昨年の総選挙結果を受けて、基礎控除と給与所得控除の引き上げが焦点となっています。政府・与党は、2025年度税制「改正」大綱で基礎控除を10万円、給与所得控除を10万円引き上げる方針を示しました。これで十分なのか、基礎控除の”そもそも論”に立ち返って検証してみました。
税務大学校でも引き上げを指摘
日本共産党の小池晃参院議員が国立国会図書館に依頼した調査では、日本の所得税の基礎控除の水準が欧米より著しく低いことが判明しました(図1)。日本の48万円に対し、英国237万円、アメリカ209万円、ドイツ184万円、フランス179万円です。
基礎控除は本来、最低生活費を保障するものです。税務職員が研修する、国の税務大学校の論文でも「基礎的人的控除(配偶者控除・扶養控除・基礎控除)は、憲法25条の生存権を保障するための最低生活費控除であることに異論はない」とし、現状が「かなり低い水準になっている。(中略)生活保護基準に見合った水準に引き上げる必要があるとも考えられる」と指摘しています(田中康男「所得控除の今日的意義」、05年6月29日)。

政府・与党案の減税額はわずか
政府・与党は25年度税制改正で、「物価の上昇」を理由に所得税の基礎控除を10万円引き上げ、「働き控え」防止の観点から給与所得控除を10万円引き上げる方針を示しました。
しかし、全ての納税者に関わる基礎控除の引き上げは、わずか10万円です。身銭を切ってでも従業員に給与を支払う中小業者は、給与所得控除引き上げの恩恵を受けられません。
政府・与党案で、所得税はどうなるでしょうか。
年間事業所得240万円の個人事業主(独身)で、所得控除が基礎控除しか適用されない場合、現行9万6千円の所得税が、与党案では9万1千円となり、5千円(1カ月当たり416円)減税されるだけです。給与所得者の場合でも、今回の給与所得控除額10万円引き上げの対象は年収161万9千円までで、例えば時給1500円(年収270万円)のパート労働者は対象外です。基礎控除引き上げの恩恵しか受けられず、同じく5千円の減税額に過ぎません。基礎控除が、ドイツ並みの184万円なら、年間所得184万円までの中小業者や、前出の時給1500円のパート労働者も、所得税はゼロ円となります。
かつて大蔵省も生活費は非課税
大蔵省(現財務省)はかつて「所得税のかからぬ”最低のお献立”」(1965年2月25日、「朝日」)を発表し「このような献立の生活をしていれば、家庭の”最低生活費”にまで、所得税がかかることはありません」とアピールしました(左上の写真)。同記事では「夫婦と子ども3人の生計費は年間五十三万五千七百円となり、所得税がかかる年間所得五十四万四千二百円(中略)に達しない、と大蔵省は強調している」と報じています。政府も以前は生活費非課税と課税最低限を関連付けていたのです。
日本の課税最低限(妻と16歳未満の子2人)は事業所得者で134万円、給与所得者で141万円です。生活保護限度額344万448円(1級地1号、住宅扶助と児童加算含む)や、勤労者世帯(4人世帯、有業者1人)の平均消費支出365万5080円に遠く及びません(図2)。
消費者物価指数は、大蔵省が「お献立」を発表した1965年と比べて、2023年は4・5倍になっています。当時の”所得税のかからぬ最低のお献立”の最低生活費を単純に4・5倍しただけでも、23年の年間生計費は241万円余りです。物価高が続く折、当時の大蔵省の考えに照らしても、日本の課税最低限度額は低過ぎます。
政府・与党の「103万円の壁」見直し案は、中小業者の営業と暮らしを無視し全く不十分です。物価高騰対策や生活費非課税を言うのであれば、基礎控除を抜本的に引き上げることが不可欠です。その財源は、大企業と富裕層優遇の不公平税制を是正し、5年間で43兆円もの大軍拡をやめることで十分、確保できます。
