独禁法違反の可能性
公正取引委員会(公取委)は2日、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」結果を公表。コンビニ本部が加盟店に24時間営業を強制することは独占禁止法(独禁法)違反に当たる恐れがあるとする見解を示しました。本部8社に対して、独禁法上の問題点等を指摘し、自主的点検および改善を要請。11月末までに点検結果と改善内容の公表を求めています。
大規模実態調査を公表
公取委は、24時間営業について、時短営業を求める加盟店との協議を本部側が一方的に拒み、不利益を与えた場合には、独禁法上の「優越的地位の乱用」に当たる恐れがあると指摘しています。
調査では加盟店の77・1%の店舗が深夜帯は赤字、66・8%が「時短営業に切り替えたい」と回答。本部が時短の「交渉に応じない」との回答は8・7%ありました。
加盟店の近隣に新規出店する、いわゆる「ドミナント出店」についても言及。加盟者にテリトリー権が設定されているにもかかわらず、これをほごにし、同圏内に「同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が営業させ不利益を与えた場合」、公取委は独禁法違反に当たる可能性があるとしました。
加盟店への調査では、近隣の店舗数が「多いと感じる」との回答が67・2%に上り、「500メートル以内に出店しないと口頭で説明されたが、300メートルの場所に出店された」などの事例もあったことが報告されています。
セブンイレブン東大阪南上小阪店のオーナー松本実敏さんが2018年2月、コンビニの24時間営業の過酷さを訴え、本部の同意なしに深夜営業の中止に踏み切ったことを契機に24時間営業の強制が社会問題となりました。これを受け、公取委は、19年10月からフランチャイズチェーン(FC)本部と全ての加盟店を対象にした初めての大規模実態調査を実施(5万7千店に依頼、1万2093店から回答)。調査結果と問題となる行為についての考え方と公取委の対応を報告書にまとめ、公表したものです。
フランチャイズシステムは、本部と加盟店の双方のメリットの実現をめざしたビジネスモデルとして、コンビニを中心に広がってきました。
本来、対等な事業者同士の契約のはずですが、圧倒的に立場の強い本部が自らに有利な契約内容を押し付けたり、約束を履行しないなどさまざまな問題が起きており、どのように公正な取引関係を確立するかが課題になっています。
同報告書では、24時間営業問題の他にも、これまで問題となってきた諸点について報告を行っています。
加盟前の説明 過大見積もり
「ぎまん的顧客誘引」について、「加盟前に受けた説明よりも実際の状況の方が悪かった」が41・1%となっている他、「来店客数が過大に見積もられた」63・3%、「人件費が過少に見積もられた」47・0%などを指摘。「丁寧な説明を行うことが求められる」と述べています。
無断で発注をされた事例も
「仕入強制」では、「意に反して仕入れている商品がある」が51・1%、「指導員に無断で発注された経験」も「恒常的にある」「ある」が合わせて25・7%に上ります。
排除措置後も値引きを制限
09年に排除措置命令が出された「見切り販売の制限」では、依然として値引き販売の制限は残っており、77・0%のオーナーが見切り販売を「行っていない」と回答しています。
「指導員から見切り販売をしたら契約を更新しない・契約を解除するといわれた」などの実態や「見切り販売が可能だが、かなり時間の掛かる方法のためほとんどの店舗が行えない状態」にあるといったシステム上の問題も指摘されています。
公取委は報告書で、値引き販売について「柔軟な価格変更をしたいという事業活動を制限しないようにする必要がある」と改めて注意を促し、仕入れの強制についても「多くのオーナーから強い懸念が示され、事実関係によっては独禁法上の問題が生じうる」と強調しています。
公取委の菅久修一事務総長は2日に記者会見して「本部自ら現状を点検し、取引環境が改善に向かうことを強く期待する。もし違反行為に接した場合は厳正に対処したい」と述べています。
ぎまん的顧客誘引
FC契約時に加盟希望者に適正な判断に資するような十分な情報開示がなされず、虚偽もしくは誇大な「予想売上や収益の額に関する説明」がされる。
仕入強制
加盟店が返品を認められないにもかかわらず、実際に販売に必要な範囲を超えて商品の購入を求められる、あるいは指導員に無断で発注される。
見切り販売の制限
売れ残り商品の値引き販売を不当に制限される。
全商連「見解」指摘してきた問題点が浮き彫りに
2日に公表された公取委の「実態調査」結果は、全国商工団体連合会(全商連)が昨年3月20日に発表した「24時間営業などコンビニが直面する課題と私たちの考え」(以下、「見解」)で指摘してきた加盟店と本部との取引上の問題点をあらためて浮き彫りにするものとなりました。
公取委は独禁法関連のガイドラインの見直しを示唆しており、あらためて本部の責任と対応が問われることとなります。
全商連は「見解」で取引上必要な改善点(別項)を指摘し、本部に届けるとともに、経済産業省への要請などを通じて、対応を求めてきました。
「実態調査」では、依然として、「365日、24時間営業」が加盟店に強制されている状況が明らかとなっています。公取委が「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し、加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場らんよう合には、優越的地位の濫用に該当し得る」としたことは一定の前進として評価できます。
一方で、09年に本部による「見切り販売」禁止に排除措置命令が出されたにもかかわらず、7割の店舗が「見切り販売」を行っていない、行えない状況が続いていることを踏まえれば、公取委にはさらに踏み込んだ実効性のある対応が求められます。
「実態調査」ではオーナーが過酷な勤務を強いられているにもかかわらず、収入が600万円にも届かない状況で、65・4%が「債務超過又は500万円未満」の資産しかないことも報告しています。全商連の「コンビニアンケート」結果(19年7月)では、「ロイヤルティー(チャージ)の引き下げ」を87・5%のオーナーが求めています。地域に愛され、貢献する魅力ある店舗経営を行うためにも、オーナーの生活が成り立つ適正なロイヤルティーへの改善が重要です。
加盟店の営業の自由を認めて、本部との共存・共栄を図れる健全な業界へと発展させるためにも、FC法の制定が求められています。
「見解」で示した改善点
(1)24時間営業の強制をやめ、実情に応じ時間短縮を認めること
(2)加盟店の営業体制の維持へ、きめ細かな支援を行うこと
(3)人件費高騰に見合うチャージ引き下げで、加盟店の経営改善を可能にすること
(4)見切り販売をしやすくすること
(5)本部と加盟店の契約の公正・適正化へ、FC法制定を
調査生かしFC法を
全国FC加盟店協会会長庄司 正俊さん
今回の調査に関して事前に意見も聴きたいと公取委事務局の要請があり、当会のオーナーらが応じ、意見表明した経緯もあります。
全体として現在直面している実態が全面的に明らかにされ、意義ある「調査報告」であると言えます。
最も重要なことはこの実態に対して公取委がどう対応するかにあります。この点では、大手8社の自主点検と改善計画を11月末までに報告を求めているにとどまっています。独禁法違反の未然防止という立場を全面否定しないにしても「本部任せ」では改善されないことは実証済みです。
公取委としてFC規制法制定の検討に着手することこそ、実態調査を生かす道であると考えます。