全商連
全商連トップ とじる
IT・サービス
重度障害者のためのパソコン用「自在アーム」
福祉補助具と国が認定
個人事業主が開発・製造
京都・右京 福谷栄二さん
 京都・右京民主商工会(民商)の福谷栄二さん(42)が開発した寝たきりの重度障害者のためのパソコン用「自在アーム」がこのほど、厚生労働省の「障害者の補助具費」の支給対象や各自治体の障害者情報バリアフリー化支援制度の対象となると認定され、活用への道を開きました。「自在アーム」はどんな角度でもパソコンを支え、わずかな力で移動させることができます。福谷さんは、たった10坪の工場の個人業者。技術で福祉に役立ちたいという福谷さんの夢の実現に、民商と多くの仲間が応援しました。

中央大学の八幡ゼミの学生に「自在アーム」について説明する福谷さん
厚労省「障害者の補助具費」の支給対象
自治体「バリアフリー化支援制度」の対象


 福谷さんは、レントゲンの周辺器具の製造加工を営む業者2世です。元請けメーカーの海外進出や新設病院の減少で受注が激減。なんとか技術を生かして障害者に役立つ製品開発ができないかと考え、思案中の「自在アーム」についての夢を所属する葛野支部の役員会で語りました。また、民商の「ものづくりの会」のメンバーの激励やアドバイスも受け、福谷さんは開発を具体化していきました。
 試作品は、右京民商や京都府商工団体連合会(京商連)の商工フェスタ(京見にき展)に展示、仲間の意見を聞くチャンスとなりました。

個人業者が快挙

 しかし、製作にかかるには開発費が問題でした。福谷さんは、日本最大規模の中核的技術開発実施機関である新エネルギー・産業技術総合開発機構(通称NEDO・ネド)の「福祉用具実用化開発費助成制度」を活用することを決意。必要な書類を書き上げ、申請したところ93社中採用3社の中に入ったのです。並み居る大企業や専門企業を押しのけ同制度に認定(製作期間3年間で費用を助成)、個人事業所では関西で初の快挙でした。
 福祉分野の仕事は未知の分野。いくつもの苦労がありました。ある寝たきりの患者さんを紹介してもらい、試してみると不具合が分かりました。病室は、予想以上に狭く、床づれ防止でベットごと動かす状況。そこで固定式でも移動式でも可能になるように工夫し、フレームも折りたたみ式に改良。現場に行くことで、障害の程度と設置環境の条件に対応する機能がいることに気付いたのです。
 そして福祉用品は、大量生産でなく、障害者の目線からつくるオーダーメイドの必要性を痛感。こうして仲間の支援もあり、2年間で「自在アーム」を完成させたのです。

「自在アーム」を使ってパソコンを操作(女性はモデルです)
自立への出発
 ところが下請け業者の福谷さんは、販売の仕方が分かりません。たまたまNEDOの枠でバリアフリー展に出展したときから「自在アーム」に注目していた広島県にある福祉器具レンタル会社から、ようやく注文が入りました。注文主は筋ジストロフィーの女性の患者さんでした。
 それもレンタル会社の社長などの尽力で、福山市の障害者情報バリアフリー化支援制度(国の制度。実施主体は自治体)の助成対象となりました。

京都市も認定へ
 福谷さんも早速、京都市に足を運んで同制度の助成を申請しましたが、「前例がない」と断わられました。交渉してやっと認めさせたものの、福谷さんはこの制度が国から地方への権限と財源移譲の政策で、国がつくった制度でありながら、運用は各自治体に任されていて、パソコンの周辺機器への判断がまちまちとなっていたことが分かりました。
 福谷さんは8月末に上京。日本共産党の穀田恵二国会議員と加藤広太郎京都市会議員、右京民商の同席で、厚生労働省に同制度への適用について要望。福谷さんの「自在アーム」が制度対象の福祉補助具であるとの回答を得たのです。福谷さんは9月12日、中央大学経済学部の八幡一秀教授のゼミの視察交流会に招かれ、38人の学生たちに報告。八幡教授は「下請けが淘汰されるなか、下請けからの自立を図ったもの。小さなマーケットだが、確実にニーズのある商品開発を手がけ、完成度も高く、世界に通用する福祉補助具だ」と評価しています。

障害者への朗報
 福谷さんは福祉制度の改善と自分の事業活動が一体であることを自覚させられました。市内のうずまさ診療所の在宅介護支援事業所のケアマネジャーの細見りつ子さんは「重度障害者に新しい世界を提供できる素晴らしい器具を提供して下さり、喜んでくれると思う」と声を弾ませます。
 葛野支部の支部長の砂山修三さん(52)=ゴム糸目=は「めざすものに夢があっても、たいていは途中で挫折するのが現実。福谷さんはあきらめず、くさらず、慌てずに継続してきた。立派なこと。これからが本当の正念場だ。引き続き応援していきたい」と話しています。
 福谷さんは、「一人ではここまで、これなかった。民商の仲間と多くの支援者のおかげ」と喜んでいます。
 ▽「自在アーム」の問い合わせ 京都市中京区西ノ京壷ノ内町18の9 Tel075・822・6712 福谷まで
 
全商連トップ ページの先頭 とじる