いわゆる「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が11月1日に施行されました。フリーランスと取引する中小業者らは何に気を付けるべきか。弁護士の深井剛志さんに解説していただきました。
発注条件や期日を明示報酬減額や返品は禁止
弁護士深井剛志さんが解説
〈フリーランス新法の目的〉
フリーランス新法は、フリーランスが取引先からの報酬の不払いやハラスメントなどを受けないよう、フリーランス保護のために制定されました。一言でいえば、フリーランスへ仕事を発注する事業者に①取引の適正化②就業環境の整備―を求めるものです。
〈フリーランス新法の対象〉
この法律で保護対象になる「フリーランス」は「特定受託事業者」と呼ばれ、①個人で従業員を雇用していない者②法人で、代表者1人以外に役員はおらず、従業員も雇用していない者―のどちらかの事業者です(2条)。「人を雇って、事業を営んでいるかどうか」が判断ポイントです。人を雇っていなければ、法人であっても「特定受託事業者」=「フリーランス」として扱われます。
次に、この法律で保護される対象となる取引は、事業のために(イ)他の事業者に物品の製造または情報成果物の作成を委託すること(ロ)他の事業者に役務の提供を委託すること―です。
ここでのポイントは「事業のために」他の事業者に業務を委託することなので自分が営んでいる事業のために、他者に業務を委託することが対象です。例えば一個人が、服飾品を製作する職人に対し、自分が身に着けるための服飾品の製作を依頼することは、単なる一消費者としての商品の購入であって、「業務委託」には当たりません。
〈フリーランスに対し業務を委託した場合に課される義務〉
事業者がフリーランスに業務を委託した場合には、取引の条件を書面またはメールやメッセージにより明示する必要があります。口約束で済ませていた方も多いと思いますが、それではいけません。この義務は、フリーランスに業務を委託する全ての事業者に課されます。発注者がフリーランスであったとしても、相手がフリーランスであればこの義務が課せられます。
具体的に明示しなければならない取引条件①~⑧を図1に示しました。
この他にフリーランス新法によって、発注する事業者側に(イ)期日における報酬支払い義務(4条)(ロ)募集広告の的確表示義務(6条)(ハ)育児介護等に対する配慮義務(13条)(ニ)ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)(ホ)中途解除時の事前予告・理由開示義務(16条)―などのさまざまな義務が課されます。
〈フリーランスに対し業務を委託した場合に禁止される行為〉
フリーランス新法が定めるものの中でも特に重要なのは、第5条の禁止行為に係る条文です。第5条では、図2に示した、七つの行為が禁止されています。
〈違反行為への対応〉
発注者がこの法律に違反している場合、フリーランスは、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に違反行為を申し出ることができます。
申し出を受けた行政機関は、その内容に応じて調査を行い、発注者に対して指導・助言や勧告を行い、勧告に従わない場合には命令や公表ができます。命令違反には50万円以下の罰金があります。
発注者は、フリーランスが行政機関に申し出をしたことを理由として、契約解除や今後の取引を行わないようにするなどの不利益な取り扱いをしてはいけないとされています。
〈まとめ〉
この法律で特に重要な条文は、3条の明示義務と5条の禁止行為です。フリーランスと取引する方は、上記二つの条文には特に注意しましょう。
逆にフリーランスは発注者に対し、3条に該当する事項を明示するように求め5条にあるような行為をされた場合には、行政庁への相談、申し出などを検討しましょう。