税務署や自治体が行う金融機関への預貯金照会などの反面調査を、デジタル化しようとする動きが強まっています。国税庁は昨年10月、民間企業の(株)NTTデータを介在させ、デジタル化に向けての実証実験を行いました。どんな実験が行われたのか、デジタル化の狙いは何か、反面調査はどうなるのか、納税者のプライバシーは守れるのかなどを、Q&Aで解説します。
Q1 どんな実験が行われたの?
A 税務署と金融機関が金融取引情報の照会・回答をデジタルで結ぶ実験
国税庁は昨年10月から12月まで、納税者の金融取引情報の照会・回答をオンライン化する実証実験を行いました(図)。NTTデータが預貯金等照会業務のデジタル化サービス「ピピットリンク」を提供しました。東京、仙台の両国税局と神奈川県内の10税務署、福島県内の18税務署を対象にし、福島市に本店を置く福島銀行と東邦銀行、ゆうちょ銀行と横浜銀行の4行が協力しました。
この実証実験は「デジタル・ガバメント実行計画」(2019年12月20日閣議決定)の一環で実施したもので、21年度までに金融機関120と自治体300の行政手続きをデジタル化することをめざしています。
東京都主税局は21年度から、都税滞納者が督促や催促に応じない場合に行う財産調査のうち、金融機関への預貯金などの照会をデジタル化することを打ち出しています。
ピピットリンク
行政機関から金融機関への預貯金の照会業務をオンライン化することで、事務処理等にかかる業務負担減を可能にするサービス
Q2 照会方法はどう変わる?
A 書類郵送からペーパーレスへ
反面調査に際して行われる預貯金照会・回答は、自治体分を含めると現在、全国で年間6千万件に及び、金融機関に書類を郵送し、紙ベースで行われています。
今回の実証実験ではペーパーレスで、ピピットリンクサービスや、納税者のマイナンバー(個人番号)、法人番号を使って、納税者の金融取引の照会・回答をデジタルで行った場合の事務の流れや、効率化の効果などを検証しました。国税庁は、郵送に比べて照会や回答にかかる日数が大幅に減ったことが確認されたと、国会で答弁しています。
Q3 業務の効率化は必要では?
A それだけでなく、反面調査が容易に行われ、プライバシー侵害も
業務の効率化は必要です。しかし、実証実験を行ったのは、それだけが目的ではありません。
今回の実証実験は、技術的課題の解決を目的としているように装っていますが、実際は反面調査と深く関わっています。
国税庁の税務運営方針には「取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討する」ことが明記されています。しかし、税務署と銀行がオンラインで結ばれれば、税務署員が手元にあるパソコンキーをたたくだけで、納税者の金融取引情報を自動的に把握することが可能になると指摘されています。
金融取引の照会・回答のデジタル化は、反面調査が客観的に必要性があるのか十分に精査することなく行われる可能性が高まり、税務調査の強化や、納税者の金融プライバシーが侵害される恐れがあります。
菅政権はデジタル庁を設置しようとしていますが、今回の実証実験は、納税者の総合的な個人情報を国家が監視する動きの先駆けとして、捉える必要があります。
Q4 納税者のプライバシーをどう守る?
A デジタル化手続きに本人を参加させて
大門実紀史参院議員(共産)がこの問題を国会で取り上げ、麻生太郎財務相は「税務調査は納税者の理解と協力を得て行われるもので、税務当局もそのことを理解してやらなければならない。デジタル化になっても、手続きの基本は変わらない」と答弁しています。
大門議員は「納税者のプライバシーを守りながら行うのが任意調査である」と強調し、アメリカで実施(19年8月16日から)されている「納税者ファースト法」の内容を紹介しました。
この法律は、反面調査の手続きに納税者本人が参加するためのもので、反面調査を実施するときは、45日前までに本人に通知しなければならないことを定めました。大門議員は「デジタル化は、アメリカの方が先行し、民間企業もいろいろノウハウを持っているが、民間の相手企業のプラットホーム(基盤)を使って税務調査をやろうという発想がない。デジタル化による効率化が、納税者の手続き上の権利を侵害する恐れがあるので、納税者に参加してもらうことによって歯止めをかけている。アメリカの例も参考にしながら、納税者の権利が侵害されないようなシステムを構築してほしい」と訴えました。
デジタル化が進む中で、納税者のプライバシーが侵害されないように、注視することが必要です。