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  トップページ > 教育のページ > 文化 >全国商工新聞 第2940号 8月30日付
 
教育 文化
 

街の本屋さんにエール・出版文化を守り抜きたい=作家 宮部みゆきさんに聞く


 携帯電話やパソコンで小説や漫画、雑誌などが読める電子書籍。急速な普及が紙書籍の販路に影響を与えるなど書店にとっては死活問題です。本づくりは作品が読者に届くまで、編集者、デザイナー、印刷・製本業者、書店などさまざまな人たちがかかわり、出版文化を支えています。紙書籍をこよなく愛する作家の宮部みゆきさんは「出版文化を守りたい」と声を上げ、街の書店にエールを送っています。


文章読むなら紙の本がいい
 ―紙の書籍にこだわるのはどうしてでしょうか。
 私は基本的に、ディスプレーで文章を読むことができません。原稿を書くときは、大きなモニターを使っていますが、ひと続きの原稿をディスプレーで見るのは400字が限界。なので、小説を読むなんて「とても無理!」というのがあります。
 ただ、最近出した短編小説集『あんじゅう』の表題作だけは、出版社からの提案で電子書籍のアイパッド版を作りました。これは挿絵をカラーで入れ、なおかつ触れると動かせ、ゲームのように遊べます。独立した商品だったので、今回、OKを出しました。
 私自身がユーザーとして今後、電子書籍を使うかどうかは、どんなハードウェアが出てくるか次第です。紙の本はハードウェアとして完成されたものなので、離れる気にはなりません。文章を読むんだったら、それは紙の本だろうという気持ちは動かないです。

作品を担う書店「元気を出して」
 作品は出版社と共同で作り、それを本屋さんにプロモーションして売っていただいています。ですから、街の本屋さんに元気を出してほしい。
 何か役に立てることはないかなと考えていますが、私の立場では、ともかく良い作品を書いて、当たるのを待つしかないのかなと。
 街の本屋さんを一番潤していたのは雑誌だったと思います。それが今、総崩れ。私たちが書いている文芸書はよっぽどのベストセラーでない限り、街の本屋さんの役には立てません。何が次に本屋さんの営業の糧になるのか、文芸にいる私には想像がつかないことが悲しいです。
 私も近所の本屋さんからゲーム雑誌を買っていました。売り出される日は、ルンルン気分。そのコーナーがキラキラ輝いて見えました。それがあるときから買わなくなった。そのゲーム雑誌がつまらなくなったからです。漫然と大量の雑誌が並び、どれを買っていいのか分からない。どれを買っても同じ。そう感じたのが4、5年前です。そのころから雑誌全体に元気がなくなったように思います。

うまくすみ分け、どちらもプラス
 ―電子書籍の広がりをどう思いますか。
 私は新書から経済誌まで、たくさんの本を買います。アメリカで起こったサブプライムローンのときもそうです。
 例えば、「米国のグリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長が何をしたか」を知るのは新書でいい。時々刻々と状況が変わっていくような問題を扱うものは、ハードウェアの性能が上がれば、電子書籍でもいいのかなと最近、思うようになりました。
 でも、グリーンスパンの伝記だとハードカバーが出ますよね。それは紙の本で読みたい。
 それから現状では新刊点数が多いので、電子書籍化で現場の過重労働の緩和になればと思います。日々、新刊本を全部並べるのは、大型書店さえも大変な思いをしています。
 本当に紙の本で売りたいもの、紙の本で残したいものとは、大量に売れないし、緊急性はないけれど、長く置けるものではないでしょうか。紙の本と電子書籍がうまくすみ分けられるようになれば、どちらにとってもプラスになるのではと思います。

街の本屋が存続できる仕組みを
 ―街の書店が元気になるには…。
 小さな本屋さんも組合などで電子書籍市場に書店を出すとか。そこで売れた電子書籍については利益を還元するような仕組みが作れないでしょうか。
 うちの近所は、新古書チェーン店ができるのがすごく遅かったんです。ギリギリまで出なかったのは街の本屋さんがあったからです。チェーン店とぜんぜん違う品ぞろえの本があれば、本屋さんで買いたいという潜在的な要求はあると思います。ミステリーの専門店とか、子どもの本、ビジネス書なら少し前のものでも全部そろっている個性的な本屋さん。そういうところがあれば、私は見に行きます。
 街の本屋さんなのにネットで評判になって遠いところからお客さんが来るということもあると思います。うちの近所にそんなたばこ屋さんがあるんですよ。あふれるほどの種類のたばこをそろえ、ネットで有名になって、東京の反対側からわざわざ買いに来る人がいます。
 「面白い本屋さんがあるんだって」と評判になれば、たくさんのお客さんが来てくれるんじゃないでしょうか。
 私と読者の間には、編集者やデザイナー、営業マン、印刷・製本や街の本屋さんが存在し、一緒に出版文化をはぐくんできました。その一翼を担っている街の本屋さんにぜひ、頑張ってほしい。


▽プロフィル 東京都出身。法律事務所等に勤務の後、87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。99年「理由」で第120回直木賞。01年「模倣犯」で毎日出版文化賞特別賞、02年第6回司馬遼太郎賞、第52回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門をそれぞれ受賞。07年「名もなき毒」で第41回吉川英治文学賞受賞など著書多数。


電子書籍 市場拡大/紙の書籍・雑誌は2兆円割る

電子書籍の市場規模

 書籍と雑誌を合わせた09年の販売額は1兆9356億円と、21年ぶりに2兆円を割り込みました(09年出版指標年報)。
 一方、電子書籍の市場規模は年々拡大し、08年度は468億円(前年比31%増)に達しています。中心は携帯電話向けの配信で、市場規模は402億円(前年比42%増)、インターネット向けの配信は62億円(前年比14%減)(別表)。全体の内訳は電子コミックが75・4%、電子書籍が12・9%、電子写真集が11・4%で、電子コミックが売り上げの大半を占めています(三菱総合研究所調査から)。
 電子書籍は、本の定価販売を義務づける再販売価格維持制度(再販制度)の枠外となり、出版関係者の間では、「電子書籍の普及が進むと再販制度が崩壊するのでは」と懸念する声も上がっています。

   
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