中小・小規模白書をどう読むか 北海学園大学大貝健二さんが解説(上)|全国商工新聞

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 2024年版中小企業白書、小規模企業白書が先ごろ閣議決定されました。両白書の特徴を、北海学園大学の大貝健二教授が2回にわたって解説します。

 中小企業庁が取りまとめた『中小企業白書』(「令和5年度の中小企業の動向」及び「令和6年度中小企業施策」)並びに、『小規模企業白書』(「令和5年度小規模企業の動向」及び「令和6年度小規模企業施策」)が発表された。今回は、中小企業白書の特徴と本来求められる中小企業対策について述べていきたい。

白書の特徴は

 今年1月に発生した能登半島沖地震による被災地域の状況(年齢や産業構成)、コロナ禍における政府の資金繰り支援策の検証についても言及がなされているが、全体的には①中小企業における業況と経営課題②人材の供給制約(人手不足)と賃上げ③生産性の向上と投資④第三者承継を含む事業承継⑤資金調達と経営支援⑥中小企業の成長―について展開されている。大雑把ではあるが概要をまとめておく。
 第1に、中小企業の業況と経営課題に関しては、2023年第4四半期から景況感の低迷が見られることが示されている。コロナ禍後、業況感は改善してきたものの、売上高減少に加え、原材料高や求人難などの経営課題を抱えていることが取り上げられている。原材料高に関しては、コスト増加分を価格転嫁できず、収益を圧迫していることに触れ、特に企業間取引において価格交渉力を持つ必要性が述べられている。
 第2に、人材不足に関しては、今後も人口構成から就業者数が増えない中で、いかに人材を確保するかが課題であるとする。その手段として、人材を確保できている企業を引き合いに、働きやすい環境の整備や、賃上げへの投資が必要であることが述べられている。同時に、防衛的に賃上げを行い、利益を圧迫しているケースにも言及し、原資確保に向けた取り組みの重要性も指摘している。
 第3に、生産性に関しては二つの方向性から論じられている。それは、国際的にみて低位である日本の生産性を向上させること、人材不足の状況下における、省力化投資を通じた生産性の向上である。中小企業の生産性を向上させるためには、低コスト化・数量確保以上に、単価の引き上げによる生産性の向上を追求する必要性があると指摘している。また、人材不足への対応として、規模の小さな企業ほど省力化投資の余地があり、投資を通じて、人材不足の緩和に加えて、売上高増加につながる可能性に言及している。
 第4に、事業承継についてである。経営者の高齢化に加え、高い水準で後継者不在企業が存在していることを指摘し、後継者育成や第三者承継(M&A)に対して、具体的な事例や、国が用意している制度を紹介している。
 第5に、資金調達と経営支援である。人材とともに重要な経営資源である資金調達の方法として、中小企業の資金調達に重要な役割を果たす金融機関であるが、金融機関が企業の投資計画策定に関与することで、投資効果を高めうること、金融機関は、多様な経営課題に対して、多様な経営支援を行っていることが述べられている。また、中小企業の成長投資に向けた資金調達の方法として、エクイティ・ファイナンス(株式発行による調達)の可能性を取り上げている。そのほか、商工会や商工会議所、よろず支援拠点など、中小企業の支援機関について、事業者が支援機関を活用することは、業績面の改善につながる可能性があるものの、支援機関の人手不足や支援ノウハウの不足の他、経営課題や支援機関によって、対応にばらつきがあることが指摘されている。そのため、支援機関同士の連携などを通じて、支援体制を強化することが必要であるとしている。

必要な対策は

 本来必要なのは、第1に、コロナ禍から急拡大する大企業との格差是正である。全体を通じ、そのことへの言及がないように思われる。中小企業がコスト増を価格転嫁できていない問題に関して、企業間取引において価格交渉力を持つ必要性が指摘されているものの、中小企業の努力のみが求められるものだろうか。むしろ、政策的なアプローチによって、大企業と中小企業の格差是正をめざすべきではないのだろうか。
 第2に、中小企業の成長・発展は確かに重要である。とはいえ、脱炭素化や、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みが、付加価値向上の手段として有効であるとしても、多くの中小企業にとって、そこまでの余力があるのだろうか。コロナ融資の返済、物価高、人材不足と、中小企業経営は難題が山積している。むしろ、税制面での負担軽減などを通じた経営体力の回復が求められるのではないか。
 第3に、後継者不在に伴って、第三者承継(M&A)が増加している。事業存続の観点から、M&Aは選択肢の一つではある。しかし、M&A仲介業者を通じて、地方企業が大都市圏企業に吸収されるケースも増えている。事業は残ったとしても、利潤は本社がある大都市圏に還流し、結果として地域の経済が疲弊する可能性もある。具体的な対策として、地域内でM&Aのマッチングを行うなど、優先順位をつけることも必要ではないだろうか。

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