全国商工新聞 第3380号2019年10月7日付
全国中小業者団体連絡会(全中連)は9月20日、消費税10%への引き上げや複数税率・インボイス制度実施の中止、地方税や社会保険料の負担軽減、円滑な資金繰りへの対応などを求めて、経産省、財務省など7省庁と交渉し、延べ95人が参加。切実な実態を告発し、施策の改善を迫りました。
国保制度の改善、強権的徴収行政の是正などを求め、要請書を手渡す保団連の住江憲勇会長(左)
国民健康保険(国保)制度の改善や国保料・税、社会保険料負担の軽減、強権的徴収行政の是正などを求めました。
国保について「換価の猶予の申請が不許可になり、『一括納付か差し押さえの二択だ』と迫られた」(大分市)、「納付相談に行くと、まず『期限までに払いきらないと、収納課に移管して即、差し押さえする』と切り出す」(神奈川県厚木市)など、納税者を威圧した強権的徴収の実態を告発。省側は、「持ち帰り、各県に事実確認を行って、後日回答する」と約束しました。
社会保険料の徴収について、省側は生活実態の把握や猶予制度の提案など丁寧な納付相談をするよう指導していると述べ、「滞納、即、差し押さえはしない」と回答。参加者が「相談に行っても、いつまでにいくら払えるのかとしか言われない」「預金の差し押さえ解除に応じない」と実態を告発すると、省側は、問題のある事例については「日本年金機構本部か厚労省年金局に連絡してほしい」と述べました。
マイナンバー(個人番号)の労働保険事務組合での取り扱いについて、「取り扱えないことで罰則や直ちに認可取り消しなどの不利益は与えない」ことをあらためて確認。また、雇用保険、健康保険の被扶養者認定など各種申請での記載について、「記載がないことで受理しないことはない」「別途、書類で本人確認ができれば受理する」と回答しました。
地方税の換価の猶予を全国の自治体に促すこと、地方税滞納整理機構の徴収業務の実態を調査・把握し、法令の順守と適正化を指導すること、マイナンバー(個人番号)カード普及・利用拡大をやめること-など、7項目を要望しました。
地方税の換価の猶予について、参加者が「国税は1年間に4万件以上も許可されているのに、地方税は5千件にも満たない。どうなっているのか」とただすと、「地方団体からの相談に丁寧に対応し、制度の周知を図っていきたい」と回答。地方税滞納整理機構の徴収業務については、「機構で徴収事務を行う場合があっても、個別具体的な実情を十分に把握して適正な執行に努めることが重要」としました。
参加者は「従業員の給与差し押さえなどは業者にとって『死刑宣告』」(大分)と強く是正を要求。「学資保険や生命保険があった場合、解約しないと換価の猶予が使えないのか」(群馬)との質問に対し、「学資保険や生命保険の解約は法令上の要件ではない」と回答しました。
また、「固定資産税の分納は、3回までしか認められない」と自治体が主張した問題では、「分納の方法は地方団体が条例で定めるもので、地方税法上の定めはない」と回答。「納税緩和制度を否定する条例は認められないのでは」と見解を問うと「おっしゃる通り」と述べました。
台風15号被害に関して「全地域を激甚災害指定し、1日も早い復興、税の軽減・緩和の対応を」と強く要望しました。
地域の防災、安全に大きな役割を果たしている建設業者と、取扱量の激増で「物流危機」にさらされている運送業者の処遇改善を要求。千葉の参加者は、台風15号による被害の実態を訴え、早期復旧を求める要請書を手渡しました。
交渉団は、社会保険加入が強制される中、その原資ともなる法定福利費を別枠明示した見積書が、現場ではなかなか実現していないと指摘。省側は「2017年7月、公共工事標準約款を改定し、公共、民間を問わず、法定福利費の明示を標準化した。実態調査も行いホームページで公表している」と回答しました。
兵庫県の参加者は、4月から運用を開始した建設キャリアアップシステムをめぐり、「元請けから、キャリアアップカードの取得が現場に入る条件と言われている。手数料も3万円から7万円と言われてハードルが高い。取得は任意ではないのか」と追及。省側は、取得は「任意」とし、「対応については検討させてほしい」と約束しました。
また、運送業者の適切な運賃・料金体系を確立するために、「車建て」(1台いくら)、「個建」(1個いくら)を合わせた「二階建て運賃」の確立などを要望。省側は「サービスに見合った割増は可能であり、命令もできる。荷主の理解を得ながら要望に沿って対応していきたい」と回答しました。
埼玉県春日部税務署管内で事前通知もなく突然、署員が美容室を尋ねてきて、客の前で通帳を出させて写真を撮り、レジの現金を数えるなど適正手続きに違反する調査を行った問題について、当事者が実態を告発。税務運営方針に反していることを指摘し、事実関係の調査と指導を求めると、「所轄税務署等に連絡する」と回答しました。
また、税務調査の事前通知は税務署長名の文書で行うことや、納税者を税務署に呼び出してそのまま税務調査に移行するのはやめること、「消費税は預り金的性格を有する」という説明はやめること-などを求めました。
税務関係書類にマイナンバーの記載を求めていることについては「記載がないことのみで書類を受理しないことはない」と、あらためて回答しました。
消費税10%増税の中止などを求めた財務省交渉
消費税10%への引き上げを中止して5%に戻すことなどを要望しました。
インボイス制度については、免税業者の取引排除や負担増に関して十分承知しているとしつつ、「10年間の経過措置があるので、その間に対応を」と無責任な回答。参加者は「すでに現場では課税業者になることを迫られている」と実態を告発し、廃業が増える恐れがあることなどを突き付け、制度の中止を迫りました。
所得税法第56条廃止の問題は「慎重に検討している」と回答したものの、「白色申告者の記帳水準が向上していない」と強弁。「56条問題は人権問題。記帳水準の問題ではなく家族専従者の働き分が正当に認められない差別問題としてとらえるべき」と主張し、記帳水準についても「白色申告者も経営実態を数字でつかむ努力をしている」と訴えました。
円滑な資金繰りへの対応などを金融機関に働きかけるよう求めました。
改正信用保険法の趣旨を踏まえ、保証協会と連携した小規模事業者向けの経営支援(経営改善、事業承継支援など)を促進することについては、「信用保証協会法の改正で、保証協会の行うべき業務として、新たに中小企業の経営支援を追加した。運営に当たっては信用保証協会と金融機関が連携することが非常に重要であり、そのことも信用保証協会向けの監督指針に新たに明記した」としました。
フランチャイズ本部との不公正な取引の実態などが出された経産省交渉。同席した日本共産党の大門実紀史参院議員(右端)