「今も続く被害 救済を」 福島生業返せ訴訟
控訴審で裁判官が現地“検証”へ

全国商工新聞 第3342号2018年12月24日付

第2回口頭弁論

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「福島の切り捨てを許さない」と声を上げる生業訴訟の原告、弁護団、支援者ら

 東京電力福島第1原発事故の被害者約3600人が、国と東電に対し、原状回復と慰謝料を求めた「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟、中島孝団長)の控訴審第2回口頭弁論が12月10日、仙台高裁(市村弘裁判長)で開かれました。裁判後の「進行協議」で市村裁判長は来年5月、避難指示が解除された地域を“検証”する方針を明らかにしました。

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200人超が参加した控訴審期日前集会

 一連の福島原発事故をめぐる集団訴訟で、高裁の裁判官が検証するのは初めて。
 進行協議では“検証”のほか、15人の本人尋問を2月(3人)、7月(6人)、9月(6人)の3回に分けて行うことも確認しました。
 この日の弁論では富岡町の深谷敬子さんが意見陳述。結婚後、富岡町で自宅を新築し、美容師の仕事を生きがいとして、人とのつながりを作ってきたにもかかわらず、原発事故で、自宅や店もめちゃくちゃになり、人間関係が「総崩れになった」と告発。「心安らかに過ごせるところがない。いつも先の見えない不安や寂しさがつきまとう」と苦しい心情を述べるとともに、国や東電に「あの日の私を返してください」「安心して生活できるようになるまで国と東電は責任をもって賠償してほしい」と訴えました。
 原告代理人の南雲芳夫弁護士は、日本海溝沿いの地震想定をめぐって国が論拠としてきた「津波評価技術」が、「既往最大」ではなく、「想定される最大規模の地震をも考慮している」かのように主張を実質的に変更し、原発の敷地を超えるような津波を予見できなかったとしたことを厳しく批判しました。
 深谷拓弁護士は、原発事故による避難生活によって、住まいや生活の軸となる生業・自然環境などの「生存と人格形成の基盤」から隔絶され、それによって「日常的な幸福追求による自己実現」が阻害されてきた、と二つの被害類型があることを指摘。裁判官に対し「今も続く被害に正面から向き合い、救済してほしい」と訴えました。
 裁判に先立ち、仙台市内の公園で行われた控訴審期日前集会には福島、宮城、京都などから200人を超える原告、支援者らが参加。この後、仙台市内の商店街をデモ行進、「原発再稼働今すぐやめろ」「国と東電は責任果たせ」などとコール。裁判への支援を呼び掛けました。

一審上回る判決期待

弁護団事務局長 馬奈木 厳太郎さんの話

 裁判後の「進行協議」で、市村弘裁判長は来年5月27日、避難指示が解除された浪江、富岡両町で「進行協議を行う」と明言した。「現地視察」と伝えている報道もあるが、裁判長は「事実上の検証」と述べている。裁判所として積極的に被害の実態に向き合う姿勢を見せたもので、その意義は大きい。福島原発事故をめぐる各地の裁判で、高裁が“検証”を行うのは初めて。被害者15人の本人尋問の実施も決まった。
 国側は頑強に“検証”と本人尋問に反対したが、4000人近い原告に加え、社会的な耳目を集めてきた生業裁判ということも、裁判所の決断を後押しするものになったと思う。当事者の生の声を聞いてもらい、被害現地も見てもらい、一審判決の水準を上回る勝訴判決につなげたい。

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