「小企業の苦境を直視して 力発揮できる環境整備を」 中小・小規模白書をどう読むか 北海学園大学・大貝健二さんが解説(下)|全国商工新聞

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事業の持続性を

 今回は、小規模企業白書の概要と本来あるべき支援策について述べていく。
 小規模企業に対して主な言及がなされているのは、第2部「経営課題に立ち向かう小規模事業者」である。第1章「小規模事業者の経営課題と対応」では、小規模事業者が売り上げを確保し、今後も事業を持続的に発展させていくために必要となる取り組みについて言及している。第1に、売り上げを確保するためには、①自社の製品・商品・サービスの優位性を高めること②コストを把握すること③強みを言語化した情報発信④顧客ターゲットを明確にした販路開拓の必要性―を挙げている。第2に、小規模事業者の資金繰りに関してである。小規模事業者の資金繰りは、「悪化」超幅が大きい現状にあることを指摘している。また、小規模事業者では、業務のデジタル化や支援機関への相談を通じて財務・会計管理にテコ入れすることで、資金繰りが改善する可能性があることを示している。第3に、小規模事業者の人材確保・定着、育成に関しては、①人材の供給制約(少子化、高齢化に伴う構造的な人手不足)が今後も続くこと②大企業や中規模企業と異なり、賃金を引き上げる余力が少ないこと③支援機関等の活用や事業者同士での連携が有効である可能性―を挙げている。
 第2章「小規模事業者に対する今後の期待」では、地域における小規模事業者の重要性と新たな担い手を創出するための起業・創業や事業承継の動向や課題を明らかにしている。特に、小規模企業振興基本計画(第Ⅱ期)でも小規模事業者の持続的発展に加えて、地域の持続的発展も意識されていることから、「地域にとって必要な小規模事業者」を支援する視点が打ち出されている。その上で、①小規模事業者は顧客との信頼関係を持ちながら、地域の需要に応えている重要な存在であること②高齢者や女性の雇用創出に貢献、柔軟な働き方を提供していること③起業を通じた自己実現の場であること④祭りなどの伝統行事の担い手(地域貢献)としての役割―などが指摘されている。第2に、起業・創業に関しては、10年前と比較して起業する人数は減少しているものの、女性による起業、20代での起業が増加していることに加え、地方公共団体や支援機関による起業支援が奏功していることを明らかにしている。また、小規模事業者の事業承継に関しては、後継者不在の割合が高いこと、親族外承継を検討することは重要であるものの、情報や知識の不足に加え、資金面での制約から、小規模事業者単独で親族外承継を進めるのではなく、支援機関に相談することが望ましいと言及している。

景況感良くない

 全体のトーンとしては、小規模ならではの経営課題を抱えながらも、積極的に小規模事業者の果たす役割や課題を指摘していると言っても良いだろう。この点は、先週紹介した中小企業白書と同様である。しかし、中小企業、小規模企業ともに積極的な側面に注目するだけで良いのだろうか。例えば、小規模事業者の業況判断DI(ディフュージョン・インデックス、企業の景況感などを表す指標)が高水準で推移していることを前提にしているが、①マイナス推移のなかでの高水準であること②前年同期比で見ていることから、コロナ禍で停滞した経済が平時に戻る過程であるとすれば、改善幅が大きくて当然―と言えるのではないか。つまり、小規模企業の景況感は決して良くはないのである。そのなかで、売上高や利益の減少、原材料高といった苦境に立たされている小規模事業者が圧倒的に多いのではないだろうか(図)。小規模事業者が売り上げを確保するために必要なこととして、白書が指摘している内容は、まさにその通りではある。しかし、それ以前の問題として、小規模事業者が力を発揮できる環境を整えることが政策的に求められるのではないか。
 また、小規模企業白書では「よろず支援拠点」などの支援機関を活用することが強調されている。特に、よろず支援拠点については、ワンストップであらゆる相談に対応できることから、活用することのメリットは大きいと思われる。他方で、支援機関の人員や支援ノウハウが不足していること、支援機関によって対応にバラつきがあることが中小企業白書で触れられている。そうだとするならば、支援機関の対応水準を上げていくことを視野に入れた人材確保・育成を政策的に支援することも必要ではないか。

地域発展を共に

 小規模事業者ほど商圏範囲は同一市区町村である。また、地域貢献を含めた地域社会における一員として、小規模事業者は地域経済の持続的発展と歩みを共にしている。過疎化や高齢化によって地域の経済が縮小することは、小規模事業者の存立にもダイレクトに関わる。だからこそ、地域経済の再生や活性化が求められることになるし、地域で循環する経済が求められる。それに加えて、事業者間の仲間づくりのほか、自治体や支援機関とも連携して、望ましい地域の未来像を共有し、地域課題をビジネスで解決していける仕組みを作っていくことも必要ではないだろうか。


 >> 中小・小規模白書をどう読むか 北海学園大学大貝健二さんが解説(上)

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