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全国商工新聞 第2807号 11月19日付
税金 徴税攻勢
個人タクシー税務調査で異常事態
修正強要で自殺相次ぐ
都内・税務署 理由示さず、7年遡及
税務調査を受けた東京都内の個人タクシー業者5人が相次いで自殺する(本紙調べ)異常な事態が発生。原因は昨年から急増した都内の個人タクシー業者(約1万9000人)を狙い打ちした調査です。件数は数百人規模に広がり、民主商工会(民商)にも「7年分の修正申告を迫られ、800万円になる」「ハンコを押させられた。どうにかならないか」など、深刻な相談が次つぎに寄せられています。民商では対策会議や業者団体との懇談など緊急対応をすすめています。
02年から始まった規制緩和により都内だけで5000台の車が増え厳しい状況が続いています(写真と記事とは関係ありません)
強要された7年分の修正申告書(右側)と2年分の消費税申告書
「昨年、今年と税金を苦に立て続けに自殺した同業者の葬式に行ってきた」という足立区の個人タクシー業者・沢田隆さん(仮名・61)。
「今個人タクシー業者の間では、どこの支部の誰に税務調査が入った、誰が自殺した、これでもう10人以上だという話でもちきりだ」といいます。2月に首をつった練馬区の50代の同業者は、あまりの税額に悩み、妻と一からやり直そうと話し合った当日、車庫に行ったきり戻ってきませんでした。葛飾区の40代の同業者も700万円の追徴を受け昨年10月、払い終わった直後に首をつって自殺。先日も江東区で首つり、北区で身投げしています。
「税務署は親メーターの走行距離の1割以下しか自家使用を認めないと言っているらしい。距離数から売り上げを割り出して、いきなり1000万円以上も払えって言われたら、死んで保険金で払うしかないでしょ。規制緩和で車が増えて売り上げは減る一方だし、長時間運転で体を犠牲にして仕事しているんだから」と怒りをあらわにしました。
いっそ死のうか
「私も死のうかと真剣に考えた。7年分の修正申告を求められ、追徴税額合わせて1100万円以上。毎晩うなされた。死神がつくってこのことだ」と話すのは東京・足立区の田中勇さん(仮名・64)。足立東民商に10月入会しました。
田中さんに税務調査が入ったのは8月中旬。経理を見ていた妻ががんで2月に亡くなり、引っ越しの最中だったこともあり、調査の延期を要望しました。
しかし、調査官2人は、荷物が片付いていない引っ越し先で9月3日から調査を開始し、その後6回ほど税務署に呼び出しました。青色申告にもかかわらず「署員は最初から元帳や日計表は見るつもりはなかった」と田中さん。署員は陸運局の反面調査で調べてきた車の走行距離を示して「1日に300キロ近く走っている。推計では本当の売り上げは倍以上あるはずだ」と詰め寄りました。
田中さんは「妻の通院にも使っているし、私用の走行は相当ある」と主張しましたが、税務署は田中さんの言い分を認めませんでした。悪質と決め付けられ、根拠も示さず「売り上げは1600万円くらいあるはず。今認めれば670万円(7年分の所得税、重加算税など含む550万円、2年分の消費税、重加算税など含む120万円)、そうでなければ1200万円にする」と強弁。田中さんはやむなく、670万円の修正申告書(3面「知っ得」参照)に印鑑を押しました。
しかし、これだけでは終わりませんでした。今、田中さんの所には、住民税7年分の追徴330万円、国民健康保険料の3年分の追徴124万円と続々と納付書が送られてきています。
「私はまったく納得していない。妻の抗がん剤で毎月二十数万円かかり、子どもも難病のため必死に働いてきた。一番腹が立ったのは、署員が家の購入の契約解除を迫ったことです。これは亡くなった妻の保険金を頭金にしたもので、妻の思いも踏みにじるものです」と話します。
足立東民商では1日、同業者の会員を交えた対策会議を開き、税務署に田中さんへの違法な修正申告の撤回を求めて、個人タクシー業者への相談体制をとることを話し合いました。
権利学習が大切
こうした税務署による違法調査の広がりを受け、板橋民商は4日、「個人タクシー問題を考える会」(板橋区高島平、会員320人)と懇談しました。個人タクシー業者への違法な税務調査とたたかい、駐車場の確保や業界の発展を目的に28年間活動している組織です。
「考える会」の黒田茂夫事務局長は「不審な個人タクシー業者は一人残らずすべて調査するとの税務署員の発言も聞いている。重大な事態だと思う。民商と一緒になって知恵を出していこう」と役員らを激励。
民商の小林昭子会長が全商連「自主計算パンフレット」の「税務調査の10の心得」を配布して(1)事前通知のない調査は帰ってもらう(2)仲間の立会人を置くようにする(3)納得できない修正申告にハンコを押さない‐ことなどを強調しました。
参加者から「権利の大切さがよく分かった」「会報で納税者の権利をしっかり宣伝しよう」などの声が相次ぎ、「考える会」の支部として商工新聞の購読を決定。また、自殺などの実態を把握し、早急に国会での追及や国税庁交渉などをしていこうと話し合いました。
27年前にも国税庁を追求
日本共産党元衆院議員 中島武敏さんの話
79年にも東京・板橋税務署が区在住の個人タクシー業者約2000人のうち、百数十人に対して、大掛かりな調査をおこない、親メーターから割り出した距離数などから一方的に売り上げと所得を推計し、修正申告の強要が相次ぎました。
私は80年2月の衆院予算委員会でこの問題を取り上げ、「税法上、そもそも青色申告者に対してろくに帳面も見ずに調査をしていいのか」「個人タクシー業者は釣りに行くとか、田舎にある墓参りに行くとか、私用にも当然車を使用しており、こうした私用分にも課税できるのか、税務署の私用分の記帳要求はプライバシーの侵害だ」と当時の磯辺国税庁長官にただしたのです。
磯辺長官は「青色申告者に対して帳簿書類を重要視するのは当然」「もちろん私用に供された場合には、それは売り上げには全然関係ない」「調査に行き過ぎがあったり、プライバシーの侵害とかあってはならない。十分気を付ける」と答弁。これを機に、国税庁・局交渉や各地の税務署交渉で、親メーターによる一方的な推計課税をやめさせ、取られすぎた分の更正の請求をおこない、還付をかちとりました。
個人タクシー業者のみならず、すべての中小業者の命、営業と暮らしを守るために、無法な税務行政の徴税攻勢から民主商工会のみなさんが先頭に立って頑張るときです。
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