

全国商工新聞 第3383号2019年10月28日付

福島県 秘伝のタレ台無し

須賀川民商管内 復旧の見通し遠く

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 阿武隈川は福島県を南北に流れ、宮城県で海に注ぐ川で、これまでも氾濫を繰り返してきました。台風19号では、支流も含め25の河川が氾濫し、福島市、須賀川市、本宮市、伊達市、白河市などで幅広く決壊、浸水被害が出ました。
 福島県商工団体連合会(県連)は詳細な被害状況を掌握中ですが、11民商から床上浸水34、床下浸水11、断水91、屋根破損多数との報告が寄せられています(17日現在)。
 被害の大きな須賀川市を受け持つ須賀川民商では、上田支部和田班4、浜尾地区4、中央支部2、阿武隈支部2、西支部丸田地区2など計14世帯で床上浸水の被害が出ています。

再開待たれるが味の再現に不安

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片付けに伴い大量のゴミが出た

 須賀川市浜尾地区のMさんが営む飲食店では12日から水かさが増し、店舗が1メートル50センチほど浸水。「まさかこんな事になるとは思わず、避難もしなかった。2台の業務用大型冷蔵庫が逆さまに浮いていた」と証言します。約130戸の地域住民の95%が被災しました。
 河川を管理する国は、1989年の豪雨による「8・5水害」を踏まえ、約3年かけて800億円以上を投じ、「阿武隈川平成の大改修」を実施。この改修と併せて、洪水時には増えた水を貯め込み、浜尾地区および下流の地区を浸水から守る浜尾遊水地も造られていました。
 Mさんが営む飲食店はラーメンが有名で、テレビで何度も紹介された行列のできる店で、43年の歴史を誇ります。
 「冷蔵庫などはお金を出せば、そろえられるかもしれないが、タレもスープも失ってしまった」と肩を落とします。
 タレは1年かけて熟成。スープも継ぎ足し継ぎ足し作ってきた自慢の逸品です。「同じ味が出せるかどうか。お客さんは『早く再開を』と言ってくれるが、何とも言えない。前途多難、先は真っ白だ。もう少し若ければ…」と苦渋をにじませます。
 別の場所にある自宅の被害は免れましたが、店の被害は冷蔵庫、厨房器具、冷水器、什器など、ざっと700~800万円に上ります。

自宅も作業所も天井まで浸水し

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須賀川市内の至る所にごみや家具が山積みに

 同じく古屋敷地区で建具店を営む、Nさんの自宅と作業所は天井まで浸水。地区の15軒もすべて冠水しました。Nさん所有のパネルソー、鉋盤、モーター、ベアリングなど、建具工作機械もすべて水没。取材時には親戚や知人、仕事仲間の助けも得て、泥落としの作業に汗を流していました。「乾かして、動かしてみないと分からないが、コンピューター基盤がやられているかも。修理できるかさえ分からない。保険でカバーされる機械はないので、損害額は500万円は下らないのでは」と話します。
 「昨年、堤防が完成し、排水ポンプも設置され、市からは『これで大丈夫』と言われていた。安心して避難の準備もしなかったが、3時間ぐらいでポンプが止まり、あっという間に水かさが増した。故障したとの話だが、行政の責任が問われるのではないか」と指摘します。
 タンスにベッド、洗濯機に冷蔵庫、ボイラーなど家財一式に加え、壁も床も被害を受け、「損害額は200~300万円になるのでは」と見積もります。
 「顧客の工務店から『早く復旧してほしい』と言われるが、今月いっぱいは厳しいのではないか。資金の手立ても、これからだ。子ども2人はボートで救出されたが、小学校1年の長女は情緒不安定になり、水を怖がる」と、被災の大きさと復興の道のりの険しさを語ります。
 民商・県連は被災状況の掌握を急ぐとともに、営業再開に向けて、実態を踏まえた被害認定や復旧・復興支援を自治体などに求めていくことにしています。

長野県 工作機械が水没し

長野民商管内 資金繰りに不安

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 千曲川流域で大規模な氾濫が発生し、多くの地域で浸水被害が起きた長野県内の民商は15日から、会員の安否確認に奔走しています。
 長野民商は宮沢栄一会長を先頭に被災地域の会員を訪問し、被害状況と要求を聞き取りながら励ましています。

あっという間に水が入り込んで

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最も被害が大きかった長野市穂保地域

 15日は、最も被害が大きい長野市穂保地域、豊野地域で行動しました。同地域で支部長を務めるTさん=建築=の自宅は2メートルに迫る浸水で1階部分は完全に水没。訪問時は仕事仲間の支援を受けて片付けの最中でした。
 Tさんは「市から夜中に、避難準備も勧告もなしにいきなり避難指示が出た。あっという間に漬かった」と振り返ります。取引先や従業員の助けを得て、電化製品などを運び出し、1階の壁や床板をはがし、泥を洗い流すなど、片付けに一定のめどはついたものの、運び出した災害ごみについて「早く回収してほしい」と訴えていました。

工業団地も浸水 業者支援拡充を

 穂保地域にある市の北部工業団地内で金属加工の工場を持つKさんは同団地で30年以上、仕事をしてきましたが、工場はドアの高さまで浸水、工作機械が水没しました。2人の従業員などと一緒に何とか泥は洗い流したものの、「乾かして動くかどうか。駄目なら被害額は4~6千万円になる。中古の機械があればいいが、無ければ新品で8千万円超になる。後継者もいないので銀行から融資が受けられるだろうか」と事業継続への不安を口にします。「市は団地を売った責任があるのだから、無利子で融資が借りられるようにしてもらいたい」と要望していました。
 16日には篠ノ井地域を訪問。同地域は千曲川本流に流れ込む支流があふれ、水に漬かりました。牛乳販売店や工務店などで軒並み自動車が水に漬かり、使用不能に。仕事に支障が出ている状況も明らかになりました。

状況つかんで 自治体交渉へ 長野県連

 こうした状況を受けて県連は16日、台風被害の緊急対策会議を開催。長野、須坂北信濃、佐久、浅間、上伊那、飯田の各民商から8人が参加。被害状況の確認と併せて今後の救援活動の方針について話し合いました。
 県連の滝沢孝夫会長は「まずは会員の被害状況を明らかにしつつ、要求をまとめて行政に実現を迫ろう」と訴え。各民商から被害状況が報告され、塩川士郎事務局長が(1)県連として対策委員会を立ち上げる(2)被災会員の要望・実情の聞き取りを進める(3)県内会員に募金を呼び掛ける(4)集まった要望をまとめて自治体交渉を行う(5)罹災証明の取り方や被災者生活再建支援制度などを会外業者にも知らせる─ことを提起。県連理事会(10月18日開催)で改めて状況を報告し、全県挙げて支援に取り組むことを確認しています。

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