ロシア軍が2月24日、ウクライナ攻撃を始めると、金融市場には衝撃が走り、リスクを避けようとする動きが広がり、株価は急落。エネルギー価格や、小麦をはじめ穀物価格の高騰などが広がっています。ロシアの軍事侵略が、ウクライナの人々の命を奪うだけでなく、日本の消費者の家計を圧迫し、コロナ禍からようやく立ち直ってきた中小業者の営業にも悪影響を及ぼしています。国連憲章に反する侵略の即時中止を求めるともに、必要物資の確保と価格の安定、エネルギーや食料などを世界に依存するする脆弱な経済構造を脱し、国民の生活や暮らしに欠かせない資源の自給率を高める政策へ転換を図る必要があります。
原油、穀物価格の高騰が
新型コロナパンデミックとサプライチェーン(供給網)の大混乱、物価高騰に見舞われた世界経済は、株価は下落し、ガソリン価格も上昇していました。ウクライナ危機で、さらに先の見えない深みに陥ることが懸念されます。
ロシアは世界有数のエネルギー大国で、天然ガスは世界第2位、石油は同3位の生産量を誇ります。ニューヨーク市場先物価格は、軍事侵攻の情報を受けて急上昇し、3月3日には1バレル=116ドル台に。2008年9月のリーマンショック以来の高値です。直ちに、国内のガソリン価格に影響し、レギュラーガソリンの小売価格は全国平均で1リットル当たり172円台の高値水準が続いています(グラフ1)。灯油の店頭価格も値上がりしています。
さらに、天然ガス価格への影響です。日本の電力会社は、火力発電所の主力燃料として大量の液化天然ガスを輸入しており、燃料代の大幅上昇につながります。大手電力会社10社の3月分の電気料金は、比較できる過去5年間で最も高い水準です。この先も、電気料金が高止まりした状態が続く可能性があります。
穀物などへの影響も広がっています。ロシアとウクライナは穀物の生産が盛んな大農業国で、20~21年の世界の小麦輸出シェアの3割を両国で占めます(グラフ2)。国連食糧農業機関(FAO)によると、ウクライナの20年の菜種の輸出量は世界第2位、トウモロコシは同4位、小麦は同5位です。
世界市場では、ロシアやウクライナ産の供給が滞るとの見方が広がり、需給が逼迫。価格の値上がりが広がっています。
農水省は3月9日、国が輸入して製粉会社などに売り渡す小麦の価格を、4月から前半期(10月期)に比べて平均17・3%引き上げると発表。小麦粉を原料とするパンやパスタなど、さまざまな食品の値上げは避けられません(グラフ3)。
「日経」3月16日付は「世界最大のソバの実生産国ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア産の供給が滞るとの見方が浮上。中国産に注文が集まった。中国産の値上がりで価格差が大幅に縮んだ国産も需要増が見込まれる」と報じます(グラフ4、5)。
暮らし直撃、消費冷える
エネルギーや穀物などの価格が上昇すれば、物価の上昇につながります。原材料高騰による食料品等の値上げ発表が相次いでいます(表)。そうなれば、消費者の暮らしを直撃し、個人消費が冷え込むことは必至です。コロナ禍からの回復をようやく探ろうとする経済に冷や水を浴びせることになります。
「ウクライナ危機のもとで考える日本の食料・農業」と題する講演(3月15日)で、東京大学の鈴木宣弘教授は、ただでさえ食料価格の高騰と日本の「買い負け」懸念が高まってきた矢先にウクライナ危機が勃発し、価格高騰と調達への不安が増幅されていると指摘。「今、突き付けられている現実は、食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては、国民の命を守れないということだ。日本の食料自給率は37%。国内資源を活用した循環的な農業生産と、その出口対策を一気に加速しなくてはならない」と強調しました。
日本のエネルギー自給率はさらに低く、12%です。ロシアは石油・天然ガスが総輸出の6割を占め、国家財政の4割を石油・天然ガス産業の税収に頼っているといわれ、石油やガスが売れなければ、ロシアの国家財政や経済は著しく疲弊するはずです。米、英などG7主要国はロシア産原油の輸入禁止措置に動きますが、日本は同調できずにいます。
燃料高騰を好機と捉え、「石油・ガソリン、電力・ガスなどの化石燃料」から脱原発・再生エネへの転換を一気に加速する必要があります。