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自治体
債権回収会社に公務を委託
東京・足立区が「市場化テスト」モデル事業
地方税徴収を狙う
総務省がハッパ 差し押えの権限も
 「市場化テスト法」(注)が5月26日、国会で成立し、国民の命とくらしに直接かかわる国・自治体の公務が市場化・民営化の危機にさらされています。国・自治体双方による市場化テストが何をもたらすのか‐市場化テストのモデルとして実施が始まっている足立区の現状を見てみました。


市場化テストがすすむ東京・足立区(区役所)
突然、国民年金の督促の手紙が
 今年3月、東京・足立東民主商工会(民商)に国民年金の督促で相談が相次ぎました。商工新聞読者のAさんにはエー・シー・エス債権管理回収(株)から、「国民年金保険料に関するお問い合わせ」として未納の国民年金を督促する内容の手紙が届きました。Aさんは「聞いたこともない会社名なので本当にびっくりした」と言います。足立東民商では、Aさんらとともに社会保険事務所に出向き、「本人の了解なく債権回収会社になぜ回したのか」と抗議し、今後の支払い方法などを交渉しました。
 社保庁は国民年金保険料の納入率を引き上げようと、市場化テストを導入。まだ法制化していない昨年10月からモデル事業として足立区を含む全国5カ所で、未納者に納付をすすめる仕事を民間会社に委託。足立区ではイオンカードなどの債権回収を業務とするエー・シー・エス債権管理回収(株)が落札し、約4万2000人分の個人情報が渡され、回収業務をおこないました。

国民年金滞納者に送られてきた民間会社からの督促状
地方税徴収など委託範囲拡大も
 足立区役所でも市場化テストがすでに始まっています。03年4月には総務省から「雇用創出特区」の認定を受け、区役所内に(株)リクルート社員の席を設けて、個人情報を共有し、官民共同の足立ジョブセンターを開設しました。05年には内閣府に「市場化テストを含む民間開放要望」を提出し、地方税徴収などの委託範囲の拡大を提案。差し押さえ、公売、分納誓約などの公権力を含む業務委託を要望しました。
 足立区が市場化テストの突破口として位置付けているのが、来年6月からの開始をめざす多機能型コールセンターです。区民の氏名、住所はもとより、税など足立区民60万人分の個人情報を、民間業者に丸ごと渡すというもの。委託を受けた民間業者が区役所外の事務所で、個人情報を含むさまざまな質問に答えるだけでなく、住民税、国保料などの納付督促も来年6月から開始する予定です。「個人情報が守れるのか」「徴収強化につながる」と不安が広がっています。

自治体の57%導入を検討へ
 地方税徴収の民間開放については、総務省が各自治体に昨年4月に通知を出し、もっと努力をせよとはっぱをかけています。「税源委譲等を通じて地方税の重要性が増していくに伴い、その厳正・公平な執行がこれまで以上に必要となる」として、「民間事業者のノウハウを活用できる業務についての民間への業務委託等を一層推進するよう」にと指導しています。
 現時点では、差し押さえ、督促などの業務は「補助的なもの」と限定付きですが、国は市場化テスト法に基き、民間事業者や自治体からの要望をふまえ、対象事業の拡大と全国適用の規制を緩和する特例措置を講ずることが義務付けられています。今後、公権力をもった徴収の民間委託化が市場化テスト法の下で制度化する可能性があり、徴収強化にいっそう拍車がかかることは火を見るより明らかです。
 市場化テストの導入は自治体の判断に任されていますが、導入を検討する自治体が57%(今年1月、三菱総研調べ)に広がるなか、市場化テストの弊害を広く国民に告発していくとりくみが求められています。

(注)市場化テスト法
 正式には「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」といい、国・自治体のあらゆる公務について、入札によって官と民を競わせ、市場化・民営化を強制的にすすめるもの。三菱総研などが「50兆円規模のビジネスチャンス」というように、新たなもうけ先を確保する財界戦略。現在、自治体ができる市場化テストは、「特定公共サービス」として戸籍謄本や住民票の引き渡しなど6つの対象事業に限られますが、順次拡大される方向です。
 
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