「この1カ月余りで15万人以上が署名に応じてくれた『インボイス反対』という36万人の声を重く受け止めてほしい」―。フリーランスや軽貨物ドライバー、一人親方や農家らが財務省に強く求めました。インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP!インボイス)は4日、国会内で記者会見を開き、消費税のインボイス(適格請求書)制度の10月からの実施中止を求める36万1171人分のオンライン署名と「緊急提言」を財務省・国税庁、公正取引委員会、各政党に手渡しました。フリーランスや声優などの個人事業主、市民ら350人が参加。NHKなど50社を超す取材陣や衆参国会議員らが詰め掛け、会場は熱気であふれました。
NHKなどマスコミ50社
同会発起人の小泉なつみさんは「インボイス制度は、文化と産業を破壊し、私たちに分断と増税、混乱を招く希代の悪法だ」と強調。声優の甲斐田裕子さん(「VOICTION」共同代表)が「安心・安全・成長・尊厳なきインボイス制度の実施中止、最低でも実施の当面延期を求める」との緊急提言を読み上げました。
インボイス制度で悪影響を受ける当事者6人が発言しました(別項に要旨)。
藤井聡京都大学教授が講演し、「インボイス制度は単なる増税だ。極めて厳しい経済状況の下、今、導入すべきではない」と提唱。湖東京至税理士は「納税者の諸権利をうたった納税者権利憲章の制定は世界の流れだ。インボイス制度の導入よりも権利憲章の制定こそ急ぐべきだ」と強調しました。
会場には、「インボイス問題検討・超党派議員連盟」に参加する衆参の野党国会議員17人が駆け付けました。田村貴昭衆院議員(共産)は、衆院財務金融委員会の欧州視察(8月)に触れ、「ヨーロッパの各国では、コロナ禍や物価高騰で暮らしが大変な時こそ、減税や生活必需品のゼロ税率、物価上昇に応じた賃上げなどを行い、庶民の生活を守ろうとしている。そうした当たり前の対応を日本政府は学ぶべきだ。それをやらずに、インボイス強行など言語道断だ」と批判しました。
記者会見の様子は、NHKのニュース番組や、オリコンニュース、朝日新聞デジタル、テレビ東京などで報じられました(5日現在)。一方、岸田文雄首相は4日、鈴木俊一財務相に「インボイス制度円滑実施推進会議」の立ち上げを指示。施行状況や課題、対応策を協議するとしています。
発起人の小泉さんは、こうしたメディアや政権側の対応を受け、「これまで『メディアと政治が無視できない運動にするんだ』と活動してきましたが、『無視できない』ところまでは来ることができたのではないか」と述べ、「ここからが正念場。引き続き、どうかお力添えを」と決意を新たにしています。
緊急提言を提出 著名人ら多数賛同
STOP!インボイスが4日に発表、提出した緊急提言は、インボイス制度について「この国で生きるすべての人に影響する」と指摘。同制度には「経済的『成長』も、事業を継続していける『安心感』も、個人情報が守られる『安全性』も、免税事業者への『尊厳』も欠けている」と批判し、「実施中止、最低でも実施の当面延期」を求めています。
賛同者として、緒方恵美さん(声優)や松尾潔さん(音楽プロデューサー)、吉田照美さん(フリーアナウンサー)、ラサール石井さん(俳優、演出家)、渡辺えりさん(劇作家、演出家、俳優)ら著名人・識者120人とともに、全国商工団体連合会(全商連)や全国労働組合総連合(全労連)、新日本婦人の会など51の団体が名前を連ねています。
【要旨】STOP!インボイス『記者会見』の当事者発言
【経営士】堺剛さん(中小企業のためのパートタイム経理部長)
経理担当者へのアンケートでは、約9割がインボイスを「導入すべきではない」「延期すべき」と回答。「得意先にインボイス登録をお願いできないので、税負担だけが重くなる」「システム改修でトラブル続出。金と労力だけがかかる」などの声が上がっている。
【軽貨物】高橋英晴さん(軽貨物ユニオン委員長)
インボイスが実施されたら「今年中に廃業・廃業検討」が7.6%、「3年間の間に廃業・廃業検討」が33.3%、4割が廃業せざるを得ない。大量のドライバーが廃業に追い込まれた結果、物流が滞り、そのしわ寄せは国民に来る。今、中止を決断すべきだ。
【稲作・繁殖農家】長谷川敏郎さん(農民運動全国連合会会長)
インボイスが始まると、課税事業者か免税事業者かで差別され、インボイスがないだけで買いたたかれる。コメでも牛でも赤字なのに、さらに買いたたかれる。所得税が払えないのに、インボイスで消費税をむしり取られたら牛飼いをやめるしかない。農家いじめだ。
【建築業者】佐藤豊さん(東京土建副委員長)
建設業界は資材価格が軒並みに上がっている。その上にインボイスの導入。もう耐えられないと、辞める人も出てきている。日本の住宅やビルは近いうちにメンテナンスが必要だが、業者不足でできなくなる。業界と建物を守るため、インボイス導入は許さない。
【司法書士】福本和可さん(全国青年司法書士協議会副会長)
債務を負った人が自己破産しても消費税は税金なので免責されず、経営が赤字でも納税義務が生じる。小規模な個人事業主が、仮に破産した場合、生活再建の妨げになるのが消費税だ。そんな消費税を、半強制的に納税させるインボイス制度に反対する。
【厩舎従業員】田村隆光さん(全国競馬産業労働組合連合会事務局長)
競馬界の“社長”でもある調教師から「インボイスを登録しないと、担当する馬を回さない」といわれることもあると聞いている。一見、華やかな厩舎も、給与面では華やかとは言えない。インボイスによる増税があると、死活問題だ。10月実施は再考してほしい。