佛教大学准教授 長友薫輝さん
2024年秋に健康保険証を廃止するマイナンバー法等一部「改正」法が2日の参院本会議で、自民、公明、維新、国民などの賛成多数で可決、成立しました。同法は束ね法として国民健康保険(国保)料・税の滞納者への制裁を強化する国保法改悪も盛りまさてる込まれています。佛教大学の長友薫輝准教授に、その内容と問題点を聞きました。
「窓口10割負担」が容易に
「改正」国保法では、これまで人々を医療から遠ざけてきた「資格証明書」や「短期保険証」は無くなりました。しかし、いったん窓口で10割負担させる「償還払い」のハードルが今より下がることが懸念されます。
結論から言えば、償還払いのハードルを下げ、自治体が制裁措置を講じやすい環境をつくるのが、この「改正」の中身です。
「改正」法の該当部分には「保険料滞納世帯主等」という新たな文言が数多く出てきます。
これを見ても「改正」法が、保険料を滞納する人にどう対応するかに非常に注目していることが分かります。政府が掲げる制裁強化や「保険料を納めるのは義務」とする考え方の具体化と言えるでしょう。
1年未満の滞納にも措置
制裁強化という点では、従前の国保法54条の「特別療養費」に関する「改正」がポイントになります。
特別療養費というのは、保険料を1年以上滞納すると、医療機関にかかってもいったん10割を負担しなければならない、いわゆる「償還払い」のことです。
これ自体、おかしな制度で保険料を滞納している人が10割を払えるわけがありません。この制度は既に、滞納者を医療から遠ざける役割を果たしてきました。
「改正」法では「保険料滞納世帯主等」になると、特別療養費の支給=償還払いになると読めます(54条の3の1)。
新設の項目(54条の3の2)では「保険料の勧奨等を行ってもなお保険料を納付しない場合」など、行政が“悪質”と判断した場合は、滞納が1年以上になっていなくても、特別療養費=償還払いで10割負担にできると書かれています。
新設の54条の3の4では、保険料を滞納している人が、滞納額を完納、あるいは“著しく滞納額を減らした”場合などで、「療養の給付を行う」=通常の負担に戻すとしています。しかし、「著しい減少」をどの程度で判断するかは恣意的な判断が生まれる問題があります。
「改正」以前では、保険料を滞納した場合の「資格証明書」の発行は1年以上滞納した後の対応になっていました。
ところが、「改正」法は、保険料の納付の勧奨に応じない人などは、従来の「資格証明書」より早く特別療養費=償還払いにする。これまでの「資格証明書」より早く制裁措置を講じることができます。
高過ぎる保険料そのまま
政府は「保険料を負担しない人には医療保険を給付しない」という方針を強める一方、「払いたくても、高過ぎて払えない」保険料設定を見直す気は、さらさらありません。
「改正」法は、行政が“悪質”と判断した場合、制裁措置を早く講じることができることを狙いますが、そもそも、行政が“悪質”と判断する場合の多くは、貧困のケースです。
「払いたくても、高過ぎて払えない」保険料設定が問題の根本にあるわけだから、所得に応じた負担=応能負担を求めていく必要があるし、手を打つべきは貧困対策とか、地域経済の担い手である自営業者に対する支援です。
医療保険は“保険料を払わないとサービスを受けられない民間保険”とは異なる社会保険なので、「誰もが保険料を払えない状況になり得る」ことを想定した対応が必要です。
従来の「資格証明書」の発行が制裁措置として効果がないことは、厚労省も認める事実です。保険料を滞納すると、制裁措置として償還払いにする政策手法自体が非科学的なのです。
「応能負担」求める運動を
制裁措置ではなく、「誰もが医療を利用できるようにする」観点から見直した方がむしろ効率的です。医療へのハードルを下げていくことが大事なのです。
貧困と疾病の悪循環を断ち切ることが、医療保障に託されている役割です。医療へのアクセス保障として、病院までの交通手段の確保をはじめ、従来の医療費自己負担の減額・免除措置を充実させ、医療を利用しやすくすることが求められます。
さまざまな問題を抱えながら強引に成立させられたマイナンバー法等一部「改正」法には20項目もの付帯決議が付けられました。国保については「市町村等は滞納者の納付能力の把握をきめ細かく行うことなど、懇切丁寧な対応に務めること」「滞納者の負担能力に配慮しつつ、短期被保険者証に準ずる運用が引き続き尊重されること」が盛り込まれました。これらを順守させていく運動が求められます。