物流「2024年問題」 ドライバー不足と減収に不安 実態把握へ全商連が中小運送事業者にアンケート|全国商工新聞

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 4月にスタートする物流ドライバーの労働時間の新規制、いわゆる「物流の2024年問題」。全国商工団体連合会(全商連)付属・中小商工業研究所は昨年10月から11月にかけて、各地の民主商工会(民商)会員である中小の運送事業者に、この問題への対応状況と懸念などを聞くアンケートを実施。結果には、労働時間規制に対応することによる仕事量の減少と減収への不安が示されました。ドライバーの人手不足に慢性的に苦しむ下では、「運賃が上がらなければ、これまで通りの給与を支払えず、人材確保もままならない」「魅力ある業界にするための、環境整備を」など、対策を求める声が多く寄せられました。

「適正運賃でこそ安定」

 「生まれ変わっても運送業はやりたくない。そんな気持ちになるような実態だ」―。こう話すのは、アンケート作成にも協力してくれた埼玉・川口民商会員で、川口市内で(有)新郷運輸を経営する赤城義隆さんです。ドライバーを30人ほど雇っています。
 「ドライバーの労働時間を短縮するのは良いことだし、やらなければならない。でも、現状では対応は簡単ではない」と言います。

赤城さん
(有)新郷運輸が保有するトラック(画像は一部加工)

転嫁ができない

 アンケート結果で、時間外労働の年間960時間規制に7割の事業者は「対応可能」と回答(図1)していますが、「今できている仕事もドライバー不足になる」「現在以上の時短はできず、休日を増やすしかない。会社収益が減少し、労働者の賃金上昇もできなくなる」など、仕事量を減らすことで対応せざるを得ない実態があります。

 赤城さんは「ドライバーの労働時間が長くなるのは、荷物の受け渡しまでの待ち時間(荷待ち)や積み降ろし作業(荷役)があるから。運送業者だけでは時短はできない」と実情を指摘。「ドライバーも、残業代込みで収入を考えているため、運賃がもっと上がらなければ、若い人も入職しない」と困難な実情を明かしました。
 アンケートでも、「荷待ち・荷役」があると回答した事業者は8割以上(図2)。平均して1日2・3時間、月換算で53時間弱かかっており、この短縮が鍵となっています。さらに「荷待ち・荷役」に費やす労働について「運賃に転嫁できているか」という問いには7割超が転嫁できていません(図3)。
 赤城さんは「荷主側も予約システムなどを整備して、荷待ちの短縮をめざそうとしているが、そもそも倉庫の駐車場が狭かったりすれば、入れずに待つことになる」と総合的な対策の必要性を訴えます。

自助努力は限界

 国土交通省は2020年に取引の適正化とドライバー不足への対応を図るため「標準的な運賃」を告示していますが、実際にその通りの運賃を得ることができている事業者は、わずか15・9%に過ぎません(図4)。
 政府は1月中にも「標準的な運賃」の見直し、引き上げを予定していますが、実効性が問われています。
 赤城さんは「中小企業にとって、価格交渉のハードルは高い。自助努力では限界がある。政府として規制をしっかりと行って、公正な取引が行われるような法制化も必要だと思う」と語ります。90年の規制緩和で事業者数は6割増。過当競争にさらされています。
 「一昔前までは、トラックドライバーは稼げる仕事だった。業界の魅力を取り戻すことが、担い手不足の解消につながる。ネット通販などで『送料無料』が消費者にアピールされているが、われわれの労働はタダではない。適正な運賃をもらえてこそ、安定した物流が確保されることを、ぜひ考えてほしい」

物流の2024年問題

 2024年4月から、トラックドライバーらの時間外労働の上限が原則として年間960時間以内に規制されます。また、改正改善基準告示(※)が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性が指摘されています。政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題への対策が行われなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が24年には14・2%、30年には34・1%不足する可能性が試算されています。
 トラック事業者が、荷主や一般消費者のニーズに応えられなくなり、今まで通りの輸送(例えば長距離輸送など)ができなくなったり、必要なドライバーを確保できない可能性が指摘されています。トラック事業者に配送を依頼する荷主も、必要な時に必要な物が届かない場合や輸送を断られる可能性が考えられます。一般消費者は、当日や翌日配達の宅配サービスが受けられなくなったり、新鮮な水産品や青果物などが手に入らなくなるといったことが懸念されています。

※自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
【貨物自動車運転者】

○年間拘束時間
〔改正前、以下同〕3516時間
   ↓
〔改正後、以下同〕3300時間(最大3400時間)

○月間拘束時間
 293時間(最大320時間)
   ↓
 284時間(最大310時間)

○1日の休息時間
 継続8時間
   ↓
 9時間以上(努力規定11時間以上)

全商連「物流2024年問題運送事業者の実態アンケート」

>>報告全文をダウンロード

▽調査期間:2023年10月27日~11月20日
▽回答数:トラック運送事業者81社(者) 軽貨物運送事業者42社(者) 計123事業者

 アンケートでは、2024年問題に加えて、コロナ禍や円安、ロシアのウクライナ侵攻などの影響を受けたガソリン・軽油価格の高騰、最低賃金引き上げによる人件費の上昇など貨物運送事業者を取り巻く環境が厳しさを増す下で、経営上の困難なども質問しました。
 トラック運転手は、全産業平均と比べて、労働時間で2割長く、賃金は2割低いという悪条件から、深刻な人手不足に陥っています。2024年問題に対応する上で、懸念される点を聞いたところ、ドライバーの確保(61・6%)が最も多く、収益の減少(53・4%)、賃上げのための原資の捻出(53・4%)が上位に。運賃の引き上げが見込めない(52・1%)やドライバー不足による事業範囲の縮小(35・6%)に懸念が示されました(図5)。

「事業者に直接支援を」 全商連 国交省に対策を要請

 全商連は12月22日、アンケート結果を基に国交省に、①燃料費高騰対策として、ガソリン・軽油引取税の引き下げや高速道路料金の割引②人件費高騰や2024年問題による人手不足対策として、労働時間短縮による収益減分など事業者への直接支援③荷主・元請け事業者による不公正取引対策として、買いたたきの是正や「標準的な運賃」の徹底―など運送事業者への支援を求める要請を行いました。
 省側は「軽油引取税などは地方公共団体の財源でもあり、慎重な検討が必要。車両の電動化などへの支援を通じて燃費向上を図る」とし、「燃料費価格の激変緩和措置も4月いっぱいまで継続する」と回答。高速道路料金の割引については「本来、荷主が負担すべきもの。料金を転嫁できる方向で進めたい」などとしました。標準的運賃については「12月15日に平均約8%の引き上げなど、見直しに向けた提言を発表した。『トラックGメン』(全国162人体制)による悪質な荷主への監視体制も強化している。適正な運賃が収受できるよう、関係省庁とも連携して取り組みを進める」と答えました。
 全商連の牧伸人常任理事は「軽貨物事業者をはじめ、貨物運送事業者は規模が小さく、荷主と価格交渉すれば、取引停止に追い込まれるなどの懸念がある。公正な取引環境の構築を」と重ねて要望しました。

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