「自主申告権を守り、発展させよう!」―。確定申告に向け、確定申告相談会や自主計算を進める班会が各地の民主商工会(民商)で始まりました。4月には、納税者の自主申告権に対する税務当局の不当な介入をもたらしかねない「税務相談停止命令制度」の施行が決まっています。申告納税制度を守り、自主計算・自主申告運動をこれまで以上に推進することが求められています。役員や会員の取り組みを追いました。
【大阪・摂津民商】
独自の計算書を活用 対面から班会方式に
「去年1年間のレシートや領収書を全部、整理してきたよ」
こう話しながら大阪・摂津民商の相談会にやって来たのは、Oさん=タイル工。紙袋の中からテーブルの上に、レシートの束をドサッと取り出しました。1カ月ごとの束には、「ガソリン代」「高速代」「道具代」など経費の内訳と、その小計もメモしてあります。サポートを担当する役員の一人=建設=が応じます。
「すごい。今回は頑張ったんだね。でも、一度に全部はできない。まずは1月分からやっていきましょう。要領が分かったら、続きは自宅で続けてくださいね」
根気よく説明し
摂津民商の役員会では、2022年ごろから「会員に対し、日常的な自主計算運動を呼び掛けよう」と議論してきました。
申告期の班会では、「たまった領収書をそのまま持ってくる」という人が少なくありません。それを無くすにはどうするか―。そこで、順を追って作成できる「月単位の収支計算書」を民商で独自に用意。担当役員がパソコンで作成して増刷し、会員に配っています。
「『勘定科目が分からない』と言う会員も多い。計算書は思い切り単純化してみました」と作成した役員。Oさんはこの日、計算済みの小計を基に、自ら計算書に記入していきました。「道具代ってどこに書くの?」「消耗品費だね」「消費税の10%、8%の違いが分からない」…。慣れるまで、根気よく説明が続きます。
1月分の計算が終わったところで、今度はOさんが一人で2月分の記入に挑戦。無事終わったところで、作業を自宅に持ち帰ることになりました。
電車で税務署へ
会長の坂本雅義さん=建築=は、「昨年1年間で、自主記帳に対する会員の姿勢が大きく変化した」と語ります。最大の要因は、昨年10月に導入が強行された消費税インボイス(適格請求書)制度。「これまで関係なかった人も、消費税申告が必要になっている。私も最近、狭小地を車2台用の駐車場にする小さな契約でもインボイスが絡んでくることを知り、びっくりしました」
民商はこれまで、婦人部の記帳交流会「GAKU」や簿記学校、「半年決算交流会」などを継続してきました。
今回の確定申告期では、新たな挑戦も。その一つが、申告準備では、一対一の「対面方式」ではなく、役員を中心にみんなで教え合おうと、21年から3年かけて取り組んできた「班会方式」をさらに徹底すること。そして、3・13重税反対全国統一行動への参加促進です。3・13も、この3年間、「班会形式」の相談会を行う中で参加を呼びかけ、以前は50人程度の参加だったものが21年には150人、23年には170人と増えています。
もともと管轄の吹田税務署が摂津市外(吹田市)にあるため、「集会には参加しても、税務署の集団申告にまで足を運ばない人が多い」という傾向も。「税務署まで行くことで、多くの会員が自主申告権の行使を実感できます」と、坂本さんは強調します。
「今年は、何百人もの仲間で電車に乗り、税務署に向かおう。そんな話をしているんですよ」
政治変えないと
「何十年も商売を続けてきたが、民商のおかげで、ようやく帳面を付け始めた」という人も少なくありません。Iさん=自動車鈑金・土木=も、その一人です。びっちり書き込まれた大学ノートを手に、「記録し始めたのは、令和2(2020)年くらいからかな。全部ごちゃ混ぜだけど、ともかく書き込むようになった」と話します。
Iさんが書いた文字と数字を一緒にのぞき込みながら、副会長の後藤三男さん=食品卸=がアドバイス。「読めない字もあるけど、しっかり書いているのはすごい。生活費と経費を書き分け、何を買ったのかもメモすれば、もっと自分の商売の状態が見えるようになるよ」
この日、親会社から迫られてインボイスを登録し、「税金の計算の仕方がどう変わるのか知りたい」と会員=大工=がやって来ました。2時間ほどの相談を終えると、すっきりした表情に。「自分の納める税金は自分で決める」という考えに初めて触れ、驚いたと言います。
「とても勉強になったわ。仲間にも入会を勧めたい。まだ、子どもも小さい。こんなにたくさんの税金や国民健康保険料を払うことに矛盾を感じる。税金の使い方を変えるには、政治を変えないと駄目なんだね。少し政治に興味を持ってきましたよ」
【新潟・魚沼民商】
調査で是認勝ち取る 記帳申告交流会開く
新潟・魚沼民商は1月14日、会員経営の「たもん荘」(南魚沼市)を会場に、約30人が参加して「新春の集い」を兼ねた「記帳申告交流会」を開催しました。
交流会では冒頭、昨年発生した税務調査の経験を基に、小出支部のTさん=左官=が発言。「調査をしたい」と税務署から突然連絡があった時の驚きと、「夜中に目が覚めることもあった」と当時の不安を振り返り、民商の仲間と共に乗り越えていった経緯を説明しました。「何一つ、やましいところは無かったし、仲間がいたから署員の質問にも堂々と答えることができた」と強調。12月11日に「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」(是認通知)を受け取ったことを報告すると、大きな拍手が起きました。
集団申告が大事
意見交流では、ここ数年、Tさんが3・13統一行動に参加できていなかったことにも、参加者から言及がありました。「3・13の集団申告に参加することが大事。そのことが不当な税務調査をはね返す力になる」「魚沼民商では、集団申告に参加した人のところで税務調査は発生していない」「私も税務調査で35万円を追徴されたことがあり、それをきっかけに入会し、それからずっと民商だ」など、自主申告運動の大切さや民商の存在を再確認する機会になりました。
魚沼民商ではこの間、1泊2日で「記帳申告サポーター講座」を開き、自主計算・自主申告運動を支える支援者の育成にも尽力。パソコン記帳講座を支部ごとに開く取り組みも、年々広がりを見せています。