国や県は役割を果たせ 石川・能登民商被災会員を訪問
兵庫県連の仲間も
「地震直後から変わらない光景を見続けると、気持ちも、すさんでくる」「若い人ほど輪島から離れていく」「県の補助金は使いにくく、諦めた人も多い。国はお金を出したくないので、わざと難しくしたのでは?」―。能登半島地震から半年余りたった石川・能登民主商工会(民商)輪島支部の会員たちの声です。倒壊した家屋が至る所に残る中、民商が7月21日、兵庫県連の有志とともに支援物資を届けて対話すると、感謝とともに、仕事や輪島の現状と将来不安、国の対策の遅れへの憤りなどが、あふれ出ました。
喫茶店再開へめどが立たず
「訪ねて来てくれて、ありがとう。本当にありがとう」。朝市通りで喫茶店「茶房三丁目」を営んでいた小川逸郎さんは仮設住宅で、こう出迎えてくれました。この道50年の地域に愛される店で、小川さんが自家焙煎するコーヒーを求めて、東京や神奈川からリピーターが訪れるほどでした。23年前に妻に先立たれてからは、常連 強い揺れで全壊となった輪島支部会員の小川逸郎さんの喫茶店「茶房三丁目」(右側建物)(7月21日撮影)客との会話を励みに営業してきました。
しかし、地震で自宅兼店舗は全壊。「仮設住宅が当たって、5カ月ぶりに輪島に戻って来られた。喫茶店の常連だった人が仮設に訪ねて来てくれるのはうれしいけど、お店に立たないので、日常的に人と接しない。仮設の住人同士が交流できる集会場のようなものがあったら…」と願います。自宅兼店舗の公費解体は決まっていますが、その後のめどは立っていません。
塗り箸工房の職人が戻らず
輪島塗箸工房「(有)天野屋」を営む天野誠さんは地震によって工場が全壊。一緒に働いていた職人6人全員が市外へ避難しました。職人が輪島に戻る見込みは薄く、経験のなかった妻の薫さんが輪島塗の作業を一から学び、2人で自宅前の倉庫で営業を再開させました。
目下の課題は、支払いを猶予されていた社会保険料を、どうやって払うかです。「滞納分を、ようやく払い終わったところです。同じように、困っている人が大勢いるのではないでしょうか。支払いの猶予だけではなく、免除にならないものか…」と切望します。
進まぬ解体に気持ちすさみ
「国は被災者にお金を『出す、出す』と言うが、実際には出していない。被災者に希望を与えず、諦めて、輪島から出ていくのを待っているのではないか」。こう憤るのは、「吉田農機店」を営む吉田正さんです。地震発生直後から、全国の支援物資の集積所として、店の倉庫を提供してくれました。
「『村じまい』を検討する地域も出ています。輪島は農家が無くなったら、成り立ちません。農家への支援と田んぼの修復を急ぐべきです。石川県では公費解体の申請約2万3千棟に対して、解体が完了したのは、わずか6%です。地震直後から変わらないままの光景を見続けると、気持ちも、すさんできます。早期復旧に尽力すべき」と力を込めます。
まずは朝市を立て直すべき
「観光施設が復旧しないと、観光客は戻って来ません。まずは朝市が立ち直ってほしい」と話すのは、ペンション「ハトヤ」を営む松村香保里さんです。15~20人が泊まれる宿は本来、観光客向けですが、現在は災害復旧関係の業務を担う建設業者が利用しています。「地元の建設業者の人材不足に拍車がかかっています。若い人、仕事ができる人ほど輪島から離れていってしまう」と、地域の未来を案じます。
県の補助金は使い勝手悪く
「(株)伏原左官工業所」を営む伏原正志さんは「県のなりわい再建支援補助金は使いにくく、申請を諦めた人も多い。国はお金を出したくないので、わざと難しくしているのではないか」と、いぶかしみます。
現在、砕石などの資材不足は解消しつつありますが、仕入れ値は上昇。このまま高止まりするだろうと予想しています。正志さんと息子の翼さん、4人の職人全員が輪島に残り、家屋の解体や修理の仕事に励んでいます。
正志さんは「一体、どこまでやればいいのか。切りがない作業量に途方に暮れますが、使命感でやっています」。地域住民のために力を尽くす一方、「国や県は、役割をもっと果たしてほしい」と要望しました。
公費解体
「特定非常災害」に指定された災害によって全壊、半壊した家屋の解体・撤去を自治体が行う制度。所有者の同意書や、り災証明書のほか、申請者の印鑑登録証明書、被災家屋等の配置図や状況写真、固定資産評価証明書などが必要とされます。
石川県なりわい再建支援補助金
能登半島地震の被害を受けた石川県内に事業所を有する中小企業・小規模事業者等の工場・店舗などの施設、生産機械などの設備の復旧費用等を補助するもの。1事業者当たり、補助上限は15億円(一部5億円まで定額補助)、同じく補助率は最大4分の3(一部定額補助)。費用負担は国が3分の2、県が3分の1。