岸田文雄政権は昨年12月24日、2022年度政府予算案と「税制改正大綱」を閣議決定しました。一般会計の総額は107兆5964億円と、当初予算案として過去最大を10年連続で更新しました(図)。100兆円を超えるのは4年連続。21年度補正予算と一体で「16カ月予算」と位置付けられています。
補正予算と当初予算案を合わせた歳出規模は143.6兆円に上ります。莫大な税金を投入しながら、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する医療機関や暮らしへの支援は不十分で、社会保障予算は高齢化等による自然増を削減します。軍事費は過去最高を更新する5.4兆円を計上するなど、岸田政権の新たな危険性を浮き彫りにしています。
「効果的な支出を精査したのか」(読売)、「漫然と借金を重ねるな」(朝日)、「借金頼みが岸田カラーか」(毎日)、「メリハリも改革も乏しい予算でいいのか」(日経)とマスコミ各社も放漫な予算膨張を批判しました。
政府予算案の特徴を、上下2回で解説します。
医療の脆弱性 不安解消せず
2022年度予算案は「新経済・財政再生計画」の枠組みの下、「手を緩めることなく本格的な歳出改革に取り組む。施策の優先順位を洗い直し、ムダを徹底して排除つつ、予算の中身を大胆に重点化する」との「基本的な方針」(21年7月7日)で編成されたものです(表)。
新型コロナウイルスのオミクロン株の感染爆発などコロナ禍収束が依然見通せない中、焦点となる社会保障費は、高齢化等による増加分を6600億円に収めることが目標でしたが、政府案ではさらに2200億円圧縮し、4400億円増に抑えました。診療報酬改定で薬価を引き下げた他、後期高齢者の医療費窓口負担を年収200万円以上の人を対象に現行の1割から2割に増やす制度改悪を行います。コロナ禍で脆弱性が明らかになった医療や検疫、保健所の体制強化などは不十分なままで、国民の不安は解消されていません。
コロナ関連は5兆円が予備費として計上されましたが、中小業者が求めていた「持続化給付金の再支給」は実現しませんでした。
補正予算では、首相自身が自民党総裁選で公約した中小業者の事業支援が「事業復活支援金」として予算化されました。地域・業種を限定せず、事業規模に応じたことで、月次支援金より制度改善は図られたものの、個人事業者は月額10万円と固定費補助にも遠いものです。
コロナ禍で経営危機となっている医療・介護施設への減収補填は盛り込まれていません。
北東アジアの緊張を高める
他方、異常な突出が際立っているのが軍事費です。5兆3687億円(デジタル庁計上分318億円を除く)と過去最大になりました。
特徴は、防衛省が補正予算と当初予算案を一体の「16カ月予算」として「防衛力強化加速パッケージ」と銘打ち、合計6兆1744億円となり、初めて6兆円を超えたことです。対国内総生産(GDP)比も1%を超えました。
規模だけでなく、中身も問題です。「スタンド・オフ防衛能力の強化」として、最新鋭のステルス戦闘機F35A(8機768億円)▽長距離巡航ミサイル搭載のためのF15戦闘機の改修(520億円)▽射程1千キロとされる国産巡航ミサイル(12式地対艦誘導弾能力向上型)の開発(393億円)などを盛り込み、攻撃能力を高めることを狙っています。
昨年4月の日米首脳会談の共同声明での「防衛力の強化」を受けてのものです。軍事力の「強化加速」は、中国など周辺国との軍拡競争をさらに激化させ、北東アジアの平和と安定に逆行します。