消費税減税・インボイス廃止へ展望広がる|全国商工新聞

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 消費税の申告期限が3月31日に迫りました。多くの中小業者、フリーランスが消費税のインボイス(適格請求書)制度による新たな税負担と煩雑な事務に悩まされています。その一方で、自公与党が衆院で過半数割れした新たな国会情勢の下、世論と運動を広げれば、インボイスを廃止し、消費税を減税させる可能性も生まれています。本記事では、各地で「消費税・インボイスのホントの話」と題して講演する神田知宜税理士が10日、JR新宿駅東南口で訴えた演説内容を紹介。インボイス廃止に向けた展望を「インボイス問題検討超党派議員連盟」会長の末松義規衆院議員(立民)が語ります。

消費税 廃止こそシンプル 
税理士 神田知宜さん

新宿駅東南口で訴える神田税理士

 私の顧問先に、昨年開業した際に、税務署に行って書類セットをもらい、その中の「インボイスの登録申請書」を訳も分からず書いて提出した方がいらっしゃいました。私が「消費税の申告と納税義務が発生しますよ」と話すと、その方は「取消届」を出したのですが、間に合わず、2年間、本来であれば払わなくてもよかった消費税を払わなくてはいけなくなりました。
 「取引先から求められたから」「税務署から書類が来たから」と、よく考えずにインボイスを登録した多くの業者が、新たな税負担を強いられています。

赤字でも納税し

 インボイスの本質は何かというと、単なる消費税増税です。今まで消費税の負担義務が無かった課税売上高1千万円以下の免税事業者の多くを課税事業者に仕立てて税収を増やすため、税率が変わらない増税=ステルス増税とも言われます。「2割特例」や「8割控除」などの軽減措置があるからといって、安心できません。その軽減措置も、来年9月いっぱいまでです。
 インボイス導入による新たな税負担を、仕入れ先や外注先、消費者に付け回すという負担の押し付け合いが起こり、業者間に分断が生まれています。このままでは中小業者やフリーランスが、どんどん廃業に追い込まれ、経済状況は、ますます悪くなるでしょう。
 そもそも消費税は、消費者が納めている税金ではありません。例えば、「税込み110円」のボールペンを買ったとしましょう。レシートには、消費税10円と書いてあります。10%だから10円。でも、これは消費税ではないのです。消費者は110円というボールペンの値段を払っているだけで、10円はその値段の一部に過ぎません。
 実際に、消費税を税務署に支払っているのは事業者です。消費税は、事業者の売り上げに課税される税金です。法律でも、裁判例でも、そうなっています。消費税は「預かり金」ではなく、中小業者が、赤字でも払わされる税金なのです。
 かつて、中曽根康弘内閣の時に「売上税」を導入しようとして、事業者の猛反発を食らって失敗した(1986~87年)。その経験を基に、名前だけ消費税に変えて”本当は売上税だけど、消費者が負担するように見せかければいい”とした。消費者は「レシートに書いてあるから…」、企業の経理担当者は「『税抜き経理方式』でそうなっているから」と、だまされているのです。

大企業には還付

 消費税には輸出補助金という面もあります。輸出大企業は消費税を税務署に1円も納めず、巨額の輸出還付金を得ています。例えば、トヨタ自動車は1社で年間推計6千億円ほど、もらっています。税率が上がれば上がるほど、輸出大企業は、もうかるわけです。
 「社会保障の安定財源だから」という理屈も大うそです。消費税の税収は、特定の事業を行うための特別会計ではなく、一般会計に振り分けられています。
 今、「物価高だから、せめて食料品は0%に」との声も上がっています。気持ちは分かりますが、食料品を0%にしたら飲食店は、仕入れた食料品の仕入れ税額控除ができなくなり、増税になる可能性があります。「食料品を0%にした分、他の税率を上げる」ともなりかねません。複数税率が温存され、インボイス廃止の展望が遠のきます。「消費税は廃止」が一番シンプルです。

インボイス 野党応援で廃止を
インボイス問題検討超党派議員連盟 会長・衆院議員 末松義規さん

「インボイスへの不満や怒りが推進勢力の票を減らした」と語る末松議員

 立憲民主党として、2022年3月に「インボイス制度廃止法案」を衆院に提出し、れいわ、共産、社民との4党でも、インボイス制度廃止などを盛り込んだ消費税減税野党共同法案を衆院に共同提出していました。これらの法案は、昨年10月の衆院解散とともに審議未了・廃案になりましたが、インボイス廃止に向けた思いを今さらに強くしています

地元で深刻な声

 23年10月に強行されたインボイス制度は、導入以前から懸念されていたことを現実のものにしました。インボイスに登録し、課税事業者になった方々が、新たな税と事務負担に耐えかねて廃業に追い込まれる事態も生まれています。免税事業者が取引先から消費税分の値引きを強要されたり、取引から排除されることも生じています。何よりも、業者間で消費税負担の押し付け合いが生じ、分断と不信を招いています。
 アニメやエンタメ、芸術など、日本が世界に誇る文化や産業を崩すことにもつながっていきます。
 インボイス制度は、中小業者、フリーランス、国民の”誰も得をしない”制度です。私たちも、地元に帰れば、ご商売をされている方々から深刻なお話を伺います。こういう方々には、自民党を支持されている方も多いのですが、一歩踏み込めば、「インボイス制度は、けしからん。どうにかしてくれよ」との不満が渦巻いていることが分かります。
 昨年12月には、埼玉県議会で、自民党が主導して「インボイス廃止を求める」意見書が可決されました。与党の中にも、地元の人々の声を聞いて、だんだん「これはやばいかな…」と気付き始めている議員が出ています。
 昨年の総選挙では、インボイスを推進する政治勢力(自民、公明、維新)は900万票減らし、逆に、インボイスに反対する政治勢力(立民、国民、れいわ、共産など)は600万票増やしました。衆院で与党は少数となり、野党が多数となりました。これは、インボイスに対する国民の不満や怒りが大きな役割を果たしたと言えます。

参院選が重要に

 私たちの議連も総選挙後、数十人のメンバーが増え、衆参合わせて総勢100人を超える議連になりました。インボイス反対の国会議員がさらに増え、野党政権ができたら、インボイスは今すぐ廃止できます。少数与党の情勢の下で、インボイスに対する国民の不満は渦巻いています。野党政権を実現することが、インボイス廃止への最短の道です。
 少数与党の国会に、インボイス廃止法案の再提出も検討はしています。しかし、日本維新の会など「野党」の中にもインボイスを推進する勢力もいて、廃止法案を成立させる展望は、なかなか見いだせない。維新などがインボイス廃止を妨害する勢力となっていることを明らかにすることも重要になっています。
 だから、この夏の参院選は非常に重要です。インボイスに反対する議員を増やし、野党政権の実現に近づくように、国民の皆さんに応援してもらう必要があります。私も、皆さんとともに頑張ります。

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