「46年間、守り続けてきた『カフェサントス』の看板を継いで、100年めざして頑張りたい」―。こう決意を述べるのは、静岡・浜松民主商工会(民商)会員の川口ふみ子さんの長女、舛谷里美さん。「まさか、自分が継ぐとは思っていなかった」と話しますが、「看板を受け継いでほしい」という、ふみ子さんの思いに応え、親子2人で、常連客の”憩いの場”を守る、と決意。若手経営者の交流会を開くなど、民商運動にも力を注いでいます。
「いらっしゃい、お疲れさま」。サイフォンで1杯ずつコーヒーを入れながら、お客を優しく迎えるのは、ふみ子さん。開店の午前7時半から午後7時までを担当します。
「カフェサントス」は、JR浜松駅(浜松市)から徒歩5分、地上32階の高層マンションの1階にあります。カウンター6席、テーブル4卓の16席の店内は、テレビで情報バラエティーが音量控えめに流され、リビングのような雰囲気。表面はカリッと中はもっちりのトーストと入れたてのコーヒーが楽しめる3種類のモーニング(税込み750円、午前10時まで)や、栄養満点の手ごねハンバーグなど日替わりランチ(同900円)が自慢です。コーヒーのセットも、お得だと好評です。午後7時から同11時までの夜の営業は、里美さんが担当し、お酒も提供しています。自宅でも、職場や学校でもない「第三の居場所」としても親しまれ、「リビングのような雰囲気の『サントス』で、コーヒーを飲んでから家に寝に帰る」と通う人もいるほどです。
民商に相談し営業継続
ふみ子さんは1973年に結婚。1978年に夫が始めたサントスを手伝うことになりました。飲食業は初めてで、「お盆を持つ手が震え、コップの水がチャプンチャプン、波打っていた」と苦笑します。その後、離婚して、ふみ子さんが事業主となって、切り盛りしてきました。
民商に入会したきっかけは、市街地の再開発でした。近所に住む民商会員から「相談する人がいないなら、民商に相談するといいよ」と声を掛けられ、2001年に入会。当時の事務局長と支部長がコンサルタントとの交渉に同席してくれ、高層マンションへの建て替え後も、同じ場所で営業を続けられることになりました。
「民商に入って良かった」と感じた、ふみ子さんは、婦人部にも入部。「民商や婦人部の集まりは、お客や仕事関係ではない人たちと話せる場で、気さくに気取らずに付き合える」と話します。婦人部の学習会では、『女だから、男だから』という押し付けや男女の賃金格差などの根本にジェンダー問題があると気付くなど新たな視点も獲得。今では副部長を務めています。
母が守ってきた店を…
幼い頃から店を手伝っていた里美さん。「母はコーヒー豆を扱っていたので、指先がいつも真っ黒に染まっていた。忙しく働く姿を見ていたので、大変そうだから、私はやりたくないなと思っていたんです」
その後、紆余曲折を経て、シングルマザーとなり、4人姉妹を育てながら、会社や飲食店に勤めていました。転機が訪れたのは、再開発問題が起こった時でした。「母がずっと守ってきた店の看板を下ろしてもいいのか…」。そんな思いが込み上げてきて、一番下の双子が小学4年生の時に会社を辞め、店を継ぐ決意をしました。
多い時には3人の子どもを連れて店で働く姿を見て、常連客が子どもたちの面倒を、親戚のように見てくれました。双子たちが高校に上がる時には、みんなで自転車をプレゼントしてくれたことも。
里美さんは2016年9月、静岡県掛川市の「つま恋リゾート」で行われた第14回全国業者青年交流会に参加。事業継承の分科会などで、「家業を継ぐことに悩んでいるのは、自分だけじゃない」と励まされたことがきっかけで、民商運動に積極的に関わるようになりました。
「1人で頑張るのではなく、関わる人を増やして、民商を盛り上げたい」と、昨年12月には、所属する中央支部で、真ん中世代の仲間1人と中心になって声を掛け、ランチ交流会を初めて開催。8月には2回目を開き、11人が集まりました。「もっと交流を深め、次世代の担い手をつくりたい」と考えています。
ふみ子さんは「娘は”今のお母さんの年齢になるまで、店をやりたい”と言ってくれているし、孫娘も興味があるみたい。3世代で、『サントス』がつながっていくかも」と期待しています。