「消費税を納税できるか心配になった」「廃業を考えざるを得ない」事業者も―。全商連付属・中小商工業研究所は4月25日、2024年上期(3月)営業動向調査の結果を公表しました。消費税インボイス(適格請求書)制度が昨年10月に実施されたことを受け、今期から消費税に関する調査項目を一新。インボイス実施後、初の調査でもあり、消費税の納税義務の有無や、インボイスの登録状況と影響なども聞きました。
免税、課税とも悪影響 インボイスで独禁法抵触も
年間売上高1千万円超のインボイス発行事業者(課税業者)の51.1%が「経理や記帳など実務が増えた」と答えました。同1千万円以下のインボイス発行事業者(課税業者)の45.1%が「消費税を納税できるか心配になった」と回答(図1)。免税事業者の7.5%が「廃業を考えざるを得ない」としています。
免税事業者で「課税業者との取引で影響があった」(20.8%)を選んだ業者に、どのような影響があったか聞いたところ、インボイスの未登録を理由として、「課税業者が一方的に値引き・単価を引き下げてきた」(29.7%)、「課税業者が一方的に発注を減らしてきた」(8.1%)、「課税業者が一方的に取引を停止してきた」(10.8%)、「課税業者が、価格引き下げや取引停止などを引き合いにインボイス登録をするよう一方的に通告をしてきた」(13.5%)など(図2)、インボイス制度が独占禁止法に抵触しかねない行為を招いている実態が明らかになりました。問題は、課税業者にあるのではなく、インボイス制度そのものにあるというべきです。
一方で、「免税業者との取引で影響があった」を選んだ課税事業者も、「免税業者にインボイス登録をするように言えず、消費税負担が増えた(今後増える予定)」が42.9%と最も高く、免税業者との取引関係(信頼関係)が損なわれることを恐れ、自ら消費税の負担を余儀なくされている実態が浮かび上がりました。消費税率の引き下げとインボイス制度の廃止こそ必要です。
従業者6人以上も悪化 長期の物価高が経営圧迫
今期(24年上期)は全体(全回答者計)で、売上DI値(前期▲34.2↓今期▲37.2)と利益DI値(前期▲45.2↓今期▲48.2)がともに減少しています。原材料・商品の仕入値DI値の高水準が長期にわたり(前期87.5↓今期82.8)、単価・マージンDI値が減少していることが(前期11.1↓今期5.5)、主な要因と考えられます。
従業者規模別では、従業者5人以下の小企業者は、売上DI値(今期▲42.1)や利益DI値(今期▲51.9)が水面下の深い位置をほぼ横ばいで推移しました。一方、20年下期の底から前期まで売上DI値・利益DI値ともに順調に改善してきた従業者6人以上は、売上DI値(前期9.7↓今期▲8.8)が18.5ポイント、利益DI値(前期▲7.3↓今期▲27.0)が19.7ポイントと大きく悪化しました。単価・マージンDI値も顕著に下がりました(前期30.7↓今期14.6)。
ひとこと欄には「材料がコロナ前と比べ5割くらい上がっている」(職別工事業)、「主力商品が20~50%の値上げとなった。開業して20年、ここまでの値上げは初めてだ」(小売業)、「仕入金額の上昇による経営への圧迫と産廃価格(廃棄処理料)の値上げが経営を圧迫している。今後、商品価格の引き上げも予定している。顧客離れが起きないか心配だ」(一般飲食店)、「物価高、原油高による仕入値の高騰は当たり前にある。仕入価格の影響がないところはないと思う」(職別工事業)など悲痛な声が寄せられています。
政府や自治体には、物価高騰対策としての直接支援策や資金繰り支援策、事業者間の公正取引ルールを確立するための施策等の実施が求められています。
DI値
ディフュージョン・インデックスの略語。企業の景況感などを「良い」「悪い」といった定性的な指標で数値化したもの。「良い」と回答した企業割合(%)から「悪い」と回答した企業割合(%)を差し引いた値。
【調査概要】
〈調査期間〉2024年2月14日~3月18日
〈有効回答〉628人(調査対象モニター人数:47都道府県1061人、有効回答率59.2%)
〈回収方法〉郵送記入
〈業種構成〉建設業(建築設計含む)29.9%、食料・繊維・木製品・印刷関連製造業9.9%、金属製品・機械器具製造業14.2%、流通・商業19.4%、宿泊・飲食業9.4%、サービス業17.3%〈事業形態〉個人60.0%、法人40.0%
〈事業規模(事業主本人を含む全従業者数)〉1人20.7%、2~3人40.8%、4~5人18.6%、6~9人11.8%、10人以上8.1%