生業再建し被災地復旧を 前向く会員を民商が後押し|全国商工新聞

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 能登半島地震(1月1日)から、2カ月余り。石川県内では、災害関連死を含め死者241人、全壊・半壊など住宅被害が7万6824棟に上り、今なお1万人以上(いずれも3月1日現在)が避難を余儀なくされています。5市7町で活動する能登民主商工会(民商)でも、会員の多くが被災。建物被害や断水などもなりわい続いています。そうした状況を乗り越え、「苦しくても生業の再建をめざしたい」と、前を向く会員の姿を追いました。

「本当にありがたい」石川・能登民商太田全商連会長らと支援行動

吉田正さん=農機具修理・販売=(左)と初枝さん(その右)から要望を聞く全商連の太田義郎会長(右から2人目)ら=石川県輪島市

 2月15日、支援物資を満載したワゴン車が輪島市の民商会員、吉田正さん=農機具修理・販売=の事務所に到着しました。地震直後、約5ヘクタール、200棟以上が焼けた大規模火災に見舞われた「朝市通り」に隣接した場所です。
 吉田さんの事務所は、被災直後から民商経由で届いた支援物資を配布する拠点に。会員らが必要に応じて物資を取りに来るスタイルが続いています。
 車を運転してきたのは、民商副会長の亀﨑正藏さん=建築。間髪を入れずにやって来たのは、会員の天野誠さん=輪島塗製造・卸=です。水のペットボトル2リットル入り64本を急いで車に積み込みました。

輪島塗の3代目
天野誠さん=輪島塗製造・卸=(右)から実情を聞く全商連の太田義郎会長
理容店を営む山口正樹さん(左)、夏己さん(中央)親子と経営再建について語り合いました=いずれも輪島市

 「断水が続き、飲み水の確保や調理にも困っています。雨水もためていますが、飲用には使えない。5人家族で、19歳、16歳、13歳と、子どもが3人います。食事の量が半端なく、飲料水もたちまち無くなる。民商の支援は、本当にありがたい」
 天野さんは、創業およそ80年になる輪島塗の箸の製造・卸の3代目。伝統工芸を支える誇りを受け継いでいます。しかし、工場は全壊して機械類も壊れました。5人の職人は全員、金沢市方面などに避難しています。
 「何としても工場を復旧させたい。でも、1年はおろか、2年でも難しい。どうしたらいいか悩みます」
 この日、支援物資の輸送には、全国商工団体連合会(全商連)の太田義郎会長と岡崎民人事務局長も同行。会員らを支援・激励しました。太田さんが天野さんに語りかけます。
 「まず、雇用調整助成金の特例措置を申請し、従業員の雇用を守りましょう。資金繰り制度や補助金も活用し、支援策をもっと拡充させないと。どんどん声を聞かせてください。民商も全商連も頑張ります」

再開希望は増え
支援物資を車に積み込む全商連の太田義郎会長(中央)ら=七尾市
甚大な被害に遭った朝市通り付近=輪島市

 地震による被害が最も深す刻な奥能登地域(輪島、珠ず 洲両市など)を担当する民商の輪島支部には、50人の会員がいます。民商は地震直後から全会員の安否確認に奔走。幸い会員に人的被害は無かったものの、商売再建は厳しい道のりです。
 民商会長の山口正造さん=建築=は「被災直後の聞き取りでは、輪島支部の50人中、経営再建を希望する人は10人でした。しかし、その後、希望者は23人にまで増えた。地域全体の復旧・復興を進める上でも、多くの業者が商売を継続できる条件づくりが何より大切だ」と強調します。
 輪島市内で理容室を営む会員の山口正樹さん、息子の夏己さん親子も、事業継続を切望しています。自宅兼店舗が応急危険度判定で「赤紙(危険)」となり、避難所で生活中。「食欲旺盛な息子も、『そろそろカップ麺は飽きてきた』と言っている。でも、避難所だから調理ができないし…」と正樹さん。「食べたことのないカップ麺や缶詰はないかな?」と、慎重に支援物資に手を伸ばします。
 「市内には14軒の床屋があります。でも、高齢化などで事業再建を諦める人が多く、営業再開の意思のある店は、うちを含め4軒しかありません」
 「理容室の場合、最低限、はさみと椅子さえあれば、仕事を再開できる。行政には、そういう環境づくりをやってもらえないものか」と語る山口さん親子。現在、避難所や被災地の病院などを巡回し、髪をカットしています。

インフラ復旧を

 被災地域では、断水などのインフラ復旧が進まず、なかなか支援の手が届いていません。金沢市から半島の先端部の珠洲市まで140~150キロを車で走ると、各所で交通網が寸断されていることから、片道5時間以上かかる場合も。現地での支援やボランティア活動をやろうとしても、「金沢方面から日帰りするなら、現地での実働時間は1~2時間しかない」という地区も少なくありません。
 何より、がれきの撤去や被災家屋の解体、道路などのインフラ復旧が急務です。しかし、現実には県外の大手ゼネコンなどが参入している事例が多いと見られます。吉田正さんの妻の初枝さんは「がれきの処理にしても、地元を飛び越し、国がどんどん大手に仕事を回しているというのが、もっぱらのうわさです」と指摘。正さんも「行政は『白米千枚田(世界農業遺産)を復旧させ、観光客を呼び寄せたい』と宣言しているが、順序が違うのでは」と憤ります。
 「観光地やインフラを復旧させても、商売が戻らなければ、人は去るばかりで戻ってこない。地元に仕事を回し、商売を立て直すことこそ、復旧・復興の早道です」

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