インボイスに物価高 業者に直接支援を|全国商工新聞

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全中連が9府省庁などへ要請

 全国中小業者団体連絡会(全中連)は1日、「10・1国会行動」に先立ち、財務省、国税庁など9府省庁と公正取引委員会への要請を行いました。同日午後、石破茂新政権が発足し、「10月27日投開票の解散総選挙」を明言する中、消費税インボイス(適格請求書)や物価・人件費の高騰、重い社会保険料負担などで苦境に立つ中小業者の実情を訴え、直接支援の実施などを要望しました。

厚労省 マイナ保険証ごり押し批判 「メリット周知」固執
厚労省に要請書を手渡す全中連の住江憲勇・代表幹事(左)

 厚生労働省では、診療報酬の引き上げや、マイナンバー(個人番号)カードに保険証機能を持たせた「マイナ保険証」への一本化をごり押しせず、現行の健康保険証の継続を要望しました。
 診療報酬について、省側は「地方創生臨時交付金の活用も含めた支援策を検討している」と回答。全国保険医団体連合会の住江憲勇名誉会長は「交付金の活用ではなく、国が全国一律の支援策を講じるべき」と強く求めました。
 国民健康保険(国保)料・税の負担軽減では、「公費負担を増やさなければ、住民負担が重くなるばかりだ」(大分)などと訴えましたが、省側は「厳しい財政状況の中で、公費負担の引き上げは考えていない」と回答。国保料・税の滞納者に対し、「差し押さえを前提にした徴収が行われている」(群馬)などと実態告発し、是正を求めましたが、「減免制度の活用も含めた対応を自治体に周知している」と述べるにとどまりました。
 マイナ保険証については「メリットを周知したい」との回答に終始。「約7割の医療機関が『マイナ保険証のトラブルや不具合があった』と回答しており、実務負担の増加につながっている」(保団連)などと重ねて批判し、現行保険証との併用を強く求めました。

総務省 生活ありきの滞納処分に 「相談乗るよう通知」

 総務省では、地方税の滞納処分の際に、納税者の事業継続や生活再建を最優先に考えるよう自治体への指導を徹底することなどを求めました。
 省側は、「地方税の適正な執行について、1月と4月に自治体に通知を出している」と回答。自治体の納付相談については「しっかり納税相談に乗ってくださいと通知に毎回記載している」と述べました。1月に発出した「令和6年度地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等について」で「滞納者の個別・具体的な実情を十分に把握した上で、適正な執行に努め」るよう要請していると回答しました。
 参加者が「地方税の徴収においても、差し押さえ禁止財産など国税徴収法に基づいて行うべきと通知しないのか」(高知)と追及したのに対し、「地方税の徴収権は地方自治体にあるが、国税徴収法の解釈を準用している。国税で差し押さえ禁止であれば、地方税でも差し押さえ禁止だ」と述べました。
 郵便局に、生活相談につながる国民健康保険や介護保険などの事務を委託している実態をただすと「各自治体が個別に判断し、4月末時点で、34自治体の85郵便局で実施している」などと答えました。

財務省 消費税減税、インボイス廃止 「考えてない」と拒否

 財務省では、消費税率5%への緊急引き下げ、インボイス制度の即時廃止、「納税者権利憲章」の制定などを求めました。
 佐賀県唐津市から参加した井上年喜さん=居酒屋=は「コロナと物価高、インボイスで、経営は厳しい状況に陥っている」と告発。参加者は口々に中小業者の窮状を訴えました。岩手県盛岡市から参加した関沢淨さん=自然エネルギー普及=は「消費税の緊急減税こそ、最も効果的な景気対策だ。社会保障の財源などと言うが、社会保障は改悪の一途をたどっている」と述べ、見解をただしました。
 省側は業者の声に一切耳を傾けず、消費税減税やインボイス廃止は「考えていない」と述べ、納税者権利憲章の制定についても「憲章の制定よりも、実際の手当てが重要だ」と背を向けました。

国税庁 横暴な税務行政の是正を 実態から目を背ける
強権的な税務調査の実態を国税庁に訴える参加者

 国税庁では、「税務運営方針」の順守の徹底、横暴な徴収行政の是正、確定申告書控えなどへの収受日付印の押印継続などを求めました。
 参加者は、各地で起きている強権的で横暴な税務行政の実態を告発しました。沖縄からの参加者は、納税者の自主的判断による予納をデタラメな理由で強制された事例や、税務調査を終了させるために「民商の”退会届”を提出しろ」と署員から求められた事例を告発しました。「マルサになるかもしれないと恫喝された」(岩手)、「税務調査の際に、立ち会いも、録音も認められなかった。どうやって自らの権利を守ればいいのか」(東京)など、納税者の権利を踏みにじる税務行政の是正を迫りました。
 国税庁の税務運営方針は、「税務調査は納税者の理解と協力を得て行う」などの指針を規定しています。庁側は告発された実態から目を背け、「『税務運営方針』は研修などで職員に広く周知を図っている」と強弁しました。
 収受日付印の押印継続について、庁側は「来年1月から押印を行わないことを予定している」と、従来の方針を繰り返しました。

公取委 下請法改正も視野に入れ 買いたたき規制を改善
公取委に要請書を手渡す全中連の河井章・代表幹事(右、全国FC加盟店協会会長)

 公正取引委員会では、インボイス実施に伴う値引き強要や取引停止の実態を告発し、11月から施行されるフリーランス保護法への対応や、FC加盟店と本部との不公正な取引の問題、下請法改正に伴う実効性の担保などを要請しました。
 委員会側は、5月に行った下請法の運用基準改正について、「買いたたき」行為への勧告を出しにくかった現状を踏まえて、原材料やエネルギー価格、労務費などの上昇を考慮せず、「コストの著しい上昇を把握することができる場合において、据え置かれた下請け代金」も、新たに買いたたきに該当する違反行為であると明記したと説明。さらなる下請法改正の検討も始めており、「要請項目にもあるように、下請法の運用を向上させなければならないという強い問題意識を持っている」と回答しました。
 インボイスについては「Q&Aで問題になり得る行為を明らかにし、周知・広報に努めている」と答えました。

国交省 ライドシェアで明言 「解禁すべきでない」

 国土交通省では、激甚災害への備えや建設業・運送業の「2024年問題」から業界を守る価格転嫁対策、日本版ライドシェアの全面解禁の中止などを要請しました。
 京都市から参加した個人タクシー互助協同組合の洲見雅義理事長は「来年、新法が出されるといわれるライドシェア、いわゆる『白タク』が全面解禁されようとしているが、許し難い」と述べ、見解をただしました。省側は「地域の自家用車であったり、ドライバーの活用に当たっては①車やドライバーの安全性②事故が起こった際の責任③適切な労働条件という三つの重点がある。新法による全面解禁は導入すべきではない」と明言しました。石川県からの参加者は、元日の地震に続く9月の豪雨被害に「被災事業者の心は、折れそうになっている。国として『見捨てていない』とアピールしてほしい」と要望し、省側も「検討していく」と答えました。

内閣府 臨時交付金の使途 社保料への補助も可

 内閣府では、物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金(臨交金)の抜本拡充などを要請しました。
 岸田文雄前首相が6月に表明した臨交金の準備状況を確認したところ、府側は「現状で決まっていることは何もない。総選挙後の臨時国会で補正予算が成立し、手当てされれば、自治体に案内する。実施は、早くても年明けになるのではないか」と回答。参加者は「石破氏は地方創生を起爆剤と位置付けている。地域の全ての事業者に行き渡るよう、十分な予算を確保してほしい」と要望しました。
 臨交金の使い道について、「社会保険料の事業主負担分の補助」や「国民健康保険料の均等割の補助」などにも活用可能であることを改めて確認。各自治体への周知を求めました。

経産省中企庁 直接支援言及せず 「環境整備」のみ強調
小規模な事業者への支援を求める 全中連の花井正幸・代表幹事

 経済産業省・中小企業庁では、物価高騰や人材不足の影響を受けたり、賃上げを実施する中小業者への直接支援や、「ゼロゼロ融資」の返済に苦しむ中小業者の資金繰り支援などを求めました。
 物価上昇分の価格転嫁について庁側は、中小業者の価格転嫁が困難なことに一定の理解を示しつつも、年2回の「価格交渉促進月間」や下請けGメンによる調査など「価格交渉しやすい環境整備に取り組んでいる」と述べるにとどまり、直接支援については言及しませんでした。中小業者の「自立支援」「生産性向上」を繰り返し、賃上げ促進税制の要件緩和についても「慎重な検討が必要」と後ろ向きでした。
 参加者は「まちの電気屋として、地域の高齢者らの生活を支えている。大企業ができない役割への評価を」(香川)などと、中小業者が地域で果たしている役割を強調。「消費者相手の商売では価格交渉はできない。中小業者の賃上げ支援は、国として責任を持つべき」と重ねて要望しました。

金融庁 資金繰り支援強化 「細やかな支援」要請

 金融庁では、金融機関に関連して7項目、損害保険業界の課題について2項目を要請しました。
 コロナ借り換え保証制度の終了に伴う資金繰り支援強化に対しては、今年6月、金融機関に対し「事業者に最大限寄り添った、きめ細やかな支援の徹底」を求める要請文書を発出していると回答。小口零細企業保証を活用した借換制度による資金繰り支援についても、「民間金融機関に要請している」と説明しました。
 参加者からは、「5千万円の借り入れで、年間で150万円の金利を払わざるを得ない業者もいる。相談窓口で門前払いされた人もいる。業者を追い込まない対応を」(静岡)、「地方の経済や業者は疲弊している。今は売り上げ減でも融資を受けられるような仕組みが必要だ」(熊本)、「小切手帳の値上げで、取引に影響が出ている」(埼玉)などの実態が示されました。
 ビッグモーター事件などで明らかになった損保業界の問題点について、庁側は「損保各社に対し、信頼回復に向けた積極的な取り組みを促す」と述べました。

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