立正大学法制研究所特別研究員・税理士 浦野広明さん
2023年10月から実施が狙われる消費税のインボイス(適格請求書)制度。税務署の登録番号が付番されたインボイスがないと消費税の仕入税額控除が認められず、免税事業者と取引のある課税事業者は仕入税額控除ができずに納税額が増大したり、免税事業者は課税事業者との取引から排除される恐れがあります。しかし、「インボイスがないと、仕入税額控除ができないとする国税庁は間違い。憲法に反する」。こう指摘する、立正大学法制研究所特別研究員で税理士の浦野広明さんが解説します。
「仕入税額控除のため必要」は誤り
消費税法(以下「消法」)は消費税について定めた法律である(1988年創設)。同法は、消費税の課税標準を課税売上とし(28条)、課税標準に対する消費税額から仕入れに係る消費税額を控除するとしている(30条、仕入税額控除)。
消費税の税額計算方式には「帳簿方式」と「税額票方式」がある。2016年度の税制改定によって、23年10月1日から「税額票方式」である適格請求書等保存方式(インボイス)が導入される。インボイスは税法上の用語ではなく国税庁が使っている通称である。インボイスは納品書、請求書、明細書などのことで、消法が規定するインボイスには、①発行事業者名及び登録番号②取引年月日③取引内容④対価・税率⑤消費税額等⑥書類の交付先名を記載することになっている(57条の4第1項)。
国税庁は、「仕入税額控除はインボイスがなければできない。申告免除事業者は課税事業者にならないとインボイスを発行できない」と説明しているが、この説明は間違っている。
消法創設と同時に消費税の「基本原則」を示した「税制改革法」が制定された。同法10条2項は「消費税は課税の累積を排除する方式による」としている。消費税の「本質的な課税標準」は「課税売上額から課税仕入額を控除した金額」(付加価値額)であると規定したのである。
法はあくまで手段自己目的化するな
法というものはあくまで目的を達成するための手段である。いかなる場合でも手段が目的になるとする自己目的化は許されない。
近代法の要請は、法が人間行動を封建権力の専制にとらわれず、支配者も被支配者も共に承認し、主体的にこれに服するところの客観的な規範でなければならないということにある。立憲主義は、「憲法は権力を縛るもの」とする市民社会の歴史的構造を知ることにより理解できる。非歴史的考察は、民主主義政治体制や人権秩序を無視して、法が自己目的であるかのように述べる。
インボイスはあくまでも消費税額を求める手段である。インボイスという手段を目的(消費税の計算方法の原則)にすることは、法律に関係なく課税できるということになり、憲法84条の法律による課税制度に違反する。
国税庁はインボイスを強行する理由に「法律で決まっている」ともっともらしく言う。強行する理由は、全取引の国家管理と電子関連企業の莫大な利益確保である。法を自己目的化するインボイスの虚偽性を知れば、「法律に書いてある以上それに従うべきである」という言説にだまされることはなくなる。
要するに「消費税の仕入税額控除はインボイスの有無に関係なし」としなければならない。税務署のインボイス策動をはね返すために不可欠なのは、消費税減税とインボイスの中止運動である。