税務行政のデジタル化 対策の基本示す
全国商工団体連合会(全商連)は4月23日、「第20回税金問題研究集会」(税研集会)を開き、全国252カ所をオンラインで結びました。税研集会が開かれるのは2017年以来、5年ぶり。3年目を迎えたコロナ禍に加えて、ウクライナ侵略や急激な円安も要因とした燃油や資材高騰が営業と暮らしを深刻化させる中で開かれた今集会。消費税を減税させ、インボイス制度の実施を中止させることを改めて誓い合いました。
今集会は①消費税減税、インボイス制度実施中止の展望と運動方向を示す②デジタル化の下で様変わりする税制、税務行政の特徴をつかむ③自主記帳・自主計算・自主申告の運動強化に足を踏み出し、「税金の民商」の本領を発揮し、多くの中小業者を仲間に迎え入れる力にする―ことを目的に開かれたもの。
藤川隆広副会長が主催者あいさつ。「インボイス制度は税率変更を伴わない『ステルス増税』であり、1千万人ともいわれる免税事業者に2480億円もの消費税を新たに負担させるもの。実施中止のたたかいを大きく広げよう」と訴えました。
「デジタル化で守られるべき納税者の権利」をテーマに石村耕治・白鷗大学名誉教授が講演。「電子インボイスの導入は事業者や事業者間取引を国家が常時、オンラインで監視できる『記入済み電子消費税申告制度』の導入を狙ったもの」と指摘しました。「納税者の知らないところで、課税庁がオンラインで金融取引照会をすることは金融プライバシーや手続き上の権利を侵害する恐れがある」と強調。「デジタルプラットフォームを使った事業者取引監視システムは納税者の自主申告権をむしばむもので、申告納税制度の崩壊につながりかねない。マイナンバーを使った国家専制管理政策をやめさせなければならない」と訴えました。
中山眞常任理事が基調報告を行いました(別項)。
特別報告として、「インボイスを考えるフリーランスの会」の小泉なつみさんが発言。「『STOP!インボイス』のオンライン署名は、1週間で3万人を超え、ツイッターデモも2日間で7万7千人がツイートした。私は青果店の娘で、今も兄が築地で卸の青果店を営んでいる。家のルーツ、親の生き方を否定するインボイス制度は許せない。一緒に実施を中止させましょう」と訴えました。
基調報告(要旨) 納税者の権利掲げ運動を
消費税減税、インボイス中止の展望を示しつつ、直面する物価高騰について「仕入れ値が上がった」業者が82%に上り価格転嫁できず利益が減っている実態を告発。スペインが電気代の税率を11%下げるなど、付加価値税(消費税)減税に踏み出す国・地域が84に増え、付加価値税導入国の48%に上ると述べ、消費税減税の宣伝・署名行動に関心と期待が高まっていると強調しました。
「インボイス制度は税率変更を伴わない増税策であり、免税のはずの小規模事業者やフリーランスが、その増税分を納めさせられるという問題の本質と政府の狙い」が知られるにつれ、実施中止の声と行動が広がり、「廃止法案」が国会に提出され、「国会アクション」(4月22日)も大きく成功したと述べました。
田村貴昭衆院議員(共産)の国会質問で、小規模事業者やフリーランスに負担増を迫る一方、シルバー人材センターの会員は免税のままで自治体が負担増を税金で補填することが明らかになり、「こんな不公平を招く税制に道理はありません」と指摘。国会議員要請と地方議会請願を一気に強め、一会員10署名目標を早期達成し、参院選の審判につなげようと呼び掛けました。
2022年度税制「改正」に関わる所得税法や税理士法の改定には、①帳簿の提出がない場合の加算税の加重措置(売上金額や収入金額の2分の1~3分の1の記載がないと判断すれば、過少申告加算税や無申告加算税の額に最大10%加算)②証拠書類のない簿外経費の否認③税理士法違反に対する関係人への調査協力規定(国税庁長官が税理士法に「違反したと思料(思いはかる)」だけで帳簿書類などの提出の求めが可能に、23年4月1日から施行)―という重大な問題が含まれると指摘。
対策の基本は「納税者の権利憲章」(第2次案)が示した「憲法に基づく17項目に及ぶ納税者の基本的権利や適正手続きをたたかいに生かすこと」と述べ、「納税者の人権を侵害するデジタル化は許されない」の立場で、世論と運動を強めることが求められると強調。電帳法による税務署員の提示・提出の要求はあくまでも任意▽電帳法の制度を学び合い、適用を受けるかどうかは本人が決める▽原始記録が紙であれデータであれ、正しい申告を否定することは許されず、事業実態に応じた請求書等の保存を認めさせる▽デジタル化の下でも反面調査のプロセスは変わらず、反面調査に応じる前に納税者に知らせるよう金融機関への懇談・申し入れを強める―などを呼び掛けました。
手書きの帳簿や白色申告を敵視する動きには、財務省の「カレンダーにメモしたものでも帳簿とみなす」との見解にも触れ、納税者主権の立場で実態に即した記帳や帳簿付けを学べる民商の優位性を発揮し、「自分の申告は自分で決める」という「本物の自主申告」を貫こうと訴え。
3・13重税反対全国統一行動は「集会なし、参加者ゼロ、申告書を預かって代表が提出」の地域もあったと指摘。会員の9割が参加する滋賀・草津甲賀民商の経験に学び、統一行動の発展を呼び掛けました。
新自由主義の弊害に目を向け、大企業や富裕層に応分の負担を求める流れが世界で強まる中、「生活費非課税・応能負担の税制をめざす『税金の民商』の出番」と述べ、参院選で消費税減税・インボイス中止の審判を下し、全商連第54回総会時現勢を全組織が突破し、第55回総会を迎えようと訴えました。
自主計算を力に 各地の取り組み
各地から、この間のたたかいが報告されました。
岩手・一関民商の山口伸事務局長は「納税者が自主記帳、自主計算、自主申告を行うことで、不当な税務調査をはね返せた。今こそ申告納税制度の擁護・発展のため、力を尽くそう」と呼び掛けました。
福岡・直鞍民商の和田善久副会長は、担当する全4自治体で「インボイス制度の実施中止を求める意見書」が採択されたと報告。学習や地方議員への働き掛け、会内外に知らせる取り組みが力になりました。
神奈川県連の三浦謙一事務局長は「これまで、つながりのなかった団体からインボイス制度中止を求める署名への賛同が寄せられた。学習や広範な団体への働き掛け、議会への請願・陳情を強める」と発言。
群馬・吾妻民商の金澤敏会長は「『署名で全会員運動』を合言葉に、全ての班が班会を開き(23%の会員が出席)、インボイスの危険性を学び、1会員5人超の署名が集まった。署名で世論を喚起し、インボイス制度を必ず中止に」と訴えました。
広島県連の寺田拓也事務局長は、25年間積み上げてきた金融機関本店との懇談を報告。「納税者の承諾なしの金融機関の反面調査を許さず、税務運営方針を順守させてきた」と紹介。
滋賀・湖東民商の藤関福樹副会長は「毎年、1月から2月、班会で自主計算パンフレットなどを使って、3・13統一行動の意義を会員に伝えている。他団体と実行委員会を結成し、役員中心に取り組んでいる」と発言。
沖縄民商は、10年間で300人超の仲間を増やしました。山川睦事務局長は「法人の記帳会や集団申告、婦人部や青年部の記帳会、一人親方の労働保険事務組合設立など、会員の要求に応えてきた。『民商いいよ』の声掛けが、力になった」と報告しました。
服部守延・税金対策部長が閉会あいさつ。「自主記帳・自主計算活動への不当な介入を許さず、納税者の権利を守り、申告納税制度を守り、発展させよう」と呼び掛けました。