全国商工新聞 第3365号2019年6月17日付
“現地検証”を行う仙台高裁の裁判長ら(弁護団提供)
東京電力福島第1原発事故の被害者約4000人が、国と東電を相手に原状回復と慰謝料を求めている「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟、中島孝団長)の控訴審で、仙台高裁の上田哲裁判長らは5月27日、浪江町や富岡町の原告の自宅、医療、商業施設、学校などを訪れ、事実上の“現地検証”を行いました。
福島原発事故をめぐる集団訴訟の控訴審で高裁が現地を“検証”するのは初めて。原告と原告側代理人、被告側の国、東電の代理人など約60人が立ち会いました。
浪江町では、旧避難区域で自動車整備工場を経営していた相双民商会長の紺野重秋さん=福島市に避難中=の自宅とその周辺の被害を確認。
原告代理人は、田植えの時期にもかかわらず水が張られていないのは、田起こしをすれば国から補助金が出るためだと説明。放射線の汚染された大量の土の仮置き場が設置されていることや、住民の帰還率もわずか4・2%にすぎないと説明しました。
紺野さんは裁判長らに、避難指示が解除されても、住民が帰ってきていないため仕事にならないと説明。「言葉では表せない、この8年間の苦労を裁判官に分かってほしい。そしてこの苦しみがスカッとする判決を出してほしい」と語りました。
富岡町では、「ふたば医療センター附属病院」、商業施設、小・中学校を“検証”。原告代理人は、2018年4月に開院した医療センターについて、現段階では「廃炉や除染作業員などの医療機関」となっており、「帰還住民への医療提供」という役割は限定的と指摘しました。
震災復興の後押しと期待された商業施設「さくらモールとみおか」は、営業時間が短く、定休日も日曜日と作業員のニーズに合わせたもので、富岡小・中学校の生徒数は、事故前の1476人から82人と5%にまで激減したままだと強調しました。
帰還困難区域にある富岡町の深谷敬子さん宅の訪問は、放射線量が高く、一行は防護服を着ての“検証”に。美容室を営んでいた深谷さんは、動物や人が侵入し、荒れ放題になっている自宅、店に目をやりながら「楽しい老後を描いていたが、家も店も何もかもダメになった」と声を振り絞りました。
次回口頭弁論は6月20日。
一審の福島地裁でも生業訴訟が、全国初めて現地検証を行ったが、高裁段階でも全国に先駆けて“現地検証”を行ったことになる。
裁判官は浪江、富岡の両町に足を踏み入れたことによって、被害の実態、状況を実感し、8年に及ぶ原告の苦しい思いを斟酌できたのではないか。
高裁段階で裁判官が、現地に足を運ぶことは珍しい。福島原発事故による被害の大きさを受け止めているからだろう。次回の弁論で予定されている原告の本人尋問も踏まえ、来年に予定される判決では、一審を上回る内容を勝ち取りたい。