西日本豪雨被害から地域復興をめざす緊急提言
▽西日本豪雨被害に関する記事一覧はこちら
― 過去の教訓を生かして ―
2018年8月8日
全国商工団体連合会
はじめに
堤防の決壊で浸水した倉敷市真備町
車の半分が埋まるほど土砂が流れ込んだ広島県坂町
2018年7月、西日本を中心とした豪雨による甚大な被害が発生した。一命を取り留めた住民は、土砂や濁流によって壊された自宅、店舗、畑を見つめながら、以前の営みを取り戻したいという強い願いとともに、深い不安を抱いている。
日本列島では、2011年3月11日に発生した東日本大震災以降も、毎年のように地震や台風、豪雨による水害が発生している。地球温暖化がもたらす気象変化のもとで、日本列島は「災害多発地帯」となっている。度重なる災害被害から学ぶべき教訓を引き出し、今後に生かしていく必要がある。
全国商工団体連合会は2011年7月、東日本大震災に襲われた被災地の県連や全国の仲間とともに、被災者救援と被災地復旧の支援に奮闘してきた経験に基づき、復興・復旧のあり方について提言を発表してきた。
この間、実施されてきた政府の復旧・復興政策や、災害被害の実態などを踏まえ、あらためて、地域での雇用と経済を担う中小業者の立場から、国・自治体の施策に反映させるべき項目をまとめ、発表することとした。
この提言が、国民的な論議を深める契機となり、具体的な被災者救済や復旧・復興、あるいは今後の防災行政に生かされることを望む。
1、日本の風土と環境の変化に即した災害対策を確立する
提言1 今回の豪雨災害の特徴を捉えた対策を
今回の豪雨災害の特徴は、(1)九州豪雨被害の教訓が生かされず、流木によって川がせき止められ、被害を拡大させたこと、(2)異常気象が進む中で被害が住民の想定を超え、危険が予測されながら避難が進まなかったことが挙げられる。
年間の降水量が世界平均の約2倍という我が国では、洪水による被害が多発してきた。加えて地球温暖化が極端な気象現象をもたらしている。その影響は、猛暑、豪雨、大雪、台風の大型化、海水面の上昇などとなって現れ、地方や首都圏など地域を問わず、大水害の危険性を高めている。
日本の国土は、その7割が山地や丘陵地で急傾斜地も多い。洪水時の川の水面よりも低い「洪水氾濫域」で国民の半数が暮らし、総資産の約75%が集中している。高齢者が2階に避難できずに溺死する悲劇も起こった。大水害が発生すれば、おのずと被害は甚大になる。一方で、「洪水は完全には防げない」という指摘もある。
こうした実態を踏まえ、次のような視点での対策が求められている。
(1)治山治水を促進し、水没しないまちづくりを進める
*山林の手入れ、河川・堤防の清掃・管理・改修、危険個所の解消、排水ポンプの確実な稼働と能力アップなどを日常的に進める。
*災害が予測される地域への住宅建設を厳しく規制し、移転も含めた予防的対応を進めなければならない。
*トンネル、地下道、地下鉄など都市部を含めて防水対策を強化する。離島や漁港(沿岸部)への復旧対策も怠ってはならない。
*住民の命を守るうえで、とりわけ高齢者の居住スペースを2階以上にすることが重要である。住家内で「2階以上への垂直避難」ができるよう、国の施策として住宅リフォームへの補助を実施すべきである。
(2)日常的な災害対策と迅速な避難、危機管理を徹底し「縮災」をめざす
*災害が発生する仕組みをいくら理解したからといって被害は少なくならない。そこで、災害による被害を少なくする「縮災」をめざすべきである。そのために必要なことは、住んでいる地域の危険性を知り、いざという時にどうやって避難するかをしっかり確立しておくことである。
*災害発生に備える避難の準備、勧告、指示について、自治体の首長が早めに判断し、対応できるよう、情報が集まる国が自治体への支援を強めるべきである。災害の専門家を政府・自治体に配置し、広域化する災害に備えて自治体間の連携を強化する。各省庁が連携して災害対策に当たる体制構築も求められる。
*「避難所で被災した」という悲劇を繰り返さないよう、避難対策を常に点検し、改善すべきである。個人の尊厳や最低生活の保障に配慮した避難所の設置・運用を行い、避難者支援に万全を期す。
*生きるために欠かせない「水」の確保が重要である。断水を避けるために、取水施設や浄水場を守る対策と「水」の供給体制を強化する。
2、被災地の住民生活と中小業者の経営の再建に向けて
被災地の復旧・復興は、それぞれの地域の成り立ちや特性をしっかり踏まえたものにしていかなければならない。地域に密着して仕事をしてきた中小業者や農林水産業者は、地元の資源やつながりを生かして物をつくり、加工し、流通させ、雇用を維持し、地域経済を支えてきた。地元の中小業者・農林水産業者の再建を後押しすることが復興への確かな力となる。
提言2 生活再建、地域社会の再建こそ、復興の土台。個人の生活再生に最大の優先順位を置く
(1)被災者生活再建支援金の対象を拡大し、増額する
①支給対象に半壊・一部損壊を加える
被災地の復旧・復興のためには、被災者の生活、暮らしを元に戻すことが重要であり、その第一歩は居住の場を確保することである。水没・浸水した家屋の再生は困難であり、半壊・一部損壊であっても生活再建に支障をきたすことは明らかである。土砂に襲われた地域の住民は、なかなか元の場所に戻ることはできない。そこで、被災者生活再建支援法・生活再建支援制度を改正し、 支援金の支給対象に半壊・一部損壊を加える必要がある。
②支給額を増額し、単身世帯の減額は行わない
生活再建支援金は、基礎支援金(現行100万円)を200万円以上に、住宅の再建方法に応じて支給する加算支援金(現行200万円)を300万円以上とし、合計500万円以上を住宅本体の再建や改修にも使えるよう、改善すべきである。地域によっては一人暮らし高齢者など単身世帯が多数を占めるところもあることを考慮すれば、単身世帯への減額(3/4)は行うべきでない。
また、中小業者の自宅兼用の店舗や工場部分を別物扱いせず100%対象にすべきである。
(2)セーフティーネットを拡充し、生活再生と健康の維持を図る
被災者の生活再生に当たっては、当座の生活費や復旧・復興のための費用などを迅速に行き渡らせる必要がある。制度活用の要件とされる「り災証明書」の発行は本人の申告を尊重し、迅速に交付されなければならない。住宅被害等の認定に当たっては機械的な判定でなく、建物として使用に耐えるかどうかを基準とすべきである。生活福祉資金の要件緩和や審査の簡素化、貸付額の増額、受付場所の拡充などをはじめ、あらゆるセーフティーネットの拡充と状況に見合った柔軟な対応が求められる。納税緩和措置等の大胆な活用を図り、生活再建をめざす被災者への負担を最大限軽減すべきである。
被災者の健康を維持するためにも医療費や国保料(税)の減免を積極的に実施することが求められる。
提言3 復興の推進力、雇用創出の担い手である地域産業の再建を復興計画に位置づける
働く場が再生できなければ地域は復興しない。営業と生活が一体となっている自営業層への直接支援を行い、活力を引き出すことが重要である。中小企業憲章や小規模企業振興基本法の立場に立ち、中小商工業や農林水産業など、地域産業の再建へ向けた施策を復興計画のなかに位置づけるべきである。
(1)中小業者の店舗、工場などへの直接支援の拡充を
東日本大震災を機に創設された「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」(グループ補助金)は、多くの中小業者が利用し、復旧に一定の役割を果たしてきた。グループの範囲も熊本地震を機に2事業体であっても認定させ、また既存のグループへの参加も認めさせるなど制度改善が図られた。小規模企業持続化補助金の増額適用など災害対応にかかる制度も拡充されてきた。
こうした制度を大規模災害に限定することなく、台風・豪雨など災害救助法に認定される災害に適用し、個々の中小業者の営業再建に道を開く直接支援を実施すべきである。また、完全に事業を再建するまでには様々な困難が伴うことから、補助金は差し押さえ禁止とし、やむを得ず復興を断念する場合は補助金の返還規定を適用せず、補助金活用によって取得した事業用資産は非課税にするべきである。
工場・設備の無償貸与などで生業の早期再建を支援し、働く場を確保するべきである。雇用調整助成金を活用した被災事業所に対する社会保険料の負担軽減は緊急・切実な要求である。
(2)債務免責などの特別措置で、地域産業の再建を促す
多くの被災業者が「せめて、ゼロからのスタートを切れるようにしてほしい」と痛切に求めている。この間、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(2015年12月)による破産手続きによらない債務整理によって、2重ローン問題を一定解決する施策が実施されてきた。被災者の過去の借金・債務を免除、免責する特別措置を行い、生活再建と営業再開への意欲を育てることが重要である。
一方で、中小企業者の約7割が赤字経営といわれるなか、「営業赤字の解消」をガイドライン適用の要件とされてきた。こうした条件は緩和されるべきである。また、設備・運転資金などの事業再生資金を無利子・無担保・長期で貸与するなど、被災実態に応じた事業再開への支援を行う必要がある。
(3)復旧・復興に伴う公共工事の地元発注、基幹産業の復興を後押しする
使えなくなった家屋、店舗などの撤去費用や住宅の敷地に流入した土砂、がれきの撤去費用への補助を行うべきである。
がれき撤去や仮設住宅の建設には、地元建設業者への発注を推進し、発注元となる国や自治体からの直接払いを行う必要がある。仮に、大手建設業者やハウスメーカーが関連事業を受注した場合でも、契約上、地元中小業者への発注、被災住民の雇用を義務付ける必要がある。
地域産業の重要な部分を農業、果樹栽培、水産・加工が担ってきた経緯も踏まえ、使えなくなった農地や漁場、付帯設備の復旧を国の責任で行うなど、地域の実情や被害の実態に合わせて、第1次産業の復興支援を強化する。
復旧・復興に欠かせない重機を地元業者が維持できるよう、自治体が域内業者の重機保有状況を調査するとともに、重機を維持できる単価の設定や工事量を確保するなどの対策が求められる。自治体が域内の業者が保有する重機を備え、貸し出すことも一つの方法として提案したい。
3、住民主体の災害に強いまちづくりを進めるために
被災地域は地域コミュニティーが存在し、生きた役割を果たしていることから、被災者が参加し、住民が主人公のネットワーク型防災システムを実現する基盤がある。住民参加による復興を図るために、地域の中小業者を含む住民参加の防災システムを具体化することが求められている。
提言4 生活関連のインフラの早期復旧を図り、安全に配慮した復興を
被災者の生活確保・再建および地域の経済活動の継続・復興のためには、これらの活動を支える市街地の復興および住環境整備が不可欠となる。
また、被災者の生活と密接に関連するガス、水道、電気、通信、道路、鉄道などの都市基盤施設については、迅速な復旧に力を尽くさなければならない。
災害によって脆弱性が明らかになった施設や家屋、構造物については、より安全性に配慮した復興を実施していくことが求められる。
復旧事業が「開発優先」「ゼネコン奉仕型」のハコモノづくりに終始してはならない。災害復旧事業は、「地域循環」の基本を貫き、地域経済に貢献するよう、被災者の生活再建、雇用と仕事確保に充分配慮して行われるべきである。
莫大な費用を注ぎ込みながら、住民・中小業者のためにならない再開発計画が政府、財界主導で進められるという失敗を二度と犯してはならない。
提言5 エネルギー、食糧を地域循環型へと転換する
災害が頻発するわが国には、福島第一原発事故により原発の危険性が誰の目にも明らかであるにもかかわらず、いまだに北海道から鹿児島県まで、13道県16カ所39基もの原子力発電所がある。さらに、原発の新増設につながる新エネルギー基本計画が閣議決定(2018年7月)された。
一方で、元首相などによる自然エネルギー推進連盟(原自連)がつくられ、野党が「原発ゼロ法案」を国会に上程するなど、原発依存から再生可能な自然エネルギーへの転換を図るべきとの世論は高まっている。自然エネルギーの活用を条例として地域づくりに位置づけ推進を図る自治体も生まれている。
食糧やエネルギーなど地域社会に欠かせない物資は地域内で自給できるよう、産業構造の転換と強化を図るべきである。そのためにもこうした分野で、中小業者の力が発揮されるよう、育成・支援する必要がある。
4、復旧財源は財政の無駄の削減と大企業・大資産家の応能負担で
提言6 消費税率の引き上げを中止し、税の使い道を見直し、応能負担の原則による適正な課税によって財源を賄うこと
東日本大震災では「復興税」として庶民増税で賄われている。しかし、再建をめざす被災者にも容赦なく負担を強要してきたことは大いに批判されるべきである。重要なことは、「応能負担」「生活費非課税」の原則に立って財源を確保することである。
政府は当初、今回の豪雨災害の対策に充てる予備費を、クーラー設置などの「プッシュ型支援」にわずか20億円と発表し、強い批判が巻き起こった。結局、公共事業費と予備費合わせて4200億円規模へと拡大することとなったが、税金の使い道を根本から改める必要がある。
米朝首脳会談が開かれ、朝鮮半島情勢が大きく変化する下でも安倍政権は、必要性の根拠が崩れた一基1340億円超ともいわれるイージス・アショア2基の購入など、5兆円超の軍事費をさらに増やし、GDP比2%(10兆円)規模に拡大しようとしている。米国言いなりの武器購入や、首相の友人の学校に国・地方合わせて90億円を超える補助金を支払う「政治の私物化」に批判が高まっている。こうした無駄遣いとバラマキをやめ、被災地の住民の暮らしに寄り添う財政出動を行うべきである。また、年間320億円もの政党助成金は、政党がその気になれば直ちに復興財源に回すことができる。
また、必死で復興しようとする住民・中小業者を苦しめる消費税率の引き上げは中止すべきである。住宅や自動車など耐久消費財への減税ではなく、復興を後押しする消費税率引き下げこそ検討・実施されるべきである。
結びにかえて
いま、被災地には再出発をめざす住民、中小業者がいる。この苦難を被災者のものだけにせず、いつでもどこでも起こりうる災害として、国民が共有し、復旧・復興にその持てる英知と共同の力を発揮すれば、必ず乗り越えることができる。
わが国は、経済が行き詰まり、その打開をどう見いだすかが切実な課題となっている。あらためてわが国経済社会の矛盾を深くえぐり、根本的に見直し、転換する契機としなければならない。
われわれは、その際、歴史と伝統を継承し、地域性豊かな被災者主人公の復興を果たす上でも地域に根ざした小企業・家族経営が、大きな力を発揮しなければならないと考える。そして、この立場から被災地の復旧と日本経済の再生に力を尽くす。
以上