地方では車は生活必需品 格安で住民の「足」支える中古車販売店 無金利の分割払いにも対応|全国商工新聞

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 地方都市では、一人一台の自動車保有が当たり前です。一方で、失業や病気などで困窮し、必需品の自動車を手にすることが難しい人たちがいます。富山民主商工会(民商)の黒崎忍会長は「困っている人を助けたい」と、中古の軽自動車を諸費用込みで20万円で販売したり、ローンが組めない人に自社で無金利の分割払いに応じたりしています。「信頼関係を大切に、人に愛される商売を」がモットーの黒崎さんに、低価格で中古車を販売する思いを聞きました。

黒崎さん夫妻

 黒崎さんが経営する「SKファミリーオート」は、富山市内に3カ所、県北西部の氷見市に1カ所の展示場を設け、常時150台ほどの在庫を抱えて営業しています。妻の直子さんが主に経理を行い、従業員は4人。月30台ほどを販売しますが、その7割が諸費用込み50万円以下の低価格車です。

中古車の展示場

販売に特化し価格を抑える

 「いま、新車価格がものすごい値上がりで、若い人たちには、手が届かない。ほとんどが残価設定型のクレジットを組まされている」と言います。「学生さんが4年間だけ使いたいと、うちの車を買ってくれます。昔と比べて、車にこだわりを持つ人も減り、道具として使えればいいという人も増えている。退職者を中心にローンを組みたくない人もいる」と需要の変化に機敏に対応しています。
 「うちは買い取りと販売オンリーの商売をしています。同業者の多くは板金や保険代理なども兼業していますが、うちは全て外注に任せています」。というのも、ビッグモーター問題で明らかになったように、損害保険会社は大手代理店の手数料ポイント率を高く設定する一方、中小代理店の手数料率は低く抑えるという不公正な取引があるからです。
 販売に特化することで効率よく上げた利益を原資に、「車がないと仕事がない…仕事がないとお金がない…お金がないと車が買えない…」という負のスパイラルを断ち切る思いで、経済的困難を抱えるなどローンが使えない人に自社で無金利の分割払いにも応じ、返済が遅れても、事情を聞いて柔軟に対応するなど、地域に無くてはならない中古車店となっています。

両親は頼れず懸命に働いて

 黒崎さんが、こうした商売手法に至ったのには、生い立ちも大きく関わっています。
 1971年に氷見市内で生まれた黒崎さん。両親はさまざまな事情から、子育てを十分行える状況になく、子どもの頃は、ほとんど親の顔を見ずに育ちました。中学2年からは新聞配達を始め、頑張って働けばお金をもらえるということを肌で学びました。
 氷見市内の高校の漁業科に進みましたが、3年時に遠洋マグロ漁船での4カ月の研修を終えて戻ってくると、両親は失踪しており、高校を退学せざるを得なくなりました。
 「親は頼りにならなかったので、17歳から、さまざまな仕事をして何とか生きてきました。その中で、本当にいろいろな人と関わって、助けられたり、助けたりの経験を積みました」
 25歳で現在の中古車販売会社を立ち上げます。「20代前半の頃、利益の出る仕事は何かと考えて、社会でも必要とされるものとして車の商売にしました」

トラブルでも相手を恨まず

 もう一つのこだわりが無借金経営です。「金融機関からお金を借りて、設備を整えて開業するという考え方もあると思います。でも、もし利益が出なくて返済できなければ、そこで終わってしまう。人の信用を失ったら、商売はできない」と信用第一を強調します。
 「人脈は財産です。若い頃からのつながりを切らさず、携帯電話のメモリーがいっぱいになるほどです。いろいろトラブルに巻き込まれることはありますが、そうした時でも相手を恨まず、許す姿勢を持つことで、結果的に商売が広がっています」
 25歳で、高校の2年後輩だった直子さんと交際を始め、29歳で結婚。30歳で紹介されて民商に入会しました。「取引先の板金屋さんから頼まれて、付き合いで入会したら、いつの間にか会長に。若手会員を増やして活動を活発化したいと考えているところです」
 売り上げの50%がインターネット経由で、中心になりつつあります。それでも「地元の人に喜ばれる商売をしっかり続けることで、変化に対応していきたい」と、新たなサービスにも挑戦を始めています。
 「月3万円で軽自動車を貸し出すサブスクリプションサービスを始めました。大手ディーラーでは別料金が発生する事故や故障の際の費用も込みで、ガソリンとエンジンオイル代以外は負担なしというサービスです。もうけ半分、人助け半分ですが、なんとか軌道に乗せたいですね」と笑顔で語りました。

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