批判続出GOTOトラベル 中小旅行代理店は後回し 拙速、矛盾だらけ|全国商工新聞

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国内外の観光客が訪れる世界遺産・厳島神社(広島県廿日市市)。4月には前年同月比で観光客が9割も減りました

 新型コロナウイルスの感染再拡大が続き、国民の不安や反対の声が広がる中、7月22日から見切り発車された「Go To トラベル」キャンペーン。政府は「旅行業界の要望が強い」と釈明しますが、大手旅行代理店が早々と申し込みを受け付ける一方、中小旅行代理店は国による説明会が7月21日からようやく開かれるなど準備不足が目立ちました。説明会に参加した業者は「ここまでひどいとは思わなかった」と驚きます。「混乱は必至。中止すべき」「観光業界への支援策を見直してほしい」と声を上げています。

観光支援策見直しを

小野寺研一さん(富士国際旅行社営業部長)

 22日にスタートした「Go To トラベル」。しかし、その時点で割引対象になる事業者登録すら始まっていませんでした。
 21日に都内で開かれた旅行業者向け説明会に参加した「㈱富士国際旅行社」(新宿区)の小野寺研一さんは、「肝心の登録申請の書類が配られるものと思っていたが出なかった。申込書や登録アドレスも『今日か明日には』と言われるだけだった」とあきれます。

説明に質問殺到

都内の大手旅行会社の受付窓口。ネット予約の客が「最大35%割引」の宣伝に引き寄せられ、次々と相談に来店

 登録して、認可に1週間かかるとすれば、事業者による受け付けは早くとも27日以降に。事務局の説明に対し、質問が殺到しましたが、質疑応答は40分で打ち切られました。
 質問が集中したのは、「団体旅行」の定義や「東京除外」の問題などです。「高齢者・若者の団体旅行や宴席を伴う旅行については控ええて」とは言うものの、「何歳から高齢者?」「若者とは?」「宴席は何人からダメなのか」など相次ぐ質問に、「判断は事業者にお任せします」と述べ、「審査して適切でない場合は補助金を支払わない場合もある」との説明を受けました。
 小野寺さんは「お客さんへの割引分は立て替え払いし、助成金が出てから補填することになる。出ない場合があるとすれば、お客さんから、お宅の説明や判断が間違っていたからだと、責任が問われかねない」と基準も示されずに進む状況を批判します。

要件があいまい

 「団体旅行」のグループには補助対象外の都民も混在する場合もあります。「会社や団体の所在地で判断するだけで、東京だとダメだが、例えば、千葉の学校なら生徒の中に都民が入っていてもOK。メンバーの名簿や住所までは求めない。グループは代表者の住所だけでいい」との説明です。
 しかし、「東京在住を隠していいというわけではない。都民だと分かったら割り引かないでほしい」と注意されました。
 「名簿を出せとも言わないし、確認する必要があるとも言わない。しかし、都民が混ざっていれば割引分の返還を求められたり、不正受給を見逃したりすればペナルティーを課せられる場合もあるような雰囲気だった。あいまいにしておきながら、矛盾は業者にしわ寄せするものではないか」と、小野寺さんは準備不足のずさんさを指摘します。
 団体旅行を中心に請け負う「㈲勤労者レクリエーション協会」(豊島区)の三宅亮平さんは、「説明者は『委託された者です』というだけで、名乗りもしない。資料の説明も、不明な部分が大半で、質問しても、詳細は後日ホームページでアップするので、そちらを確認してほしいと答えるだけ。『お客さまにどういう説明をしたら良いのか』と不安の声が相次いだ」と話します。

キャンセル増え

 前出の小野寺さんは、「Go Toの実施が決まって、逆にキャンセルが増えている」と指摘します。感染拡大への不安や、キャンペーンを巡っての報道が消費者マインドを下押しているのではないかと懸念しています。「感染を拡大しかねない政策を拙速に行うより、安心して旅行ができるような状況に戻すことが先決ではないか」。当面は様子を見ないと、Go Toキャンペーンの適切な対応はできないと考えています。
 三宅さんは「需要喚起になるのは、業者にとってありがたいとはいえ、立て替え期間が長くなると、経営的に厳しくなるという問題もあり、分からないことだらけ」と見切り発車への不安を語ります。

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