「業者婦人は1人4万円の定額減税」 白色事業専従者など対象外 全商連と全婦協、怒りの政府要請 「業者婦人は国民ではないのか」|全国商工新聞

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「私たち業者婦人は、国民1人4万円の定額減税で差別された。腹立たしさで、いっぱいだ」「『国民に還元する』と言いつつ、制度の対象外にするなんて、私たちは国民ではないのか」―。6月から実施される所得税・住民税の定額減税が、白色申告の事業専従者と青色申告の事業専従者の一部を対象外とすることに怒りの声が沸き上がっています。全国商工団体連合会(全商連)と全商連婦人部協議会(全婦協)は4月22日、財務省と内閣府に、全ての事業専従者への「定額減税」を求めて要請。衆議院で同12日、この問題を追及した田村貴昭議員(共産)に、鈴木俊一財務相は「給付措置を検討する」との考えを示しました。

財務省に要請する全婦協の塚田豊子会長(左から3人目)ら

 全商連と全婦協は要請で、財務省と内閣府に「定額減税の対象にすべての事業専従者を加えること」「白色事業専従者や一部の青色事業専従者を対象としないのなら、給付金の対象とすること」を求めました。要請には、全婦協の塚田豊子会長=自動車販売・修理=をはじめ役員らが参加しました。
 6月から実施される定額減税と低所得者向け給付金制度では、白色事業専従者や青色事業専従者の一部が対象外とされることが明らかになっています。
 要請書は「所得控除の上限がわずか86万円とされる白色事業専従者や、専従者給与が103万円以下の青色事業専従者が対象から外されることに道理はない」と指摘。「白色事業専従者の働き分は、事業主の必要経費に算入することを許されず(所得税法第56条)、今度は定額減税の対象からも外されるというのでは、あまりにも理不尽であり、法の下の平等を定めた憲法に反する差別的な処遇だ」と強調しています。
 目黒千惠美副会長=建築工事=は「事業専従者を対象外にするのは差別だ。腹立たしくてならない。定額減税を受けられない者の気持ちを、どう考えるのか」と憤りました。塚田会長は「定額減税の面倒な事務をやるのは私たち事業専従者だ。全ての国民が減税を実感できる景気対策を打ってもらいたい」と求めました。鈴村和子常任幹事=総合建設=と菊地ゆり子常任幹事=美容=は「業者に減税実務の負担を強いるのなら、まずは分かりやすい説明をすべきだ」と口をそろえて言いました。
 財務省は、所得税法上の定義を踏まえ「白色事業専従者や一部の青色事業専従者は、定額減税の対象にならない」と開き直りました。内閣官房は「給付金の対象は、自治体の実務の執行可能性も踏まえ、検討する」と答えました。
 塚田会長は「この問題の根底には、業者婦人など家族専従者の“働き分”を必要経費として認めない所得税法第56条の問題がある。国連からこの規定の見直し勧告も受けていることを踏まえ、改善を検討してほしい」と重ねて求めました。

財務相「給付措置を検討」 田村貴昭衆院議員(共産)が追及 56条見直しも迫る

質問する田村衆院議員

 日本共産党の田村貴昭衆院議員は4月12日、定額減税から事業専従者が排除されている問題について、政府の姿勢をただしました。
 財務省の青木孝徳主税局長は、「所得税法の同一生計配偶者や扶養親族の定義に含まれない配偶者や親族は、定額減税の対象者に含まれない」と所得税法第2条を盾に、白色事業専従者と青色事業専従者の一部が定額減税から排除されていることを認めました。
 田村議員は、「物価高対策として全国民を対象とする制度なら、サラリーマンも、自営業者も、フリーランスも等しく支援すべきだ」と追及。所得税法第56条の問題にも触れ、「56条の見直しも必要であり、自営業者の家族も、ちゃんと支援すべきだ」と求めました。
 鈴木俊一財務相は「今般の定額減税は給付措置と一体として行う。給付金の対象は、実務を担う自治体の執行可能性等にも十分配慮しつつ、現在、検討を行っている」と、減税の対象外となる事業専従者には給付で対応する方向性を示唆しました。

所得税法第2条

 所得税法に記されている用語を定義している条文。第33項で「同一生計配偶者」、第34項で「扶養親族」について記述し、どちらの条文も、事業専従者として控除を受けている場合は扶養家族(配偶者および親族)の対象としないと定めている。財務省は、この基準に従うため、今回の定額減税で事業専従者は減税の対象から外したとしている。

「働き分」認めよ 税理士 平石共子さん

 鈴木財務相が所得税法第2条を根拠に、今回、白色申告の事業専従者と青色申告の事業専従者の一部が、定額減税の対象から排除されることを正当化しようとしていますが、その問題の背景には所得税法第56条があります。
 56条は、家族従事者の「働き分」を必要経費として認めず、申告の仕方によって不当に差別するものです。この考えの背景には、シャウプ勧告(1949年)以来の“個人事業者が所得を分割し、不当に節税するのではないか”という認識があるわけです。
 この規定が設けられた1952年当時の時代背景や個人事業の実態は、その後の社会経済情勢の変化に伴って大幅に変化しました。もはや「働き方改革」の名の下で、副業が推奨される時代です。56条については、税務大学校の論文(98年10月)ですら「この規定を存続させる理由が乏しくなっている」と指摘するほどです。所
 得税法を根拠にして、事業専従者を定額減税の対象外にすることには何の道理もありません。対象に認めさせる運動を進めるとともに、せめて給付の対象にさせることです。仮に給付もされないなら、不公平極まりない異常事態でしょう。

増税批判かわしの愚策 税理士 齋藤正広さん

 定額減税について、その事務を担う中小業者から各地の民主商工会(民商)に、疑問や懸念などが多数寄せられています。定額減税の問題点について、齋藤正広税理士に聞きました。

 今回の定額減税ほど矛盾に満ちたものはないでしょう。多くの税理士からも、減税で賄えない分を給付するなら、「最初から全て給付にしておけば良かったのに」との声が出ているほどです。
 「増税内閣」という批判をかわすために、大企業などでボーナスが支給される6月から何としても「減税」の“恩恵”を与えたいという岸田文雄首相の“思惑”に付き合わされ、従業員を雇っている中小企業(源泉徴収義務者)と地方自治体が、実務とコストの面で大変な負担増を押し付けられることになります。こうした行政コストは国民の税金に跳ね返るわけですから、何のための減税かと言いたいくらいです。
 国会答弁で、鈴木俊一財務相が「ソフトウェアを活用される場合には、事務負担を抑えられる」と言っていますが、国を挙げてソフト導入を促し、今回の定額減税で大もうけをするのは、給与ソフトなどを開発している大手ソフトウェア会社でしょう。導入したソフトがクラウドでつながると、税務情報が国税当局に筒抜けになるわけですから、何をか言わんやです。
 消費税インボイス(適格請求書)、電子帳簿保存法、そして定額減税と、中小企業はとんでもない負担を強いられ続けています。税務行政のデジタル化に対応できない中小企業は「もう、つぶれろ」と言っているのと同じです。納税者・中小企業が恩恵を感じられる経済対策こそ行うべきです。

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