「戦争する国」づくりを許さず ガザの危機と日本の「二つの顔」|全国商工新聞

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米国追随の軍事化をやめて即時停戦へ声を上げるべき

ガザの危機と日本の「二つの顔」
千葉大学教授 栗田禎子さん

日本は平和への役割を果たせる

 イスラエルによるガザ攻撃で、これまでに3万人以上の市民が死亡する(その7割は子どもと女性)という人道上の大惨事が発生している。昨年10月の危機発生以来、イスラエルはガザへの攻撃を「テロへの自衛」と称して正当化し、欧米諸政府(特にアメリカ)もまるで戦争(「ハマス殲滅」)が問題解決の唯一の道であることを自明視するかのような姿勢をとってイスラエルの行為を黙認してきたが、平和憲法を持つ日本はこうした状況下で、本来ならきわめてユニークで積極的な役割を果たし得るはずだと言える。
 日本は戦争を放棄した国であり、国際紛争を戦争によって解決することを否定している(憲法9条)。パレスチナ問題をはじめとする中東の危機についても(あるいはロシア・ウクライナ間の紛争についても)日本は「問題を戦争で解決するのは間違っている」と堂々と主張し、非軍事的・平和的手段での解決の必要性を訴えることができるはずである。また、日本国憲法は全世界の人々が「ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを謳っており(憲法前文)、この立場からすれば日本国民は現在ガザの人々が置かれている状況(無差別攻撃による死と破壊に加え、食糧供給が遮断され、住民は飢餓に瀕している)を座視するわけにはいかず、即時停戦とガザ救援を求めて国際社会で率先して声を上げるべきである。ガザをめぐる凄惨な状況は、日本の平和憲法が拠って立つ理念(戦争放棄や平和的生存権)の重要性を、改めて私たちに痛感させるものなのでないか。
 他方で、現在ガザで進行中の事態とアメリカの対応、そして日本政府の姿勢等を見ていると、「平和主義の国だから」といって安心しているわけにはいかない面――具体的にはアメリカの世界戦略の中で中東におけるイスラエルと東アジアにおける日本とはある意味でパラレルな位置にあり、ひとつ間違えば将来、イスラエルがガザで行っているような無法な軍事行動に日本が踏み出していく危険性があること――にも気づかされる。

「対テロ」の名でアメリカは黙認

 イスラエルは、そもそもは20世紀前半に当時のイギリス帝国の中東経営の都合上、建設準備が始まった入植者国家であり、建国(1948年)後はパトロンをイギリスからアメリカに替えて、第2次世界大戦後の中東におけるアメリカの「前哨基地」的な役割を果たして来た国である。また、現在イスラエルがガザで展開している作戦(「テロ対策」や「自衛」を口実とする無差別攻撃)は、実はアメリカが特に21世紀に入ってから中東に対して仕掛けてきた一連の戦争(アフガン戦争やイラク戦争。これらは「対テロ戦争」の名で正当化された)と同一のロジックに基づくもの、アメリカの対中東戦争の「ミニチュア版」ともいうべき性格を帯びており、これがアメリカが今に至るまでイスラエルのガザ攻撃を黙認・放置している要因でもある。

平和憲法軽視し軍事化する日本
「安保法制」に反対し約12万人が集結した国会前行動=2015年8月30日

 では日本はといえば、実は日本は平和憲法を持つ国であるにもかかわらず、1990年代以降、特に小泉政権下で、アメリカの戦争に全面的に協力する方向にかじ舵を切った。アフガン戦争に際してはインド洋での給油活動、イラク戦争後にはイラクへの自衛隊派遣に踏み切り、これらを集大成する形で安倍政権下の2015年には「安保法制」を制定して、アメリカの戦争に世界中で「切れ目なく」協力する態勢作りに踏み出したのである。さらに2022年末には「安保法制」を具体化する「安保関連3文書」が決定され、大軍拡およびアメリカとの軍事的一体化が急速に進行している。とりわけ現在は(「台湾海峡問題」をクローズアップする形で)アジアにおける「中国包囲網」の最前線に日本を位置づけようとする米国の戦略に迎合する傾向が際立っており、「敵基地攻撃能力」保有、南西諸島の軍事要塞化等の動きも進んでいる。
 「敵基地攻撃能力」は、「自衛」の名のもとに相手国の領土内で軍事行動を行い、相手国の指揮系統等にも打撃を与えることをめざすものであるが、周辺諸国に「テロリスト」もしくは「ならず者国家」といったレッテルを貼り、相手側の領内深く攻め入って指揮系統まで破壊するというのは、ある意味ではイスラエルが現在ガザでしていること(自らの安全のための「ハマス解体」、目的実現のための無差別攻撃や国際法違反の正当化)と同じである。米軍事戦略のアジアにおける「前哨基地」としての役割を引き受けつつある日本政府は、実はイスラエルと同じロジックを採用し、同じ立ち位置をとりつつあり、これが現在、世界の市民や(特にいわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる)諸国からイスラエルを批判し、ガザの悲劇を一刻も早く終わらせようとする取り組みがあいついでいるのに対し、日本は国連人権委におけるイスラエルへの武器禁輸を求める決議を棄権する、といった現象につながっている。

「イスラエル」にしてはいけない

 日本には「二つの顔」がある。戦争放棄を定めた日本国憲法を持つ平和国家としての顔と、アメリカとの軍事的一体化を深め、アジアにおけるアメリカの基地国家としての役割を担おうする顔と。――決して後者の道(「今日のイスラエルは明日の日本」?)を選んではならないことは、ガザの地獄図が示していると言えよう。

「有事」想定し16の空港と港を指定攻撃の標的、米軍利用のリスク増大

 「日米共同使用に懸念」(2日付朝日)、「つきまとう『標的になる不安』」(同東京)―。岸田政権が1日、有事の際に自衛隊や海上保安庁が防衛拠点として使用する空港や港として全国16カ所を選定(図)しましたが、他の候補地22カ所は「一番の懸念は日米の共同使用」「ミサイル攻撃の標的になる不安」などの理由で了解が得られず、継続協議となりました。

 ”台湾有事”などの際の南西諸島へのアクセスを念頭に、大型輸送機が離発着可能な滑走路の延伸や、大型艦艇が接岸できるように海底の掘り下げなどを進める予定です。
 前出「東京」の記事で、中京大の佐道明広教授(安全保障論)は「『政府は特定利用空港・港湾の米軍利用は想定していないと言うが、日米ガイドラインでも民間の空港や港湾も有事になれば共用するとされており、米軍は当然使うはずだ』と指摘。『攻撃目標となる危険性は高まらないとも説明しているが、住民へのごまかしだ。自衛隊や米軍が利用すれば相手の攻撃対象に当然なる』と強調する」とコメントしました。
 実際、今回指定された沖縄・石垣港には3月11日、米海軍のミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」が入港を強行。国土交通省の統計でも昨年、米軍の軍用機が国内の民間空港を利用した回数は過去10年間で最多の453回に上り、米軍艦艇が国内に入港した回数も12回へと増加しました(NHK、3月12日)。昨年12月13日には、陸海空3自衛隊と米軍が、大分空港と鹿児島・徳之島空港で共同訓練を実施しました。
 そもそも、日米安保条約に基づいた日米地位協定第5条は「米軍の日本国内の移動の自由、公の船舶・航空機の出入国、基地への出入国」を定めており、「米軍利用は想定していない」という政府の言い分は成り立ちません。

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